第1編 《人事行政》

【第2部】 在職状況(年齢別人員構成)の変化と人事管理への影響

第3章 在職状況の変化がもたらす課題と人事管理上の対応

第2節 課題と人事管理上の対応

1 公務に必要とされる多様な人材の確保に関する課題

第1章及び第2章で述べたように、国だけでなく、聞き取り調査を行った民間企業や地方公共団体においても、組織の人員構成に山や谷が生じた原因として大量採用や採用抑制といった採用時点の問題が挙げられた。その結果生じた人員構成上の山や谷の存在は、組織における技能やノウハウの継承など業務の継続性に影響を与えるだけでなく、人材の質の確保や業務多忙による士気の低下、人材の育成にも支障を及ぼしており、最悪の場合には若年層の離職にもつながる人事管理上の重要な問題である。

(1)中長期ビジョンの設定

行政がその課題に的確に対応していくためには、公務に期待される多様な人材を計画的かつ安定的に確保することが必要である。そのため、各府省等において、10年後、20年後に、職員の人員構成がどのようになっているか、公務にどのような人材が必要となるかという展望を持ち、また、それを踏まえてどのように人材育成に取り組んでいくかといった先を見据えた人事管理の中・長期的なビジョンを設定し、当面の採用活動にとどまらない人事戦略により、人材確保に取り組んでいくことが考えられる。

具体的には、府省ごとに、中・長期的な新規採用者数の目安や求められる人材像、採用後の専門性等に応じたキャリアパスを示すことなどにより、優秀な学生が公務に関心を持つような措置を講じていくことが重要である。

(2)若年層から見た公務の魅力の向上と発信

第1章で述べたように、少子化の中で一般職試験の受験者層を中心に学生の地元志向が強まっており、地方出身者の本府省への採用が難しくなったとの声があるほか、地方機関においても転勤を嫌って学生がより転勤の少ない地方公共団体などへの就職を優先する傾向が強まっていると言われている。また、そもそも国家公務員の仕事内容等についての具体的イメージが持たれていないことや、定員や働き方改革の不足等から国家公務員の職場が慢性的に長時間労働であると思われていること等により、民間企業や地方公共団体との人材獲得の一層の競合の下、国家公務員の人材確保が困難である状況となっている。こうした状況の中で有効な取組を行っていく必要がある。

公務に必要とされる多様な人材を確保するためには、まず、本節3に述べる働き方の改革と勤務環境の整備を行うことが重要であり、これらと併せて、公務の魅力を向上し、その魅力を発信することが必要である。各府省においては、若年層から見た国家公務員の働き方、仕事内容、キャリアパス等に関する魅力について改めて検証し、具体的イメージを持ってもらえるよう、これまで以上に積極的なPRに努めることが肝要である。人事院としては、公務への人材の供給構造の現状を幅広く把握することとし、学生等の就業意識、民間企業や地方公共団体と比較した国家公務員の仕事の魅力や働き方の違い等について分析等を行っていく。また、各府省や大学等と連携して、啓発活動及び人材確保活動の場を広く設定し、そういった場を積極的に活用する。その際、地方機関における人材確保も重要であることから、地方事務局(所)と連携して、大学懇談会の拡充のほか、大学教授等とのネットワークづくり及び関係強化、学生等を対象とした新たな取組などを積極的に推進している。今後とも、各地方事務局(所)において、各管内出先機関と協力しつつ、誘致活動を拡充・強化していきたい。さらに、国家公務員志望者の裾野の拡大に向け、様々な媒体を利用して情報を得ている学生等に対して働きかけを行うため、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)等によるPRを更に充実させていきたい。

また、女性の採用者数を着実に増加させていくため、より多くの優秀な女性に国家公務員採用試験を受験してもらうよう誘致活動を強化していくことが重要である。人事院は、従来から意欲ある女性を公務に一層誘致するため、セミナー、説明会の開催等の取組を行っているところであり、今後とも、各府省や大学等と連携しつつ、各種人材確保活動等を通じた働きかけを行っていきたい。あわせて、働き方の改革と勤務環境の整備を図り、その魅力を発信していくことも有効と考えられる。また、これまで採用者数の多かった専攻分野以外の分野からも有為な人材を幅広く採用できるよう、平成28年度から、国家公務員採用総合職試験「政治・国際」区分の試験内容を変更したところであり、今後とも、複雑・多様化する行政課題に対応した人材確保に資するよう必要な対応を行う。なお、大学における学科系統別女子学生の割合をみると、特に、工学が低い状態にあるなど、国家公務員志望者の拡大については、おのずから限界があることにも留意する必要がある。そのため、政府全体として、女子高校生等に対して、将来の職業選択を見据えた進路決定ができるような働きかけを行っていくことも求められる。

