第1編 人事行政

第2部 公務職場の魅力と課題を考える~国家公務員の意識調査データを通して~

第3章 調査結果から見た公務職場の魅力と課題~公務職場の魅力と活力を高めるために~

第2節 公務職場の魅力と課題

3 働き方改革とワーク・ライフ・バランス

働き方改革の推進は、仕事以外の時間を充実させることにもつながり、個々の職員の活力を高めるものであるが、前節で見たように、今回の意識調査では、公務職場における人員配置や業務効率化などについて職員は特に重要な課題と認識していることが改めて確認された。

(1)業務効率化への対応

【組織マネジメント】の領域に属する質問項目である「業務量に応じた人員配置」、「業務の効率化」について職制段階別に見ると、係長級を中心に否定的な傾向が見られた。前節でも紹介したとおり、「業務量に応じた人員配置」は平成28年度調査と比較して平均値が低くなっており、業務量に比して人員が少ないと感じている職員が、特に係長級を中心に増えていることが確認された。この質問項目については本府省庁・本府省庁以外の別で差が見られないことから、公務組織全体の課題となっていると言えよう。

また、長時間労働の是正に関連する【適正な業務負荷】の領域に着目すると、「業務の範囲の明確化」、「業務量の許容度」については、管理職層と係長級では回答傾向に大きな差があり、係長級の方が否定的な傾向が見られた。さらに、この領域に属する質問項目である「ストレスの許容度」、「健康の維持・向上のための取組の推進」について職制段階別に見ると、上記と同様に、係長級の平均値が他の職制段階よりも低くなっている。これらのことから、係長級の職員は実務担当者として分担が明確でない様々な業務を引き受けることで業務量が増加し、それがストレスや健康に影響を及ぼしていることが考えられる。

「業務量に応じた人員配置」、「業務の効率化」といった質問項目が属する【組織マネジメント】の領域は、他の多くの領域と中程度の相関又は強い相関が見られたことから、幹部職員や管理職員が、組織をどのようにマネジメントしていくかは、公務職場全体の満足度や魅力を高めることにつながると考えられる。

(対応方策)

こうした業務負荷の問題を是正する観点から、近年、各府省庁において、業務の効率化・見直しに組織単位で積極的に取り組んでいる。

業務の効率化・見直しは、まずは個々の職員が自身の業務の進め方に無駄がないか点検するとともに、目的や必要性を常に意識しながら業務を進めていく必要がある。

業務は組織として執行するものであることから、業務全体の実態把握や業務の効率化・見直しのための体制を整備し検討を行うに当たっては、組織のトップ層や職場の上司の役割が重要である。管理職員については、人事評価において業務の抜本見直しの取組姿勢が反映されることにもなっており、多くの職員が業務の効率化に取り組んでいる。その際、業務のスクラップ・アンド・ビルドだけでなく、スクラップのみの対応を否定しないこと、すなわち業務の純減を決断することが重要である。その決断が、部下にとっては業務の効率化・見直しに対する組織の「本気度」として伝わるものと考えられる。

今回の意識調査では、業務効率化や人員配置などの観点で、係長級の職員に特に否定的な傾向が見られたが、組織や職場によって事情は異なるものである。したがって、組織マネジメントを担う幹部職員や管理職員は、自らの組織のどのような層にしわ寄せが生じているのか、改めて現状を把握することが重要である。

組織マネジメントに絶対的な解はない。状況に応じて柔軟にケースバイケースで対応していくべきものである。その観点からも、幹部職員や管理職員が特に反省点や失敗事例について共有したり相談したりするなど、幹部職員同士、管理職員同士のヨコのつながりの強化が、組織全体のマネジメント力を高め、魅力ある組織にしていく手掛かりになるものと考えられる。

また、重い業務負荷は職員の健康への影響も懸念されることから、人事担当部局としては、毎年実施しているストレスチェックと、超過勤務時間・在庁時間との関係、今回のような意識調査・満足度調査との関係などを複合的に分析することで、業務負荷を改善する手掛かりを得られると考えられる。さらに、恒常的に長時間労働を行わざるを得ないことが見込まれる部署や職域においては、業務量に応じた定員が確保される必要がある。特に、業務負荷を改善するために大幅な業務効率化を行おうとする場合には、一定の時間や予算・人員を割くなどして業務効率化を推進できる体制を十分に整えた上で進める必要がある。

【コラム】テレワークの実施状況

個々の職員がそれぞれの状況や希望に応じて、多様で柔軟な働き方を可能とする環境整備をすることは、ワーク・ライフ・バランスの観点や、労働生産性の向上、有為の人材の確保等に資するものであり、テレワークはその有効な手段の一つである。

今回の意識調査ではテレワークの実施状況についても聴取しているが、過去1年間にテレワークを行ったと回答した職員は約8割であった。勤務機関区分別に見ると、本府省庁では9割を超えていたのに対して、本府省庁以外では約7割であった。公務におけるテレワークは、この1年余りの間に相当普及したが、その背景には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、国家公務員においてもテレワーク等をはじめとする出勤回避の取組が行われたことが大きく影響しているものと考えられる。

