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第1編 《人事行政》

【第2部】女性国家公務員の採用・登用の拡大に向けて

第3章 諸外国における女性国家公務員の採用・登用の状況と課題

第5節 韓国

2 女性の採用・登用促進のための具体的な施策の展開

(1)社会的な背景

1975年の国連「国際婦人年」、1979年の国連女子差別撤廃条約の採択等の国際的な動きに加え、1970年代の韓国民主化運動から発展した1980年代の女性運動の活発化などにより、政治、経済、社会などの各分野への女性の参画の動きが活発になっていった。1987年の民主化宣言以降、1990年代に入って、国家競争力の源泉としての女性の労働力化が認識されるようになり、他方で女性の高学歴化が進む中で、多くの女性が積極的に職場に進出するようになった。また、男女平等及び女性の参画促進の基本法である「女性発展基本法」が1995年に制定され、同法に暫定的優遇措置(女性の参加が限られている分野における合理的な範囲内での暫定的な女性の参加促進措置)による女性の参画促進等が規定されるとともに、同法に基づき具体的な取組を定める「女性政策基本計画」(5年ごと)が1997年に策定されるなど、制度的・法的枠組みの整備が進められてきた。

なお、韓国は、現代においても、儒教の影響の強い家父長制社会であるとされており、家事や育児等の家庭責任については主に女性が担っている状況にある。

(2)公務における取組の経緯

人事制度の概要

  • 国家公務員の採用は主に5級(課長補佐級)、7級(係員級)、9級(係員級)の3種類の採用試験によっている。いずれも、一括して試験を実施し、合格者は採用候補者研修を受講の上、試験の成績及び研修成績並びに本人の希望及び各省の人材選択基準を考慮した上で安全行政部(韓国の中央人事行政機関)が各省庁に配置する。このほか、各省庁において経歴職競争採用試験という経験者採用試験も実施している。
  • 採用後の異動については、本人の希望が考慮されるものの基本的に課長級までは人事当局の主導で行われる。部長級・局長級については高位公務員団として一括管理され、公募制により配置される。
  • 係員級から課長級までの昇進は、成績主義で行われ、昇進審査委員会の審査又は昇進試験を経る必要がある。

ア 登用に関する取組

(ア) 男女区分別募集制の廃止(1989年)

国家公務員の採用試験については、従来は男女別に募集定員が決められており、女性の募集定員は全体の10~20%に制限されていたが、不合理な差別であるとされ、男女別の募集は1989年に廃止された。

(イ) 女性公務員採用目標制(1996年)(後に両性平等採用目標制に転換(2003年))

1995年に制定された女性発展基本法において暫定的優遇措置が可能とされたことから、5年間の時限措置(後に2年間延長)として、国家公務員の採用試験に「女性公務員採用目標制」が導入された。これは、1996年から2000年まで5級と7級の採用試験に時限的な女性採用目標(1996年の10%から2000年の20%まで段階的に拡大)を定め、目標割合に達しない場合には、一定の範囲で合格ラインを引き下げ、成績順に目標割合に達するまで女性を追加合格させるものである。

しかし、女性に対するこのような優遇措置は逆差別であるとの声が高まったことから、2003年から男女両性を対象とし、いずれか一方の性の合格者の割合が30%未満のときに一定の成績内で該当する性別の受験者を目標割合に達するまで追加合格させる「両性平等採用目標制」に転換し、9級試験等にも適用対象が拡大された。現在は第3次目標制(2013年~2017年)が施行されている。

この措置による合格者数は、2003年から2012年までに合計192人(女性174人、男性18人)とそれほど多いわけではないが、女性を公務に誘致する心理的・象徴的な効果があると言われている。

(ウ) 軍加算点制の廃止(1999年)

韓国には徴兵制があり、兵役に服した後に除隊し、7級及び9級試験を受験した者に対して試験成績に加点する「軍加算点制」が行われていたが、兵役に服するのは男性が大多数であることから、女性に対する事実上の差別であるとして、憲法裁判所の違憲判決を受けて1999年に「軍加算点制」は廃止された。これにより、採用試験における実質的な男性優遇措置が撤廃された。

(エ) 女性管理者任用拡大5か年計画(2002年~)

「女性公務員採用目標制」の導入による女性の増加は下位の実務職の階級に集中していたことから、政策決定過程に女性の意見をより反映させることができるようにするため、2002年、5年間(2002年~2006年)で課長補佐級(5級)以上の女性の割合を10%以上とする計画が策定された。各省庁においては、成績主義の原則の下でこの目標を意識した取組を行った結果、2001年には4.8%であった5級以上の女性の管理職員・幹部職員は2006年には9.4%に増加した。その後女性の管理職・幹部職ポストへの登用を持続的に支援するため、2007年に、計画の対象を課長級(4級)に引き上げ、5年間(2007年~2011年)で課長級(4級)以上の女性の割合を10%以上とする計画が策定された。その結果、2006年には5.4%であった課長級(4級)以上の女性の割合は2011年には8.4%に増加した。

イ 両立支援促進の取組

韓国では、仕事と家庭の両立支援のための諸制度が1990年代以降、順次整備されてきている。

両立支援制度の運用をみると、例えば、子供が満8歳になるまで3年間利用可能な育児休職制度については、利用者は2006年には1,251人であったものが、2012年には6,671人と増加してきている。従来は、同じ職場の同僚などに迷惑をかけるため、同制度を利用しにくい雰囲気があったことから、職員が育児休職等を取得する場合は、その者の業務を代替する任期付きの契約職員を採用するための人材プールである「代替人材バンク」が設けられた。しかし、2012年に安全行政部が実態調査を行ったところ、育児休職者の半分程度しか代替職員が確保されていないことが判明したことから、育児休職によって欠員のままとなっているポストに迅速に欠員補充ができるように別途定員を措置し、正規職員を充てることができることとした。

短時間勤務、フレックスタイム等の勤務時間の弾力化、テレワークなどの柔軟勤務制の利用についても積極的に推進されている。2010年には5,972人であった柔軟勤務制の利用者は2012年には33,106人に増加しているが、その利用者の9割強は時差出勤型フレックスタイムを利用している。

なお、女性職員については、出産と育児による長期間の職場からの離脱及びそれによる経験不足並びに超過勤務による長時間勤務を要するポストに任用されないことなどによるマイナス評価があると言われているが、育児休職から復帰した職員やフレックスタイム等の柔軟勤務制を利用する職員については、勤務成績評定や昇進において不利益ができるだけ生じないような措置を講じている。

(3)現在行っている重点的な取組

管理職員・幹部職員に占める女性の割合を上昇させるため、2012年から第2次「4級以上女性管理者任用拡大5か年計画」が開始され、2017年までに課長級以上に占める女性の割合を15%とする目標を設定し、現在、同計画が推進されている。なお、この女性の割合の目標は、各省庁が5級の在職状況などから目標の原案を作成し、安全行政部と各省庁が可能な限り高い目標を掲げるよう調整した上で設定されたものである。

また、各省庁においては、女性の能力開発を推進するため、女性の研修受講機会の積極的な確保を図るほか、従来は男性しか任用されてこなかった企画、予算、人事、監査部門等のポストに積極的に女性を任用するなどの施策を推進している。


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