第1編 《人事行政》

【第2部】 在職状況(年齢別人員構成)の変化と人事管理への影響

第1章 国家公務員の在職状況(年齢別人員構成)の変化と課題

第2節 在職状況の変化がもたらす課題

3 地方機関における課題

(1)地方機関における人員構成の変化の例

各府省の地方機関で勤務する行政職俸給表(一)適用職員の年齢階層別の在職状況のうち、平成27年と平成17年(各年7月1日現在の在職者)を比べた場合の人員構成の変化が典型的な二つの地方機関の例を以下に掲げる。

なお、今回聞き取りを行った8省の11地方機関のうち、A地方機関と在職状況が類似の機関が五つ、B地方機関と類似の機関が二つ、10年前と比べて在職状況にそれほど変化のない機関が四つであった。

図4 A地方機関の例

図5 B地方機関の例

(2)若年層が極端に少ない人員構成が地方機関の人事管理等に与える影響

若年層が極端に少ない人員構成の偏りが地方機関の現場で人事管理や業務遂行にどのような影響を与えているのかについて、今回、8省の11地方機関で勤務する職員の人事管理を担当する部局(職種等の別による人事グループごとに17部局)から聞き取りを行った。その結果を踏まえ、これらの影響について整理すると次のとおりである。

ア 人事管理に与える影響

(ア) 若年層の能力開発の不足と相談相手の不在等

若年層については、係員の人数が減少する中で、少ない係員に庶務的事務が集中する上、各課に配置させる必要から様々な仕事を広く浅く経験させることになり、特定の分野で専門的にじっくりと現場経験を積ませるなどの必要な能力開発が難しくなってきている。

さらに、定員削減により係長の候補となる係員が不足しているため、経験年数の短い係員に係長心得を発令して係長級の仕事を行わせる府省もあり、こうした点でも係員の負荷が増している状況がみられる。

また、以前と比べ、配属された部署で周囲に同年代の係員が少なくなり、かつ、比較的年齢の近い中堅層の先輩が多忙なこともあり、相談相手が年齢の離れた高齢層の役職者になる場合が多いが、若年層にとっては世代間ギャップや年長者に対する遠慮もあって円滑なコミュニケーションが図れず、一人で悩みを抱え、離職や心の健康の不調の問題につながる場合もみられる。世代間ギャップ以前の問題として、職場内外での仕事を離れたコミュニケーションの機会が昔と比べて減少し、人間関係が希薄になっていることが問題であるとの指摘もある。

他方、最近では、昔のように上司が部下に対しプレッシャーがかかるような厳しい指導を行うとパワー・ハラスメントの問題が発生することが懸念されるため、部下への指導が昔と比べて優しくなっているとともに、上司が仕事を部下に任せないで自分で処理してしまう場合も増えており、若い職員の間に「指示待ち」が増加しているとの指摘もある。

(イ) 中堅層の業務負担の増加と能力開発の不足

中堅層の職員には、若年層の人数が減少することにより係長に昇任しても部下のいない者(以下「一人係長」という。)が増加している。定員削減の下で従来と同様の業務を遂行するため、実施業務を中心に民間事業者や非常勤職員を活用することとなるが、それらの者には任せられない行政機関として行うべき外部との調整業務等のうちこれまでは係員が行ってきた仕事も中堅層がカバーしなければならないなど、業務負担が増していると言われている。

また、こうした勤務環境の変化に伴い、中堅層の職員が多忙となって、当局として本来必要と考えている業務に係る能力開発が十分にできていないという問題が生じている。とりわけ、若年層の人数が減少して一人係長が増加した結果、中堅層が後輩の育成や指導、支援といった将来の管理職要員として不可欠なマネジメント業務の経験を職場で積む機会が減少していることについて中・長期的な業務管理の上から懸念する声が強い。

さらに、技術系の職員については、現場業務の民間事業者への委託(アウトソーシング)が進んだ結果、若年層から中堅層にかけて現場での多様な勤務経験を積む機会が減少しているため、現場経験を通じてでないと身に付かない技能・ノウハウが継承されにくくなっており、技術者としての技術力や応用力が従来と比べ低下するのではないかとの懸念もある。

(ウ) 若年層、中堅層を中心とする計画的な人事異動・配置上の支障

若年層については絶対数が少ないため、人事当局が本来配置・昇任させたいポストに対して人数が不足しており、計画的な人事管理に支障を来している。また、前述のように、若年層、中堅層ともに、係員として必要な専門的な現場経験や係長として必要なマネジメント業務の経験などが不足しているため、昇任・昇格候補者や管理職要員としての適任者の数が足りなくなるという問題がみられる。