また、今回の意識調査では、テレワークを実施した者に対して、テレワーク時の業務遂行の効率性や上司等とのコミュニケーションについて聴取したが、図3-2のとおり、肯定的な回答は3割から4割にとどまっており、改善すべき課題であることが確認された。テレワークをより実効的なものとするためには、これらの課題を解決していくことが必要となるが、例えばテレワーク時のコミュニケーションの手段として、メールや電話だけでなく、チャットツールやWEB会議の導入など、多様な手段を使い分けることができるような環境整備を推進することにより、効率性の向上につながることが見込まれる。

図3-2 テレワークにおける業務効率化、コミュニケーションについて
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テレワークでは、上司や同僚と空間を共有していないことで、場合によっては、孤独感を抱いたり、長時間パソコンの画面に向かってしまうことも考えられる。テレワークを行う職員に対しては、業務状況の把握の観点だけでなく心身の健康の観点からも、上司や人事担当部局は定期的にコミュニケーションを図ることを心がけるとともに、職員自身も普段から同僚とコミュニケーションを積極的に図るなどして、職場内のつながりを深めることも重要である。

(2)育児、介護、治療等と仕事との両立

意識調査における質問項目「ワーク・ライフ・バランス」については、肯定的な傾向が見られるとともに、平成28年度調査と比べて平均値が高くなっている。特に、男性職員(行政職俸給表(一)が適用される職員のうち、本府省庁に勤務するもの)の平均値は、平成28年度調査では3.64であったが、今回は3.81とさらに高くなっており、意識調査の結果から見ても、男性職員にとって育児との両立がしやすい職場環境に改善しつつあると考えられる。実際、一般職の男性国家公務員の育児休業取得率を見ると、平成28年度は14.5%であったが、令和元年度は28.0%とほぼ倍増している。公務においては、フレックスタイム制などの柔軟な勤務形態や育児休業・介護休暇をはじめとする両立支援制度の整備により、育児・介護と仕事との両立ができるよう取り組んできており、かなりの効果が出ているものと評価できる。

また、「ワーク・ライフ・バランス」に関連する質問項目として「個々の事情に応じた働き方」、「プライベートの時間の確保」があるが、これらについても肯定的な傾向が見られており、育児、介護、通院などの事情を抱える職員にとって、仕事との両立を可能とする各種制度が利用しやすい職場環境にあると考えられる。これらの質問項目は、「健康の維持・向上のための取組の推進」との間で中程度の相関が見られたことから、職員の健康管理に気を配ることとワーク・ライフ・バランスをともに推進することは、職場を一層活性化させ、魅力ある職場にすることにつながると考えられる。

一方で、これらの質問項目について属性別に平均値を見ると、勤務機関区分別では本府省庁で、職制段階別では係長級で、採用区分別では総合職等で他の属性よりもおおむね低い傾向が見られた。このことから、他律的な業務が多いとされる本府省庁の職員や、政策立案や行政サービスの提供に係る業務の最前線を担当する職員を中心に、長時間労働の負担がかかり、プライベートの時間に影響を与えていることがうかがえる。内閣官房内閣人事局が令和2年12月に発表した「在庁時間調査」の結果において、20歳台かつⅠ種・総合職試験で採用された職員は特に在庁時間が長いとされていることからも、おおむね同様の傾向が読み取れる。

(対応方策)

仕事と仕事以外の事情の両立に当たっては、職員が仕事以外で抱える事情は様々であることから、まずは職員自身が計画的に業務に取り組むことや、前記のとおり、業務の効率化の観点からその進め方を自発的に見直していくことが必要である。

その上で、部下を抱える管理職員としては、個々の職員の事情に応じた対応が可能となるよう、上司と部下との信頼関係を構築し、適切なコミュニケーションを図りつつ、上司が部下の事情を把握するよう努めるとともに、職場内において適正に業務を配分していくこと、計画的・積極的な休暇・休業の取得を促すことなどが求められる。特に、男性職員の育児に伴う休暇・休業の取得促進のための取組については、管理職員等の人事評価へ反映することとされており、長期の育児休業も取得できるよう、特に幹部職員や管理職員の意識改革を更に進めることが求められる。

ワーク・ライフ・バランスに関する施策については、一定の効果が出ているものの、本府省庁や係長級の職員を中心に、長時間労働のためワーク・ライフ・バランスが十分に確保されていないという課題が浮かび上がった。本年1月に改正された「国家公務員の女性活躍とワークライフバランス推進のための取組指針」(平成26年10月17日女性職員活躍・ワークライフバランス推進協議会決定)に基づいて、各府省庁が取組を行うとともに、以下の施策を推進していく必要がある。

