心・血管疾患及び脳血管疾患の公務上災害の認定について
(令和3年9月15日職補―266)
(人事院事務総局職員福祉局長)
 
 
 
 標記については、平成13年12月12日勤補―323により定めた心・血管疾患及び脳血管疾患の公務上災害の認定指針(以下「平成13年認定指針」という。)によって行うこととしてきましたが、その後の医学的知見等を踏まえ、判断基準の一層の具体化・明確化等を行い、別紙「心・血管疾患及び脳血管疾患の公務上災害の認定指針」のとおり定めたので、今後はこれによってください。これに伴い、平成13年認定指針は廃止します。
 なお、本指針は、公務に起因して心・血管疾患及び脳血管疾患を発症した職員等に対し補償等を実施するためのものですが、このような疾患が公務に起因して発症しないように努めることがより重要です。各職場の管理者等の関係者においては、「過労死等事案の分析結果について(通知)」(令和3年3月3日職職―38及び職補―37)も踏まえ、常に職員の健康状態の把握や健康管理に努めるとともに、特に負荷の高い業務に従事している職員に対する勤務時間管理の徹底や体制面での配慮を行うなど、過労死等の防止に一層取り組んでいただくようお願いします。
 
以   上
 
別紙
心・血管疾患及び脳血管疾患の公務上災害の認定指針
1 心・血管疾患及び脳血管疾患を公務上の災害と認定するに当たっての基本的な考え方
⑴ 心・血管疾患及び脳血管疾患(負傷に起因するものを除く。以下同じ。)を公務上の災害と認定するに当たっては、発症前に、次のいずれかに該当したことにより、医学経験則上、心・血管疾患及び脳血管疾患の発症の基礎となる病態(血管病変等)を加齢、一般生活等によるいわゆる自然的経過を超えて著しく増悪させ、心・血管疾患及び脳血管疾患の発症原因とするに足る強度の精神的又は肉体的な負荷(以下「過重負荷」という。)を受けていたことが必要である。
ア 通常の日常の業務(被災した職員(以下「本人」という。)が占めていた官職に割り当てられた職務のうち、正規の勤務時間内に行う日常の業務をいう。以下同じ。)に比較して特に量的に又は質的に過重な業務に従事したこと。
イ 業務に関連してその発生状態を時間的、場所的に明確にし得る異常な出来事・突発的な事態に遭遇したこと。
⑵ 過重負荷を受けてから心・血管疾患及び脳血管疾患の症状が顕在化するまでの時間的間隔が医学上妥当と認められることが必要である。通常は、過重負荷を受けてから24時間以内に症状が顕在化するが、症状が顕在化するまでに数日を経過する症例があることに留意すること。
 ここで症状の顕在化とは自他覚症状が明らかに認められることをいい、数日とは2日から3日程度をいう。
⑶ 過重負荷を評価するための期間は、個別案件ごとに異なるものであるが、長期間にわたる疲労の蓄積等も考慮する観点から、発症前6か月間程度となる場合があることに留意すること。
⑷ 業務の過重性を評価するに当たっては、4に掲げる調査事項の内容がその評価要素であるので、迅速、かつ、適正に調査し、その結果を業務従事状況、業務環境等を基礎とし、3に掲げる着眼点を踏まえ、医学経験則に照らして、総合的に評価して判断すること。
 なお、業務量が3⑴アの(ア)から(ウ)のいずれかの水準に至らない場合であっても、業務量以外の要因も含めて総合的に評価した結果、業務の過重性が認められる場合があることに留意すること。
⑸ 本人が素因又は基礎疾患を有していても、日常の業務を支障なく遂行できる状態である場合は、公務上災害の認定に当たっては、業務の過重性が客観的に認められるか否かにより判断して差し支えないこと。
2 本認定指針の対象とする疾患
 本認定指針が認定の対象とする心・血管疾患及び脳血管疾患(以下「対象疾患」という。)は、次に掲げるものをいう。
⑴ 心・血管疾患
ア 狭心症
イ 心筋梗塞
ウ 心停止(心臓性突然死を含む。)
エ 重症の不整脈(心室細動等)
オ 重篤な心不全
カ 肺塞栓症
キ 大動脈解離
⑵ 脳血管疾患
ア くも膜下出血
イ 脳出血
ウ 脳梗塞
エ 高血圧性脳症
3 過重負荷を判断するための着眼点
