第1編 人事行政

第1部 人事行政この1年の主な動き

第1章 適正な公務員給与の確保等

3 定年を段階的に65歳に引き上げるための国家公務員法等の改正についての意見の申出

(1)意見の申出に至る経緯

民間企業について高年齢者等の雇用の安定等に関する法律により65歳までの雇用確保措置が義務付けられたこと、国家公務員制度改革基本法により職員の定年を段階的に65歳に引き上げることについて検討する旨が規定されたこと等から、人事院は公務における高齢期雇用の在り方について検討を行い、その結果、平成23年9月30日、国会及び内閣に対し、定年を段階的に65歳に引き上げることが適当とする意見の申出を行った。平成25年3月、政府は、当面、年金支給開始年齢に達するまで希望者を原則として常時勤務を要する官職に再任用するものとすること、年金支給開始年齢の段階的な引上げの時期ごとに段階的な定年の引上げも含め雇用と年金の接続の在り方について改めて検討を行うこと等を閣議決定した。

その後、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(平成29年6月9日閣議決定)において、「公務員の定年の引上げについて、具体的な検討を進める」とし、これを受けて関係行政機関による検討会が設けられ、平成23年の人事院の意見の申出も踏まえつつ検討が行われた結果、「これまでの検討を踏まえた論点の整理」が取りまとめられた。そこでは、定年を段階的に65歳に引き上げる方向で検討することが適当であるとされ、定年の引上げに当たっての論点が整理されている。論点整理の内容は、平成30年2月16日、「公務員の定年の引上げに関する関係閣僚会議」で了承の上、閣僚懇談会に報告され、同日、内閣総理大臣から人事院総裁に対し、政府の論点整理を踏まえて国家公務員の定年の引上げについて検討要請が行われた。また、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(平成30年6月15日閣議決定)においても、「平均寿命の伸長や少子高齢化の進展を踏まえ、複雑高度化する行政課題に的確に対応する観点から、公務員の定年を段階的に65歳に引き上げる方向で検討する」等とした。

人事院は、各府省や職員団体の意見も聴取しながら検討した結果、平成30年8月10日、国会及び内閣に対し、定年の引上げの必要性及び定年の引上げに関する具体的措置等を内容とする意見の申出を行った。

(2)意見の申出の内容

意見の申出の主な内容は、以下のとおりである。

ア 定年の引上げの必要性

我が国においては、少子高齢化が急速に進展し、若年労働力人口の減少が続いており、働く意欲と能力のある高齢者が活躍できる場を作っていくことが社会全体の重要な課題となっている。

多くの民間企業においては、再雇用制度を設けて対応しているものの、定年を引き上げる企業も一定数見られる。また、再雇用者の大多数はフルタイム勤務となっている。一方、公務においては、再任用が義務化されたこと等から、近年、再任用職員は相当数増加してきている。これを行政職俸給表(一)の再任用職員で見ると、厳しい定員事情等もあって、ポストは係長・主任級が約7割、勤務形態は短時間勤務の者が約8割となっている。

公務において、高齢層職員から若年・中堅層職員への技能・ノウハウの継承が課題となる中で、下位の官職に短時間勤務で再任用される職員が多く、その能力及び経験を十分にいかしきれていないため、このまま再任用職員の占める割合が高まると、職員の士気の低下等により、公務能率の低下が懸念される状況にある。一方、職員側においても、無年金期間が拡大する中で、退職後十分な所得が得られず、生活への不安が高まるおそれがある。

複雑高度化する行政課題に的確に対応し、質の高い行政サービスを維持していくためには、60歳を超える職員の能力及び経験を60歳前と同様に本格的に活用することが不可欠となっており、定年を段階的に65歳に引き上げることが必要である。これにより、採用から退職までの人事管理の一体性・連続性が確保されるとともに、雇用と年金の接続も確実に図られることとなる。

イ 定年の引上げに関する具体的措置

(ア) 定年制度の見直し

定年を引き上げる年度においては定年退職者が生じないことから、定員が一定であれば、その翌年度の新規採用者数が大幅に減少し、各府省における年齢別人員構成等に悪影響が生じるため、定年は段階的に引き上げることが適当である。また、定年の引上げに当たっては、現行の定年を前提とした人事管理や人事計画の見直し、個々の職員の生活設計の見直し等が必要となることから、その開始までには一定の準備期間を確保することが適当である。

定年は段階的に引き上げ、最終的に65歳とする。また、職務と責任に特殊性があること等により定年を65歳とすることが適当でない職員の定年は70歳を上限として別途定める年齢とし、段階的に引き上げる。これらの措置は、速やかに実施されることが必要である。

定年の段階的な引上げ期間中においては、定年退職後、年金が満額支給される65歳までの間の雇用確保のため、暫定的な措置として、現行の再任用制度を存置するとともに、60歳以降の働き方等について、あらかじめ人事当局が職員の意向を聴取する仕組みを設ける。

(イ) 役職定年制の導入

60歳時点で管理又は監督の地位にある職員がそのままポストに在職し続けた場合、若年・中堅層職員の昇進ペースが遅くなり、育成上必要なポストに就く時期も遅れることとなる。それによって、これらの職員の士気の低下を招くことになれば、公務全体の能率に悪影響を与えるおそれがある。このため、組織の新陳代謝を確保し、その活力を維持することを目的として、当分の間、本府省、地方支分部局等の管理監督職員の官職(原則として指定職俸給表適用官職及び俸給の特別調整額適用官職)を対象に役職定年制を導入する。

