第1編 人事行政

第1部 人事行政この1年の主な動き

第1章 適正な公務員給与の確保等

1 勧告・報告

令和元年8月7日、人事院は国会及び内閣に対し、一般職の職員の給与について報告し、給与の改定について勧告を行った。

(1)給与勧告の意義と役割

人事院の給与勧告は、労働基本権制約の代償措置として、国家公務員に対し、社会一般の情勢に適応した適正な給与を確保する機能を有するものである。給与勧告においては、従来より、国家公務員の給与水準の改定のみならず、俸給制度及び諸手当制度の見直しも行ってきている。

労働基本権が制約された国家公務員の給与について、人事院は、労使当事者以外の第三者の立場に立ち、民間給与との精確な比較により国家公務員と民間企業従業員の給与水準を均衡させること(民間準拠)を基本に労使双方の意見を十分に聴きながら、勧告を行っている。勧告が実施され、適正な処遇を確保することは人材の確保や労使関係の安定に資するものであり、能率的な行政運営を維持する上での基盤となっている。

民間準拠を基本に勧告を行う理由は、国家公務員も勤労者であり、勤務の対価として適正な給与を支給することが必要とされる中で、公務においては、民間企業と異なり、市場の抑制力という給与決定上の制約が存しないこと等から、その給与水準は、その時々の経済・雇用情勢等を反映して労使交渉等によって決定される民間の給与水準に準拠して定めることが最も合理的であると考えられることによる。

(2)民間給与との較差に基づく給与改定等

ア 月例給

人事院は給与勧告を行うに当たり、毎年、「国家公務員給与等実態調査」及び「職種別民間給与実態調査」を実施し、主な給与決定要素を同じくする者同士の4月分の給与額を対比させ、精密に比較を行っている。「職種別民間給与実態調査」は、企業規模50人以上、かつ、事業所規模50人以上の事業所を調査対象として実施し、これらの事業所の民間企業従業員の給与との比較を行っている。

給与は、一般的に、職種を始め、役職段階、勤務地域、学歴、年齢等の要素を踏まえてその水準が定まっていることから、国家公務員の給与と民間企業従業員の給与との水準比較については、両者の給与の単純な平均値ではなく、給与決定要素を合わせて比較(同種・同等比較)することが適当である。

また、調査対象については、企業規模50人以上の多くの民間企業は公務と同様、部長、課長、係長等の役職段階を有しており、公務と同種・同等の者同士による給与比較が可能であることに加え、現行の調査対象事業所数であれば、実地による精緻な調査が可能であり、調査の精確性を維持することができること等から、現行の調査対象が適当である。

このような考え方の下、令和元年も、全国の民間事業所のうち、企業規模50人以上、かつ、事業所規模50人以上の事業所を調査対象とし、その事業所に勤務する従業員の春季賃金改定後の給与実態を把握するため、「職種別民間給与実態調査」を行った。また、「国家公務員給与等実態調査」においては、給与法が適用される常勤職員約25万人の給与の支給状況等について全数調査を行った。

両調査により得られた平成31年4月分の一般の行政事務を行っている国家公務員(行政職俸給表(一)適用職員)とこれに類似すると認められる事務・技術関係職種の民間企業従業員の給与について、主な給与決定要素である役職段階、勤務地域、学歴、年齢を同じくする者同士の給与を対比させ、精密に比較(ラスパイレス方式)を行い、官民較差を算出したところ、国家公務員給与が民間給与を平均387円(0.09%)下回っていたことから、民間給与との均衡を図るため、月例給の引上げ改定を行うこととした。

イ 特別給

平成30年8月から令和元年7月までの1年間において、民間事業所で支払われた特別給は、年間で所定内給与月額の4.51月分に相当しており、国家公務員の期末手当・勤勉手当の年間の平均支給月数(4.45月)が民間事業所の特別給の支給割合を0.06月分下回っていたことから、支給月数を0.05月分引き上げ、4.50月分とすることとした。

ウ 給与改定の内容

(ア) 俸給表

一般的な行政事務を行っている職員に適用される行政職俸給表(一)について、平成31年4月に遡って平均0.1%引き上げることとした。具体的には、民間の初任給との間に差があること等を踏まえ、総合職試験及び一般職試験(大卒程度)に係る初任給について1,500円、一般職試験(高卒者)に係る初任給について2,000円、それぞれ引き上げることとし、30歳台半ばまでの職員が在職する号俸までについて、所要の改定を行うこととした。

その他の俸給表については、行政職俸給表(一)との均衡を基本に所要の改定を行うこととした。なお、専門スタッフ職俸給表及び指定職俸給表については、今回の俸給表改定が若年層を対象としたものであることから改定を行わないこととした。

(イ) 特別給

前記のとおり、国家公務員の期末手当・勤勉手当の年間の平均支給月数が、民間事業所の特別給の支給割合を0.06月分下回っていたことから、支給月数を0.05月分引き上げることとした。引上げ分の期末手当及び勤勉手当への配分に当たっては、民間の特別給の支給状況等を踏まえつつ、勤務実績に応じた給与を推進するため、勤勉手当に配分することとした。

(ウ) 住居手当

住居手当について、手当の支給対象となる家賃額の下限は公務員宿舎の平均使用料を参考に設定しているが、宿舎の使用料が引き上げられたことを考慮し、当該家賃額の下限を4,000円引き上げることとした。また、この改定により生ずる原資を用いて、民間における住宅手当の支給状況等を踏まえ、最高支給限度額を1,000円引き上げることとした。

なお、これに伴い、手当額が2,000円を超える減額となる職員については、1年間、所要の経過措置を講ずることとした。

エ 給与制度における今後の課題

国家公務員給与について、今後とも、職員の職務・職責や専門性の重視、能力・実績の反映等の観点から引き続き取組を進めていくとともに、民間企業における定年制や高齢層従業員の給与の状況、公務における人員構成の変化及び各府省における人事管理の状況等を踏まえながら、60歳前の給与カーブも含めた給与カーブの在り方について検討を行っていくこととしたい。

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