国家公務員の超過勤務については、平成31年4月から、人事院規則により、超過勤務命令を行うことができる上限を、原則、1年について360時間などと設定しており、各府省庁においては、この規定の下で超過勤務の縮減に取り組むとともに、上限を超えて超過勤務を命じた要因の整理、分析及び検証を行う必要がある。また、過労死等の防止の観点を踏まえ、医師の面接指導による健康確保措置を着実に推進するとともに、勤務間インターバルの確保の在り方等について検討を進めていく必要がある。

男性職員の育児休業に関しては、制度の周知や積極的な取得の奨励、両立支援制度を利用しやすい勤務体制等の工夫など様々な取組が行われており、取得率が年々増加していることからも育児休業取得へのハードルが低くなってきたと言える。他方、令和元年度における一般職国家公務員の育児休業の取得実態を見ると、男性職員の休業期間は「1月以下」が70.9%と最も多く、「3月超12月以下」は12.4%となっているのに対し、女性職員は「3月超12月以下」が38.6%と休業期間に男女で大きな差が生じており、依然として女性が育児の主たる担い手となっていることが分かる。今後は、男女共同参画社会の実現の観点からも、民間における男性の育児休業取得促進に向けた法改正の動きを踏まえ、より長期の育児休業の取得につながるための施策について検討を進めていくことが必要である。

図3-3 一般職国家公務員の育児休業期間の状況
図3-3 一般職国家公務員の育児休業期間の状況のCSVファイルはこちら

また、不妊治療と仕事との両立については、少子化社会対策大綱(令和2年5月29日閣議決定)において、国家公務員について、不妊治療を受けやすい職場環境の醸成等を図っていくこととされている。人事院としては、本年、職員に対する不妊治療と仕事との両立のための職場環境に関するアンケート調査を実施したり、不妊治療のために使用できる休暇等を設けている自治体に対してその使用実態等に関するヒアリングを実施したところであり、今後、アンケートの結果等を踏まえ、必要な取組の検討を進めていくこととしている。

(3)組織における個の尊重

今回の意識調査における【個を尊重する組織】の領域に属する質問項目に着目すると、「異動における適性・育成の考慮」と「転勤や人事異動の納得感」は、平成28年度調査と同様、否定的な傾向が見られた。自身の能力や専門性が人事異動の際に考慮されていないと感じている職員が多く、特に年齢層で言えば30歳台、職制段階で言えば係長級の職員でその傾向が強い結果となった。これらの層の職員は、公務員として育成途上であり、自分の適性や専門性の方向性が定まっていない場合も多く、ライフイベントにおいて転換点を迎えるこれらの層に否定的な傾向が見られたものと考えられる。

職員の士気向上の観点からは、人事異動における本人の事情等への配慮や納得感も重要なものとなる。「異動における適性・育成の考慮」が「府省庁の職場満足度」や「公務の将来性」と中程度の相関が見られることを踏まえると、組織が個々の職員に寄り添っていることを感じられることは、職員の業務への意欲向上につながり、職員が組織で長く働く上で重要な要素であると考えられる。

(対応方策)

公務においては、新規学卒者を一括採用し、ジョブローテーションを繰り返しながら多様な経験を積ませ、計画的に部内育成を図り、管理職員等に選抜していく人事管理が一般的に行われてきている。このような人事管理を基本としている公務において、人事異動に関して全ての職員の事情・要望を受け入れることには限界がある。しかしながら、人事担当部局の一方通行的な人事管理は職員の意欲を低下させたり、能力伸長の機会を逸したりする可能性もある。

この点、かねてより人事異動に対する職員の希望を聴取することは行われており、人事担当部局や上司が職員の話を傾聴する取組が様々な形でなされている。しかしながら、傾聴するだけに留まっている結果が今回の意識調査に表れているとも考えられる。すなわち、職員としては、人事異動に込めた思い、今後期待していること、将来像などについて知りたいと思っており、それらが職員に伝わることは人事異動等に対する職員の理解・納得につながるものである。

「異動における適性・育成の考慮」と「人事評価の能力伸長への活用」には中程度の相関が見られたことからも、人事評価における面談を通じ、上司が職員に対する期待や育成方針等を具体的に伝えることが職員の理解・納得感をより深めるものになると考えられる。働き方やワーク・ライフ・バランス、職業人としての将来像の形成に関する考え方は、少なくとも今の幹部職員や管理職員が「若手」と呼ばれていた時代と大きく変わってきている。職員の要望に全て応えることはできないものの、応えるよう取り組むこと、その姿勢が職員に伝わることは重要であり、それができない組織は職員が離れていくことを防止できないであろう。

人事異動への納得感に資する取組の一つとして、人事院の平成29年度年次報告書や令和元年度年次報告書においても言及した省内公募の取組も有効な方策である。一部の府省庁では、管理職や海外勤務のポストについて省内公募を行うことで、職員自身が目指す能力開発の方向性や育児・介護等のライフイベントの状況等を踏まえて希望することができるなどの工夫を行っている。どのような取組が可能かについて、組織内だけなく、府省庁横断的にアイデアを出し合うことにより一層の効果が期待される。

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