第1編 《人事行政》

【第3部】 平成28年度業務状況

第3章 職員の給与

第1節 給与等に関する勧告と報告

1 給与勧告制度の仕組み

(1)給与勧告制度の意義と役割

国公法第28条は、国家公務員の給与について、国会により社会一般の情勢に適応するように随時変更することができるとしており、人事院には、その変更に関して勧告をすることを怠ってはならないとするとともに、国会及び内閣に対し、毎年、少なくとも1回、俸給表が適当であるかどうかについて報告を行う責務を課している。

国家公務員は、その地位の特殊性及び職務の公共性に鑑み、憲法で保障された労働基本権が制約されており、人事院の給与勧告は、労働基本権制約の代償措置として、国家公務員に対し、社会一般の情勢に適応した適正な給与を確保する機能を有するものである。給与勧告においては、従来より、給与水準の改定のみならず、俸給制度及び諸手当制度の見直しも行ってきている。

また、国公法第3条は職員の利益の保護を人事院の基本的役割としており、勧告を通じて国家公務員に適正な処遇を確保することは、職務に精励している国家公務員の士気の向上、公務における人材の確保や労使関係の安定にも資するものであり、能率的な行政運営を維持する上での基盤となっている。

(2)民間準拠による給与水準の改定

人事院の給与勧告は、国家公務員に対し、社会一般の情勢に適応した適正な給与を確保する機能を有するものであり、国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させること(民間準拠)を基本としている。民間準拠を基本とするのは、国家公務員も勤労者であり、勤務の対価として適正な給与を支給することが必要とされる中で、公務においては、民間企業と異なり、市場の抑制力という給与決定上の制約が存しないこと等から、その給与水準は、その時々の経済・雇用情勢等を反映して労使交渉等によって決定される民間の給与水準に準拠して定めることが最も合理的であると考えられることによる。

国家公務員の給与と民間企業従業員の給与との比較においては、主な給与決定要素を同じくする者同士の4月分の給与額を対比させ、精密に比較を行っている。また、「職種別民間給与実態調査」は、企業規模50人以上、かつ、事業所規模50人以上の事業所を調査対象として実施し、これらの事業所の民間企業従業員の給与との比較を行っている。このような比較方法及び調査対象としている理由は、以下のとおりである。

ア 同種・同等比較

給与は、一般的に、職種を始め、役職段階、勤務地域、学歴、年齢等の要素に応じてその水準が定まっていることから、これらの要素が異なれば、給与水準も異なることとなる。したがって、公務と民間企業の給与を比較する場合、両者の給与の単純な平均値で比較することは適当でなく、給与決定要素を合わせて比較(同種・同等比較)することが適当である。

人事院が行っている民間給与との比較は、一般の行政事務を行っている国家公務員(行政職俸給表(一)適用職員)とこれに類似すると認められる事務・技術関係職種の民間企業従業員をその対象とした上で、主な給与決定要素である役職段階、勤務地域、学歴、年齢を同じくする者同士の4月分の給与額を対比させ、国家公務員の人員数のウエイトを用いて比較(ラスパイレス方式)を行っている。すなわち、個々の国家公務員に、役職段階など主な給与決定要素が同一である民間企業従業員の給与額を支給したと仮定して算出される公務全体の給与支給総額と、現に国家公務員に支給している給与支給総額との比較を行っている。

具体的な比較に当たっては、それぞれの給与決定要素を一定の区分に細分化し、各給与決定要素から一区分ずつを取り出して作成した組合せ(例えば、役職段階が係員、勤務地域が地域手当1級地(東京都特別区)、学歴が大学卒、年齢が24歳・25歳)ごとの国家公務員の平均給与額と、これと条件を同じくする民間企業従業員の平均給与額を用いることとしている。

イ 調査対象

国家公務員との給与比較の対象となる民間企業従業員については、現行の調査対象企業規模より小さい規模の企業の従業員も対象にすべきとの議論がある一方、国の公務の規模等の観点から、規模が大きい企業の従業員のみと比較すべきとの議論もある。また、国の行政がその課題に的確に対応していくためには、民間企業等との人材確保における競合がある中で、有為な人材を計画的かつ安定的に確保・維持する必要があり、そのような観点を踏まえた適正な給与水準の確保の重要性についての指摘もある。

調査対象企業規模については、民間企業従業員の給与をより広く把握し国家公務員の給与に反映させる観点から、平成18年にそれまでの100人以上から50人以上に引き下げた。企業規模50人以上の多くの民間企業においては、公務と同様、部長、課長、係長等の役職段階を有しており、公務と同種・同等の者同士による給与比較が可能であることに加え、現行の調査対象となる事業所数であれば、実地による精緻な調査が可能であり、調査の精確性を維持することができる。事業所規模50人未満の事業所については調査対象としていないが、これは、事業所規模50人未満の事業所を調査対象とすると、事業所数が増加してこれまでのような実地調査を行うことができなくなり、調査の精確性を維持することができなくなることに加え、同一企業においては、一般的に、当該企業に勤務する従業員の給与について、当該従業員が勤務する事業所の規模による差を設けていないと考えられることによる。

なお、企業規模50人以上の民営事業所の正社員数は、民営事業所全体の正社員数の63.1%となっている(「平成26年経済センサス基礎調査」(総務省)を基に人事院において集計)。また、国家公務員採用試験(平成27年度の総合職試験及び一般職試験(大卒程度))の内定者を対象としたアンケート調査(人事院において実施)によると、他に内定を得た民間企業の規模は、従業員50人以上の企業が大多数を占めている。(図3-1

「職種別民間給与実態調査」の具体的な方法については、民間企業従業員の給与をより広く把握し国家公務員の給与に反映させるため、産業構造や組織形態等の変化も踏まえつつ、必要な見直しを行ってきている。具体的には、平成18年に前述のとおり調査対象企業規模をそれまでの100人以上から50人以上に引き下げるとともに、比較対象従業員の範囲をスタッフ職に拡大したほか、平成25年に調査対象産業を全ての産業に拡大し、平成26年に比較対象従業員に中間職(職責が部長と課長の間に位置付けられる従業員等)を追加するなどの見直しを行っている。

図3-1 民間給与との比較

(3)民間給与との比較

〔月例給の比較〕

毎年、「国家公務員給与等実態調査」及び「職種別民間給与実態調査」を実施して公務と民間の4月分の給与を精確に把握し、前記のラスパイレス方式により精密に比較を行い、公務員と民間企業従業員の給与水準を均衡させること(民間準拠)を基本に勧告を行っている(図3-2)。

〔特別給の比較〕

特別給については、「職種別民間給与実態調査」により、前年8月から当年7月までの直近1年間の民間の特別給(ボーナス)の支給実績を精確に把握し、これに公務員の特別給(期末手当及び勤勉手当)の年間支給月数を合わせることを基本に勧告を行っている。(図3-2

図3-2 給与勧告の手順

Back to top