役職定年対象官職を占める職員が役職定年(原則として60歳)に達した場合には、課長補佐級や専門スタッフ職等の役職定年対象官職以外の官職に降任又は転任(任用換)される。ただし、役職定年に達した職員の職務の特殊性、年齢別構成等による欠員補充の困難性等から見て、任用換により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由がある場合には、任命権者が、例外的に、当該職員を引き続きその職務に従事させること又は他の役職定年対象官職に降任又は転任することができる制度(特例任用)を設ける。

(ウ) 定年前の再任用短時間勤務制の導入

60歳以降の職員について、健康上、人生設計上の理由等により多様な働き方を可能とすることへのニーズが高まると考えられることから、職員の希望に基づき、短時間勤務の職務に従事させることができる定年前の再任用短時間勤務制を導入する。この制度は、新規採用や若年・中堅層職員の昇進の余地を確保し、組織活力を維持することにも資するものである。

(エ) 60歳を超える職員の給与

国家公務員の給与は社会一般の情勢に適応するように変更することとされている。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では、行政職俸給表(一)の適用を受ける常勤職員と類似する「管理・事務・技術労働者」(フルタイム・正社員)の60歳台前半層の従業員の年間給与は、50歳台後半層の年間給与と比べると、企業規模10人以上で68.8%、同100人以上で70.1%となっている(平成27年、平成28年及び平成29年の平均値)。また、人事院が平成30年に実施した「職種別民間給与実態調査」においても、定年を61歳以上に引き上げている事業所(定年制を廃止した事業所を含む。)のうち、60歳時点で給与を減額している事業所では、60歳を超える従業員の年間給与水準は平均で60歳前の7割台(課長級は75.2%、非管理職は72.7%)となっている。

これらの状況を踏まえれば、60歳を超える職員の年間給与は、60歳前の7割の水準に設定することが適当である。具体的には、60歳を超える職員の俸給月額は、当分の間、60歳前の70%の額とし、俸給月額の水準と関係する諸手当等は60歳前の7割を基本に手当額等を設定することとする。また、60歳を超える職員は、現行の55歳を超える職員と同様、勤務成績が特に良好である場合を除き、昇給しないこととする。

なお、役職定年により任用換された職員の年間給与水準は、俸給の特別調整額が支給されなくなること等により、任用換前の5割から6割程度となる場合がある。

前記の「職種別民間給与実態調査」においては、定年が60歳を超える事業所の多くは一定年齢到達を理由にした給与の引下げは行っていなかった。また、60歳を超えても引き続き同一の職務を担うのであれば、本来は、60歳前後で給与水準が維持されることが望ましい。しかし、多くの民間企業は給与水準が下がる再雇用制度により対応していること、また、60歳定年の下、民間の状況を参考にして設計されている現行の給与カーブを直ちに変更することは適当ではないことから、60歳を超える職員の給与水準の引下げは、当分の間の措置と位置付けることとし、民間給与の動向等も踏まえ、60歳前の給与カーブも含めてその在り方を引き続き検討していくこととする。

(オ) 今後の必要な見直し

定年の引上げに係る人事管理諸制度については、引上げが段階的に行われる間においても、役職定年制等の運用の状況、能力・実績に基づく人事管理の徹底の状況等を踏まえて、新たな定年制度の運用の実情を逐次検証し、円滑な人事管理の確保等の観点から必要な見直しを検討することが適当である。

関連する給与制度についても、民間企業における定年制や高齢層従業員の給与の状況、職員の人員構成の変化が各府省の人事管理に与える影響等を踏まえながら、必要な見直しを検討する。

ウ 定年の引上げに関連する取組

(ア) 能力・実績に基づく人事管理の徹底等

定年を段階的に65歳に引き上げる中、組織活力を維持し行政サービスの質を高く保つため、職員の在職期間を通じて能力・実績に基づく人事管理を徹底するなど、若年・中堅層職員も含めた人事管理全体を見直す必要があり、人事院としても必要な検討を行う。

また、勤務実績が良くない職員や適性を欠く職員については、分限処分が適時厳正に行われるよう、人事評価の適正な運用の徹底が図られる必要がある。人事院としても、分限について必要な見直しを行うほか、各府省に対し、分限処分に係る手続整備等の内容の周知徹底等の必要な支援を行う。

(イ) 定年の引上げを円滑に行うため公務全体で取り組むべき施策

複線型キャリアパスの確立に努めた上で60歳を超える職員が能力及び経験をいかせる職務の更なる整備、定年の引上げ期間中も真に必要な規模の新規採用を計画的に継続できるような定員上の措置、職員の早期退職に対するインセンティブを付与すること等の退職手当上の措置や高齢層職員の能力及び経験を公務外でも活用する方策等についても検討することが必要である。

(3)意見の申出の取扱い等

定年の引上げについては、人事院の意見の申出を踏まえ、政府において検討が進められている。人事院としては、引き続き、政府の検討に必要な協力を行うこととしている。

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