⑴ 1⑴アの「通常の日常の業務に比較して特に量的に又は質的に過重な業務」とは、次に掲げる業務等、通常に割り当てられた業務内容等に比較して特に過重であると客観的に認められるものをいい、その判断に当たっては、業務量(勤務時間、勤務密度)に加え、業務内容(難易度、精神的緊張の大小、責任の軽重、強制性・裁量性の有無等)、業務形態(早出・遅出等不規則勤務、深夜勤務、休日勤務等)、業務環境(寒冷、暑熱等)等を総合的に評価すること。
ア 業務の量的要因(勤務時間、勤務密度)に関するもの
(ア) 業務上の必要により、発症前1週間程度に、継続して深夜時間帯に及ぶ超過勤務を行うなど特に過度の長時間勤務を行った場合であって、その勤務密度が通常の日常の業務と比較して同等以上であるとき
(イ) 業務上の必要により、発症前1か月間に正規の勤務時間を超えて100時間程度の超過勤務を行った場合であって、その勤務密度が通常の日常の業務と比較して同等以上であるとき
(ウ) 業務上の必要により、発症前2か月間ないし6か月間にわたって正規の勤務時間を超えて1か月当たり80時間程度の超過勤務を継続的に行った場合であって、その勤務密度が通常の日常の業務と比較して同等以上であるとき
イ 業務の質的要因に関するもの
(ア) 対外折衝等で著しい精神的緊張を伴うと認められる業務に相当程度の期間従事した場合
(イ) 制度の創設・改廃、大型プロジェクトの企画・運営、組織の改廃等で特に困難と認められる業務に相当程度の期間従事した場合
(ウ) 暴風雨、寒冷、暑熱等の特別な業務環境の下での業務を長時間にわたって行っていた場合
(エ) 特別な事態の発生により、日常は行わない強度の精神的又は肉体的な負荷を伴う業務の遂行を余儀なくされた場合
 なお、イ(ア)及び(イ)の「相当程度の期間」については、おおむね3か月間程度を目安としつつ、業務量、業務内容等を勘案して判断すること。
⑵ 1⑴イの「異常な出来事・突発的な事態」とは、通常起こり得るものとして想定できるものを著しく超えた異常な出来事・突発的な事態で強度の驚愕、恐怖等の精神的又は肉体的な負荷を引き起こすことが経験則上明らかであるものをいい、具体的には、暴風雨、洪水、土砂崩れ、大地震等の特異な事象のほか、突発的な事故、航海中の行方不明、不祥事等の突発的に生じた予測困難な非常事態・緊急事態などが該当する。
 また、「業務に関連して・・・遭遇した」とは、日常業務を遂行中に異常な出来事等に接したことのほか、その緊急対応、事後対応等のための業務に従事し、強度の精神的又は肉体的な負荷を短時間ながら強いられた場合を含むものである。
4 調査事項
⑴ 基礎的事項
ア 本人の氏名、性別及び生年月日
イ 所属組織名、職名及び俸給表(級、号俸)
ウ 所属組織の組織図又は機構図
エ 本人の人事記録
⑵ 災害発生の状況等
ア 災害発生の概況(発生日時、傷病名、場所、発症状況及び入院状況等)
イ 災害発生現場の見取図及び写真
ウ 本人又は家族の申立書
⑶ 災害発生前の業務従事状況等(原則として、職務命令権者である上司等から業務従事状況に係る報告書を提出させること。)
ア 本人の属する組織全体の業務状況及び分担状況並びに上司、部下等の病休、欠員等の状況
イ 本人の通常の日常の業務内容と災害発生前の業務内容のそれぞれの詳細及び比較
ウ 発症前日から直前までの勤務状況の詳細(この間の業務が発症に最も密接な関連を有するので、特に過重であると客観的に認められるか否か、詳細に調査すること(別添1―1)。)
エ 発症前1週間の勤務状況の詳細(発症前1週間程度に過重な業務が継続している場合には著しい増悪に特に関連があると認められるので、詳細に調査すること(別添1―1)。)
オ 発症前1か月間の勤務状況の詳細(上記エに準ずる過重な業務が発症前1か月間継続している場合又はこれに相当する場合には、著しい増悪に関連があると認められるので、詳細に調査すること(別添1―2)。)
