【事例10】人事異動
事務系職種として採用されたものの、その後の異動では技術系のポストや現場への異動ばかりである。毎年、事務系のポストへの異動を希望しているが、事務系のポストを減らしているので戻ることは不可能と言われ続けており、また、面談でも希望を聞いてもらえない。
(関連制度)
個々の職員の人事配置については、各府省の任命権者がその有する権限と責任において、当該職員の資格、経験、職務に対する適性等に基づき、組織の運営全般を考慮して行う事項とされている。
(本事例から見える課題)
本事例は、相談者の異動に関する希望を伝えているが叶わず、納得いく説明がないとされている事例である。こうした相談の背景として、職員が自身のキャリア形成について関心を持っているが、様々な事情から希望が実現しないことがある。そうした職員に対しては、職員自身の希望も踏まえつつ、今後のキャリア形成について、丁寧に説明をすることが肝要である。
【事例11】広域異動手当
広域異動手当の支給に関して、ある年の4月1日にA官署からB官署へ異動し、広域異動手当の支給を受けていたところ、2年後の3月31日に定年退職し、4月1日より再任用でB官署からC官署へ異動することとなった。
上記のような場合、広域異動手当の支給対象となるという回答を以前人事院から受けていたが、所属官署の担当者に確認すると、定年退職により広域異動手当の要件を満たさないこととなるので、引き続いての支給はできないとのことであった。
(関連制度)
広域異動手当は、職員が在勤する官署を異にして異動等を行った場合に、異動等前後の官署間の距離及び異動等の直前の住居と異動等の直後の官署との距離が60km以上である場合等において、異動等の日から3年間、支給される手当である。
また、定年退職の翌日に再任用職員として採用された職員についても、平成27年4月以降、定年前から支給要件を満たしている場合及び再任用される際に支給要件を満たすこととなった場合には、広域異動手当が支給されることとなっている。
(本事例から見える課題)
本事例では、相談者に対し、手当の支給要件等について説明した上で、所属官署の給与担当者に再度確認することを勧めたところ、 担当者において本手当制度の改正に関する理解が不十分であったことが判明し、適切な対応がとられることとなった。こうした事例を踏まえると、制度改正の周知を含め、組織全体として十分な情報共有を図ることや、現場の担当者が判断に迷うような場合に組織内で相談しやすい体制を整備することが肝要である。
公務職場に関する職員アンケート結果の概要
人事院では、平成30年12月から平成31年3月にかけて、人事院の本院、公務員研修所及び地方事務局(所)で実施した研修の受講者に対し、公務職場に関する職員の意識について、管理職員、若手・中堅職員の別にアンケートを実施した(回答数:管理職員約300人、若手・中堅職員約600人)。ここでは、研修受講者に限ったアンケートではあるが、それぞれのアンケート結果の傾向とそこから読み取れる公務職場の現状を紹介する。
1 管理職員を対象としたアンケート
(1)アンケート結果の傾向
① 若手の部下職員がいない(少ない)ことによる不安・不満
- ・ 自分がプレイングマネージャーになっている、技能・ノウハウの伝承ができない(地方機関職員でやや多い回答)
② 業務量の増加
- ・ 他律的業務の増加(本省職員でやや多い回答)
- ・ 内部管理業務の増加(全体で非常に多い回答)
③ マネジメントへの不安
- ・ マネジメント経験の少なさ、内部管理業務増によるマネジメントの負担の大きさ、マネジメントに割く時間のなさ(地方機関職員でやや多い回答)
④ 部下職員のモチベーションが低い
- ・ 指示待ちで能動的に仕事をしない(地方機関職員でやや多い回答)
⑤ 育児・介護中の部下職員
- ・ 育児・介護中の部下職員がいる(全体で相当多い回答)
- ・ (「育児・介護中の部下職員がいる」のうち)自分や特定の職員に負担が集中している(全体でやや多い回答)
⑥ 部下職員が抱えている仕事上の悩みや感じている課題を相談することができる体制等
- ・ 相談体制等がある(全体で非常に多い回答)
- ・ (「相談体制等がある」のうち)管理職員自身(全体で非常に多い回答)、同僚や先輩職員(全体でやや多い回答)、苦情相談窓口(全体でやや多い回答)
(2)アンケート結果の傾向から読み取れる公務職場の現状
部下職員の抱える悩み等に関しては、管理職員自らが相談に乗るなどの回答が多く、職場内でのコミュニケーションを図ろうとしていることがうかがえる。
一方で、内部管理業務を中心として業務量が増加する中で全体をマネジメントすべき管理職員の負担が増加しているという回答や、育児・介護中の部下職員がいることにより自分や特定の職員に負担が集中しているという回答が多かった。
また、地方機関職員においては、マネジメント経験の不足やマネジメントに割く時間のなさ等のマネジメントに関する不安があるとの回答が多かった。加えて、部下職員のモチベーションに関して、指示待ちで能動的に仕事をしないという回答も多かった。
業務多忙により部下職員への指導・育成が十分にできないことで、部下職員が積極的に行動しなくなっていることにより、更に管理職員が自分で動かなくてはならないという悪循環に陥っているとも考えられることから、管理職員と部下職員との関係について改善の必要性が認められる。
2 若手・中堅職員を対象としたアンケート
(1)アンケート結果の傾向
① 部下・後輩職員がいない(少ない)ことによる不安・不満
- ・ 自分で何でもしなければならない(全体でやや多い回答)
② 業務量の増加
- ・ 他律的業務の増加(本省職員でやや多い回答)
- ・ 内部管理業務の増加(全体で相当多い回答)
③ 業務遂行に関する不安・不満
- ・ 非効率・無駄な業務が多い(全体でやや多い回答)
④ 能力開発・キャリア形成に関する不安・不満
- ・ 育児等との両立への不安(女性職員でやや多い回答)
⑤ 育児・介護中の職員
- ・ 育児・介護をしている(全体でやや多い回答)
- ・ (「育児・介護をしている」のうち)不安・不満を感じている(男性職員でやや多く、女性職員で非常に多い回答)
⑥ 自分が抱えている仕事上の悩みや感じている課題を相談することができる体制等
- ・ 相談体制等がある(全体で非常に多い回答)
- ・ (「相談体制等がある」のうち)上司(全体で非常に多い回答)、同僚や先輩職員(全体で非常に多い回答)
(2)アンケート結果の傾向から読み取れる公務職場の現状
若手・中堅職員においても、仕事上の悩み等を相談できる体制等があるとの回答が多く、上司や先輩職員・同僚のサポートが得られていることがうかがえる。
一方で、内部管理業務を中心として業務量が増加する中、部下・後輩職員がいない(少ない)ことで、自分で何でもしなければならないことや、非効率・無駄な業務が多いことへの不安や不満があるとの回答も多く、働きやすい職場環境に向けた改善の必要性が認められる。
また、育児・介護中の職員について、女性職員を中心に不安や不満を感じていることがうかがえることから、これらの不安や不満を解消していくことが求められる。