さらに、人員構成上の谷となっている世代や凹みの年齢(年次)がある場合、その世代や年次よりも下の世代や年次の職員から登用する必要が生じるが、それらの職員も必ずしも十分な業務経験を積んでいないことがあり、計画的な人事異動・配置に支障が生じるという問題もある。

(エ) 職員全体のモチベーションの低下

人数の多い世代である中堅層、高齢層の職員は、自分達より先輩の世代と比べてポストが足りずに昇任・昇格が遅れることに対する不公平感があるのに加え、若年層の人数の減少によりいつまでも下位職位の業務もカバーしなければならないため、モチベーションが低下しているという問題がみられる。

一方、若年層には、庶務的な一般業務に追われて専門性が身に付かず、また、後輩が採用されない上、先輩世代の昇進の遅れの影響で自分達も昇進が遅れており、悩みを相談する身近な相手もおらず、モチベーションが低下しているという指摘がある。

イ 業務遂行に与える影響(技能・ノウハウの継承)

行政の継続性の観点から組織として蓄積されていかなければならない技能やノウハウが、年齢別人員構成の偏りとそれに伴う業務のアウトソーシングにより、上の世代から下の世代に円滑に継承されなくなっていること、あるいは将来的に継承が円滑に進まなくなる可能性があることが、各府省の地方機関に共通の問題として強く懸念されている。

特に、若年層だけでなく中堅層の職員も減少している前記のB地方機関の例や直轄事業のアウトソーシングが進んだ技術系の人事グループには、高齢層が退職してしまうまでの間に有効な手を打たないと近い将来ノウハウが一気に散逸してしまうとの危機感が強い。

なお、地方機関において継承されるべき技能・ノウハウとしては、資料・文書の作成方法やマネジメントのほか、交渉、調整、検査、監視、取締り、監査、調査、分析・鑑定などの各種業務に係る長い経験に基づいて蓄積された知見、能力、人脈、過去の経緯に関する知識等が挙げられる。

(3)若年層が極端に少ない人員構成に対応した地方機関の人事管理等の取組

各府省は、年齢別人員構成の偏りが地方機関の人事管理や業務遂行に影響を与えているとの認識の下で、若年層の人数の減少に対応するため、あるいは上の世代から下の世代に技能・ノウハウを円滑に継承できるようにするため、地方機関における人事管理や業務管理に関してどのような取組を行っているのか又は今後行っていくのかについて、人事管理担当部局の聞き取り結果を踏まえて整理すると次のとおりである。

ア 新規採用の確保

業務の見直しを行った上で、必要な定員数を再検討し、定年まで職員が均等に在職したとする場合の各年度の必要採用者数を確保することを基本として省全体の人員体制の見直しに取り組んでいる府省もある。こうしたところでは、組織活力維持の観点や技能・ノウハウの継承の観点から、各地方機関において可能な限り新規採用者を増やして、年齢別人員構成を平準化していきたいと考えている。特に高齢層の山が抜けた後は、再任用者との調整を図りつつ、空いた定員の枠を使ってできるだけ新規採用を増やしたいとしている。なお、その際の課題として、各府省は、地方機関において必要な定員を確保すること及び若者の地元志向や長時間労働を忌避する傾向がある中で質を維持しながらどれだけの人数を確保できるかということを挙げている。

また、必要な定員の確保に当たっては、高齢層の山の定年退職を待たずに、職員の外部出向や早期退職募集制度の募集拡大によって新規採用のための枠を広げたいという府省もある。

イ 業務の効率化・集約化・民間委託等

各府省は、行政需要が増大する中で、地方機関における組織・定員の合理化に伴う若年層を中心とする職員数の減少に対応するため、この10年間においても、管理部門等の業務の効率化や集約化、各種業務の電子化、手続や資料の簡素化等の取組を進めてきている。さらに、かつては若年層職員が担っていた定型的業務、秘書業務等を係員が減った穴埋めとして非常勤職員で代替したり、現場の事務・事業を民間事業者やコンサルタント会社などにアウトソーシングしたりするなどにより大幅な業務合理化の取組が進められてきている。

これらの取組に関し、非常勤職員については、職員団体から雇用の安定や処遇の改善を求める要望があり、現場で課題となっている府省もある。また、アウトソーシングについては、事務・事業を外注化することが組織としての技能やノウハウの流出にもつながり、その維持・継続にも影響を及ぼしかねないところにまで来ているとの見方もある。

(※) 非常勤職員の在職状況は、「一般職国家公務員在職状況統計表」(内閣人事局)によると、全体で140,121人(事務補助職員(22,541人)のほか、統計調査職員(7,606人)、委員顧問参与等職員(22,462人)、保護司(47,599人)、水門等水位観測員(4,389人)等を含む。)。そのうち、規則8-12(職員の任免)第4条第13号の期間業務職員が29,310人である(人数は平成27年7月1日現在)。

