倫理審査会では、倫理の保持の施策の参考とするため、倫理制度や公務員倫理をめぐる諸問題について、各界から幅広く意見を聴取しており、また、各府省等における倫理法・倫理規程の運用実態、倫理法・倫理規程に対する要望等の把握にも努めている。
(1)有識者との懇談会等
倫理審査会では、倫理法・倫理規程が施行されて以降、各界の有識者から、国家公務員の倫理の保持の状況や倫理制度に対する評価、倫理の保持のための施策などについての意見聴取を続けており、平成26年度においては、東京都及び高松市において、企業経営者、学識経験者、報道関係者、地方自治体の長といった各界の有識者と倫理審査会の会長や委員との懇談会を開催した。また、前記のとおり各府省官房長等との懇談会及び地方機関の長等との懇談会を開催し、各府省における倫理法・倫理規程の運用状況や業務への影響、倫理法・倫理規程に対する要望事項などを聴取した。
さらに、今年度は特別職の各倫理審査会との懇談会を開催し、各機関における倫理保持の状況等や各倫理審査会相互の連携等について意見聴取を行うとともに、今後の課題等について意見交換を行った。
<有識者との懇談会における主な意見>
【東京都】
- ● 倫理法の施行当初と比べ、最近は公務員倫理についてあまり話題に上らなくなっており、公務員倫理をめぐる状況は落ち着いてきているのではないか。倫理法によって国家公務員の世界に新しい常識が定着したということであろう。倫理法・倫理規程が定めるルール以上に厳しく自らの身を律している職員も多いのではないか。
- ● 国家公務員は一生懸命仕事をしており、また、東日本大震災の際には給与減額支給措置が2年間実施された。国家公務員の不祥事をきっかけとして倫理法が成立した頃と比べて、国家公務員に対する国民の理解はあるといってよいのではないか。
- ● 現在の倫理規程には禁止事項が多く書いてあるが、今後は、不祥事というマイナス要因をなくすことに加えて、このようなことをすべきというプラス要因を作っていく方向にシフトすべきである。モラルが高い職場では不祥事は起こらない。モラルを高くするための前向きなメッセージを示すことが必要ではないか。
- ● 国家公務員が倫理法・倫理規程のルールの下で適切に活動しているということを広く一般の国民に対して周知することが重要ではないか。特に、公務員志望の者など若い世代が学ぶ機会を設けることで、世の中に浸透していくのではないか。
- ● 良い意味で通報窓口が活用されるようになるためには、職員が疑問に思ったことをためらうことなく相談できるような窓口であるべきである。
【高松市】
- ● 組織の腐敗を防ぐためには、上司の理不尽な指示を部下が拒否し、たしなめることができる風通しの良い組織を作ることが必要である。これには上司の姿勢が重要であるので、是非、公務の各職場で上司が主導してそのような職場を作っていただきたい。
- ● 通報制度が十分に活用されていない原因として、公務員の仲間意識があるのではないか。だが、職員が仲間意識だけを重視していると、思わぬ形で不正に手を染めたり、不利益をこうむるおそれがある。仲間意識の殻を破るような研修や自己啓発を行う必要がある。
- ● 組織が社会に貢献するためのミッションを組織の個々人に明示し、徹底することで、ミッションを達成するためにはどのように行動すればよいかという倫理感が個々人に生ずるのではないか。
- ● 公務員倫理制度については、公務員は悪いことをするからそのような制度を作る必要があるという性悪説的な捉え方をされている場合があるが、正しいことをしている人が正しいことを言えるための制度であるという性善説に立った捉え方を公務員自身がする必要があるのではないか。
(2)各種アンケート調査結果
倫理審査会では、倫理保持のための施策の企画等に活用するため、例年、各種アンケート調査を実施している。平成26年度におけるその結果の概略は、次のとおりである。
・市民アンケート
国民各層から年齢・性別・地域等を考慮して抽出した1,000人を対象に、平成26年11月に実施(アンケートリサーチ業者を通じて実施)
・有識者モニターアンケート
・民間企業アンケート
・職員アンケート
ア 国家公務員の倫理感についての印象(市民・有識者モニター・民間企業・職員アンケート結果)
「国家公務員の倫理感の印象」について質問したところ、好意的な見方をしている者(「倫理感が高い」又は「全体として倫理感が高いが、一部に低い者もいる」と回答した者)の割合は、市民アンケートでは54.1%、有識者モニターアンケートでは83.6%、民間企業アンケートでは67.3%、職員アンケートでは85.4%であった。一方、厳しい見方をしている者(「全体として倫理感が低いが、一部に高い者もいる」又は「倫理感が低い」と回答した者)の割合は、市民アンケートでは17.3%、有識者モニターアンケートでは4.6%、民間企業アンケートでは6.7%、職員アンケートでは3.1%であった。