さらに、採用した女性職員が幅広い土俵で活躍していけるよう適切に育成していくことが必要であり、ライフイベントの時期も考慮した柔軟で多様な勤務経験の付与に取り組んでいく必要がある。そうした中で、人事院としても、女性職員を対象とする研修において業務遂行能力やマネジメント能力の開発等の機会を提供するなど女性の登用推進のための取組を引き続き行う。

(3)経験者採用試験の活用

各府省の人事管理においては引き続き、新規学卒者を採用し部内で育成していくことが基本となるものと考えられるが、採用抑制の影響等により人員構成上凹んでいる年齢層に対処するためには、各府省の採用計画の中に中途採用を適切に位置付け、その拡大を図っていくことが考えられる。しかしながら、現状においては、各府省の人材採用育成計画の中で、中途採用者が重要な人材供給源として位置付けられていないこと、また、一般に、民間企業等に就職し経験を積んだ者が、国家公務員に中途採用される道があることについてあまり知られていないことから、経験者採用試験の申込者に各府省の求める人材が必ずしも十分に得られていないという課題がある。このため、各府省が中途採用者として求める人材に、国家公務員になるルートの一つとして経験者採用試験があることを広く認知してもらうことが重要であり、各府省が求める人材が存在する分野を把握した上で、そうした人材層に向けて経験者採用試験を情報伝達するなど、各府省と協力して効率的な人材確保活動を行っていくこととする。その際、国家公務員として働くことの魅力を積極的に伝えていくこととする。あわせて、経験者採用試験から有為な人材を採用していくためには、当該試験が採用に結び付く試験であるということを各府省が必要とする人材層に認識してもらう必要がある。このため、一定数の採用者を恒常的に確保していくことが重要であり、人事院としては経験者採用試験を活用した中途採用者の着実な採用を各府省に促していくこととする。

また、中途採用者については、新規学卒者を主体としたこれまでのキャリアパスにはまりにくいことから、採用する側にとっては採用後の人事管理が難しく、また、採用される側からは採用後のキャリアパスが明確でないという課題もある。このため、中途採用者に対して、その職務経験や専門性を考慮して当初の配置を行い、その後、能力・適性に応じて新規採用者とは異なる適切なキャリアパスを用意するなどの各府省の取組が求められる。

人事院としても、中途採用職員に対し、採用直後の研修において「国民全体の奉仕者」として求められる服務規律に関する知識、公務員としての倫理感の徹底等を図り、全体の奉仕者としての使命感の涵養を行っていくこととしている。また、採用後1年経過時等の節目において、自分と同じような境遇にある中途採用職員と所属部局を超えて経験や悩みを共有していく機会があることは、組織での定着やモチベーションの向上に寄与すると考えられる。このため、節目節目における中途採用職員を対象とする研修の在り方についても検討を進める。

諸外国における人材確保のための取組

人材の確保はいずれの国においても重要な課題となっているが、ここでは米国及びドイツにおける特徴的な取組を紹介する。

1 公務の魅力向上策(米国)

主な取組の一つとして、職員の採用に当たり、専門性や経験を考慮して給与を高くしたり、連邦政府から貸与を受けた学生ローンを一定額まで肩代わりしたりしており、これらのインセンティブに対する学生の関心は高い。

最近の取組としては、特に人材不足となっている科学、技術、工学及び数学(STEM)分野の専門家を採用するための取組として、優秀な大学院修了者を確保するための「大統領研修員計画」に、STEM分野の修了者を対象とした枠(track)が2014年に設けられた。これにより、各省は、STEM分野の将来のリーダーとなり得る候補者を見付けやすくなり、学生側としても、連邦政府内で自分の能力をいかせる仕事を見付けることが容易になると言われている。

2 定員上の工夫で重複配置(ドイツ)

前任者が退職する以前に後任者を採用するための定員上の工夫として、「将来的に廃止される(künftig wegfallend)」条件付きの定員が活用されており、2016年度からは定員プールも導入された(連邦政府全体で将来廃止予定定員500人)。メリットとしては、高齢層の山の世代の大量退職が始まる前に新規採用の時期を前倒しできること、ノウハウ継承の手段として一時的に同一ポストに職員を重複して配置できること、また、定員プールを利用すれば継続的な定員増を回避できること等が挙げられている。

このほか、幹部候補となる職員の任用要件の緩和も検討されているが、要件の引下げは公務の質の低下につながりかねない等の理由から、人材確保が極めて難しい職種に限って要件を一部緩和する方向で調整が進められている模様である。

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