ウ 再任用の活用

地方機関における再任用の活用については、府省によって考え方に違いがあるが、将来的に年金支給開始年齢が65歳になることを踏まえ、今後フルタイム勤務希望者の増加が見込まれるため、多くの府省では、再任用職員がモチベーションを維持しつつ、中核的・本格的な仕事を担うことで、定年前と同様に堅実な業務遂行に当たらせる必要があると考えている。

一方、当面の課題としては、多くの地方機関において高齢層職員の退職とともに技能やノウハウが散逸することに対する危機感が強いことから、若年層や中堅層の職員への技能・ノウハウの継承、後輩の育成・相談、仕事の質の維持のため、再任用職員を積極的に活用したいと考えている府省が多い。特に前掲のB地方機関のような人員構成にある場合、高齢層職員の退職とともに5~10年後には技能やノウハウが散逸してしまうとの危機感が強く、再任用職員による技能・ノウハウ継承の役割に対する期待が高い。他方で、空き定員はまずは新規採用枠に充てるとの考え方も多く、再任用短時間勤務職員は現場での調査要員など人手不足を補うためのマンパワーと割り切って活用している府省もある。

また、各府省は、フルタイム再任用を本格的に活用するための課題として、再任用職員の定年時点でのマインドの転換やモチベーションの維持、経験や能力と仕事のマッチング、職場での人間関係等を挙げており、そのためには再任用に際しての能力・適性のチェックと職員のモチベーションの維持が重要であるとしているほか、新規採用も一定数を確保できるよう必要な定員を過渡的に措置することが必要であるとしている。

エ 人事管理や人材育成の在り方の見直し

各府省は、地方機関における若年層の人数の減少に対応するため、職員の人事や業務付与の在り方について、例えば、本府省の昇任前の職員を地方機関に出向させる人事のローテーション化、ライン制からスタッフ制への移行による個々のポストの業務範囲の拡大、事務系職員を業務系ポストに配属するなど能力開発を通じた一人一人の職員の業務対応可能範囲の拡大等、様々な取組を検討している。

また、若年層の育成や心の健康づくりの観点から、先輩や上司を相談役や指導役に指名してOJTを強化する仕組みの導入、研修や講習会・勉強会等のOff-JTの機会の拡大、個々の職員へのキャリアパスの提示によるモチベーションの向上と計画的な育成などの取組を行っている府省もある。

なお、人員構成上の谷となっている世代や凹みの年齢(年次)がある府省では、年齢が上の世代の昇進を遅らせるとともに、年齢が下の世代の優秀者を登用することによって谷や凹みに対処していくことを考えているところが多い。

オ 女性職員の活躍推進のための環境整備

各府省は、政府の方針の下で女性の採用・登用の拡大を進めており、地方機関においても女性職員の割合は高まっていく方向にあると考えられる。

今後、地方機関が果たすべき機能を維持・向上させていくためには、各府省は、若手の女性職員に職場における技能やノウハウが継承されるよう様々な職務経験を付与する一方、途中で辞めずに働き続けられる勤務環境や出産・育児等で勤務できない場合にその仕事を円滑にカバーできる体制を早急に整備していくことが必要であるとしている。

(※)第4次男女共同参画基本計画(平成27年12月25日閣議決定)において、政府は、成果目標として、「国家公務員採用試験からの採用者に占める女性の割合」を「30%以上(毎年度)」(現状は31.5%(平成27年4月1日現在))、「国家公務員の各役職段階に占める女性の割合」として「地方機関課長・本省課長補佐相当職」について「12%(平成32年度末)」(現状は8.6%(平成27年7月現在))などを掲げている。

カ 中途採用の活用

各府省は、若年層など人数の少ない世代の問題に対処するため、外部に有為な人材がいれば中途採用を活用したいと考えている。例えば、国税庁では、30歳台の職員が40歳台の職員の半分程度しかいないという人員構成の偏りに対処するため、従来は毎年10~20人程度であった社会人の中途採用を平成28年度は200人規模に拡大するとしている。一方で、我が国の雇用市場の流動化が進んでいないこともあり、多くの府省の地方機関では、既存のキャリアパスにはまりにくいことや各府省の求める人材が必ずしも十分に集まらないことを理由に、経験者採用試験を含め中途採用はあまり活用されておらず、資格保有者など専門性の不足を補う目的での中途採用や任期付採用、官民交流採用の活用にとどまっている。

なお、各府省は、経験者採用試験を含め中途採用で質の高い人材を確保するためには、そのような職務経験のある者の中途からの国家公務員への採用ルートがあるという積極的な情報発信(PR)と魅力ある処遇が課題であるとしている。

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