第1編 人事行政

第2部 グローバル社会を切り拓く国家公務員を育てるために

第3章 国際人材の確保・育成に向けた方策

第1節 求められる国際人材と人事管理の在り方

3 職員の自律的なキャリア形成

人事院が平成29年度の年次報告書第1編第2部において行った意識調査では、30代の職員は、「やりがいのある仕事をすること」や「自分の能力を活かせる仕事をすること」を重視していることが明らかになっている。また、キャリア形成支援として、「育児や介護等、家庭の事情に配慮した人事」、「キャリアの見える化(今後の考え得る複数のキャリアパスの提示など)」、「職員の今後のキャリア形成に関する上司や人事担当者との面談・意向確認」が必要とする意見が多くなっている。

表3 人事院平成29年度年次報告書第1編第2部補足資料 資料1 30代職員調査結果より抜粋
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国際人材の育成のためには様々な研修や職場経験を積ませることが重要である。加えて、一人一人の職員が、これからのグローバル社会を切り拓いていくことのできる国家公務員としてのキャリアを自律的に考えることが重要となる。担当する行政領域に関する専門性を深め、職務外も含めた様々な活動を通じた人的ネットワークを広めることで、多様な価値観を受け入れながら創造的に考え行動することにより新たな価値を生み出していくことが求められる。このため、組織が提供する研修だけでなく、職場外での様々な勉強の機会を捉えて学び続けることが大切であり、その際には、自発的に職務を離れて大学等で修学できる自己啓発等休業制度の利用も考えられる。

これらの育成環境を整えるため、人事当局にはフレックスタイム制の活用等、既に取組が進んでいる働き方改革の更なる推進を通じ、職員の柔軟な働き方を推進して、職員が自律的な活動に使える時間を作っていくことが求められている。また、自らの公務経験を振り返る機会として、キャリア研修などを活用して自分のスキルや資質・能力の傾向を自覚するとともに、公務における自らのキャリアの方向性について考える機会を意図的に設けることも有用と考えられる。

このほか、職員の希望するキャリアを実現する可能性を高めたり、育児・介護等のライフイベントの状況を踏まえながら自らのキャリアを考えることができるよう、既に一部の府省で行われている全職員を対象とした海外ポストへの省内公募などの施策を更に進めていくことも職員のキャリア形成に資するものと考えられる。

民間企業においては、職員が自らのキャリアを考えながら組織にも貢献するための機会として社内公募を活用したり、あえてレベルの高い困難を伴う研修や、組織内で職員が自主的に教え学び合う場を設ける取組が行われている。職員間のノウハウの承継と職員の自律的なキャリア形成を促すためには、人事当局がこのような支援をしていくことが有効であり、職員同士の刺激から国際感覚のかん養や気概と志の醸成が期待できる。

○ 民間企業における取組例(研修を組み合わせたキャリア形成支援)

研修と社内公募がセットになった「研修型キャリアマッチング制度」を導入している。

応募者はカウンセラーの面談、面接をパスすると一定期間(1~5か月程度)人事部の所属となり、従来の仕事から離れて応募先に必要なスキルを身に付けるための研修を受けることになる。未経験の部門についても応募が可能であり、新たな職種へチャレンジを希望する社員の支援につながる。ただし、人事部の所属となった応募者が、元の所属に戻ることは想定されておらず、応募者にとっては背水の陣となることから、覚悟を持って新たな分野について学習するため研修効果は非常に高い。

社員が抜けることとなった部門をどうするのかという課題がある一方、社員一人一人が自分のキャリアについて考えることができる、研修部門と相談部門の両輪による総合的なキャリア形成支援制度として、多くの社員に利用されている。

○ 民間企業における取組例(社員同士のネットワーク活動支援)

社員が持っている技術やスキルを社員が自主的に登録し、それをカテゴリー別に見える化したスキルマップを開発し、グループ全体の技術やスキルの保有状況を把握するだけでなく、社員同士のネットワーク活動に活用することを支援している。社員はスキルマップに登録したスキル分類の活動に参加し、参加に伴う旅費などの活動に必要な費用の一部は人事部が負担している。複数のスキル間での技術交流や、部門横断的な視点での問題解決活動、社外見学会などの多様な活動が実施され、海外での活動の展開も活発化している。これらの活動は、社員の視野の転換や拡大、情報収集や共有の場として機能しているだけでなく、明確な結果や目的を求めないというトップからのコミットメントもあって社員のチャレンジを促す場として、社員のサードプレイス(自宅や職場から離れた第三の居場所)となり、会社を支える文化にもなっている。

○ 民間企業における取組例 (自律的にキャリアを考える風土の醸成)

社員の人財マネジメントに関わる情報をデータベース化して統合し、上司が部下の受けた研修、スキルやキャリアについての希望を見られるとともに、部下も自分で受講したい研修を探して、上司と相談しながら受講することができるようにしている。従来の研修は、総務部などが集めて一括で行うのが一般的であったが、最近はeラーニングにより場所を考えることなく、職員自ら希望に応じて申し込めるようにしている。また、将来の幹部を目指す若手職員を対象とした海外留学や課長以下のポストの一部を公募するなど、職員に自律的な学習を促す仕組みを導入することにより、自分自身のキャリアについて受け身になるのではなく、自律的・自己選択的に考え、自ら手を挙げるような風土を作っている。

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