好意的な見方をしている者の割合は、職員アンケート、有識者モニターアンケート、民間企業アンケート、市民アンケートの順で高い結果であることは例年の傾向である。また、今年度はいずれのアンケートにおいても、前回調査より好意的な見方をしている者が増えており、国家公務員の倫理感についての印象は向上する結果となった(図1)。
イ 国家公務員への期待(市民・有識者モニター・民間企業アンケート結果)
「国家公務員に対する期待」について質問したところ、国家公務員の仕事への取組について期待する見方をしている者(「大いに期待している」又は「ある程度期待している」と回答した者)の割合は、市民アンケートでは54.3%、有識者モニターアンケートでは94.4%、民間企業アンケートでは83.3%であった。
一方、期待できないとする見方をしている者(「あまり期待していない」又は「全く期待していない」と回答した者)の割合は、市民アンケートでは24.3%、有識者モニターアンケートでは2.6%、民間企業アンケートでは4.9%であった。
有識者モニターアンケートや民間企業アンケートの方が市民アンケートに比べて期待する見方をしている者の割合が高いのは、アと同様に例年の傾向である(図2)。
ウ 倫理規程で定められている行為規制に対する印象(市民・有識者モニター・民間企業・職員アンケート結果)
「倫理規程で定められている行為規制の印象」を質問したところ、「妥当である」と回答した者の割合は、市民アンケートでは61.4%、有識者モニターアンケートでは69.2%、民間企業アンケートでは78.4%、職員アンケートでは72.3%と、いずれのアンケート結果においても回答全体の6割を超えた。
また、「厳しい」又は「どちらかといえば厳しい」と回答した者の割合は、有識者モニターアンケートが26.1%と最も高く、次いで職員アンケート(23.1%)、市民アンケート(13.8%)、民間企業アンケート(12.2%)の順となった。一方、「どちらかといえば緩やかである」又は「緩やかである」と回答した者の割合は、市民アンケートが17.9%と最も高く、次いで、民間企業アンケート(7.0%)、有識者モニターアンケート(4.2%)、職員アンケート(2.9%)という結果となった。これらの結果は、おおむね例年と同様であり、行為規制の内容が幅広く受け入れられているのではないかと考えられる(図3)。
エ 行政と民間企業等との間の情報収集等への支障(市民・有識者モニター・民間企業・職員アンケート結果)
「倫理法・倫理規程があるため、職務に必要な行政と民間企業等との間の情報収集、意見交換等に支障が生じていると思うか」について質問したところ、いずれのアンケートにおいても、「あまりそう思わない」又は「そう思わない」と回答した者の割合(市民アンケート57.7%、有識者モニターアンケート63.1%、民間企業アンケート73.4%、職員アンケート55.9%)が、「そう思う」又は「ある程度そう思う」と回答した者の割合(市民アンケート27.3%、有識者モニターアンケート33.8%、民間企業アンケート16.2%、職員アンケート32.0%)を大きく上回る結果となった(図4)。
オ 倫理に関する研修の受講状況(職員アンケート)
職員に対して、公務員倫理に関する内容がカリキュラムに組み込まれている研修等に最後に参加してからどのくらいの期間が経過しているか質問したところ、1年未満とする回答が62.6%であり、1年以上3年未満と回答した者を加えると、83.6%に達しており、多くの職員が比較的高い頻度で研修を受講していることがうかがえる結果となった。ただし、5年以上又は一度も受講したことがないと回答した者も、10.3%と依然として一定割合いる結果ともなった(図5)。
カ 通報窓口の認知度(職員アンケート)
職員に対して、通報窓口を知っているかについて質問したところ、所属府省等の通報窓口及び倫理審査会の通報窓口(公務員倫理ホットライン)の両方又はいずれかを知っていた者の割合は80.7%、倫理審査会の通報窓口(公務員倫理ホットライン)を知っていた者の割合は61.2%であった(図6)。
このような各種アンケート調査は、国家公務員の倫理感や倫理規程に定められた行為規制などに対する各方面の印象や見方など、公務員倫理をめぐる状況の的確な把握に資するものであり、倫理審査会としては、今後とも継続的にアンケート調査を実施し、今後の倫理保持のための施策の企画等に活用していくこととする。