カ 発症前6か月間の勤務状況(必ずしも全期間について詳細に調査する必要はなく、相当程度の精神的又は肉体的な負荷を与えたと認められるものについて重点的に調査すること。その際、著しい疲労の蓄積や過度のストレスの持続がある場合には、著しい増悪に関連があると認められるので、疲労の蓄積等があったかどうかという観点からも調査すること。また、発症前6か月間より前から相当程度の精神的又は肉体的な負荷を与えたと認められる業務が引き続いている場合は、その開始時期等についても調査すること(別添1―3)。)
キ 上記ウからカまでの各期間における超過勤務の時間数及びその業務内容等(別添1―1から1―3)
ク 発症前6か月間における「対外折衝等で精神的緊張を伴う業務」、「制度の創設、組織の改廃等で困難な業務」、「寒冷、暑熱等特別な業務環境等の下での業務」、「特別な事態の発生により必要となった日常は行わない業務」、「早出、遅出等の不規則勤務」、「17時間30分を超えるような拘束時間の長い勤務」、休日勤務、「勤務間インターバルの短い勤務」、深夜勤務、交替制勤務、宿日直勤務、「出張等勤務官署外における移動を伴う勤務(海外出張にあっては、時差の程度を含む。)」の状況の詳細(これらの勤務等がある場合は、従事した期間、具体的な業務内容等について調査すること。また、調査に当たっては、「精神疾患等の公務上災害の認定について(平成20年4月1日職補―114人事院事務総局職員福祉局長)」の別紙「精神疾患等の公務上災害の認定指針」の別表「公務に関連する負荷の分析表」の出来事例、業務例も参考にすること。)
ケ 業務に関連して異常な出来事・突発的な事態に遭遇した場合は、その内容及び原因(必要に応じて消防署、気象官署等の証明及び目撃者等の証言等)
コ 自宅等で論文、報告書等を作成していたとする場合は、その理由及び成果物の確認
サ 単身赴任の状況
シ 通勤の実態(片道の通勤時間がおおむね1時間30分以上である場合に限る。)
ス 年次休暇等の取得状況
⑷ 発症時の医師の所見等
ア 主治医の診断書・意見、診療録・診療要約、血圧検査、血液生化学検査等諸臨床検査、心電図検査、超音波検査・X線写真・冠動脈造影・CT・MRI等画像検査等
イ 解剖所見
⑸ 健康状況等
ア 本人の身長・体重
イ 発症前の本人の愁訴及び前駆症状等
ウ 定期健康診断等の記録、指導区分及び事後措置の内容
エ 本人の素因、基礎疾患及び既存疾患並びにその治療状況・療養経過
オ 上記エに係る主治医の診断書・意見、診療録・診療要約、血圧検査、血液生化学検査等諸臨床検査、心電図検査、超音波検査・X線写真・冠動脈造影・CT・MRI等画像検査等
⑹ 日常生活
ア 発症前1週間の生活状況の詳細(特に日常と異なった出来事等の有無等)
イ 発症前1か月間の生活状況
ウ 発症前6か月間の生活状況(必ずしも全期間について詳細に調査する必要はなく、相当程度の精神的又は肉体的な負荷を与えたと認められるものについて重点的に調査すること。)
⑺ 趣味、し好、家族状況等
ア 趣味、スポーツ等
イ し好品(酒、タバコ等)及びその程度
ウ 家族状況、家族歴
エ 薬の服用の状況及び内容
⑻ その他業務環境等に関する事項
ア 発症時の事務室、勤務場所等の見取図、写真等及び騒音、照度、温度等の業務環境
イ 発症日の気温、湿度等の気象条件
5 認定手続き等
 対象疾患に係る事案の迅速、かつ、適正な認定に当たっては、上記4に掲げた諸事実等を発症直後に収集することが極めて重要であるので、過重負荷を受けて発症した可能性があると思料したものについては、発症直後に別添2の対象疾患に係る簡易認定調査票により点検を行うものとする。
 その結果、当該事案が公務上の災害の可能性がある場合には、「災害補償制度の運用について(昭和48年11月1日職厚―905人事院事務総長)」第二の2の手続により認定を行う必要があるので、「特定疾病に係る災害の認定手続等について(平成20年4月1日職補―115人事院事務総局職員福祉局長)」の定めるところにより、当該簡易認定調査票を用い、所要の報告を行うものとする。
 なお、対象疾患以外の心・血管疾患及び脳血管疾患に係る事案についても、同様とする。
 
以   上
別添1-1( PDF
 
別添1-2( PDF
 
別添1-3( PDF
 
別添2( PDF
Back to top