第1編 《人事行政》

【第2部】 魅力ある公務職場の実現を目指して

補論1 従業員満足度調査とは

従業員満足についての調査研究のきっかけは、19世紀末から20世紀初めの米国の産業界まで遡る。当時の米国において効率的な生産方法を確立するためにはどのようにしたらよいかという観点から諸研究が行われた結果、従業員の心理面が重要であるという知見がもたらされ、それが今日の従業員満足度調査につながっている。以下ではその変遷を概説するとともに、今回の調査について補足する。

(1)従業員満足への関心

19世紀末期の米国は、産業革命による大量生産の時代を迎え、自らの利益確保に固執する経営、組織的怠業、従業員の離職等の問題があった。産業界がこのような状況であった20世紀初め、鉄鋼会社で機械工学技師として働いていたテイラー(F. Taylor)は、科学的管理法として、標準的な仕事量の把握、従業員の生産性に効果的な休憩時間や照明の明るさなどの検討を行い、効率的な生産方法を提案した。

やがて、ハーバード大学のメイヨー(E. Mayo)らがシカゴのホーソン工場で1925年から開始したホーソン研究をきっかけとして、従業員の態度が生産性にもたらす影響に注目が集まり、人間性や人間関係を考慮するとの考えが企業運営に導入されるようになった。同研究では、実験や大規模な面接調査が行われ、従業員の作業能率は、照明、労働時間などの客観的な職場環境の影響よりも、職場の人間関係、士気、目標意識などに大きく左右されるということを明らかにしていった。

また、ハーズバーグ(F. Herzberg)は動機づけ―衛生理論を提唱し、従業員の満足に影響する要因には2種類あると考えた。一つは、満足度を高め、仕事への動機づけを高める動機づけ要因(仕事そのもの、承認、達成、昇任など)であり、もう一つは仕事における不満を回避・防止する衛生要因(労働条件、給与、人間関係、会社の政策と経営、雇用の安定など)であるとした。衛生要因については、職場における問題を解決し、従業員の不満を減らすことを通じて、仕事への動機づけに影響を与えるとされていることから、少なくとも衛生要因を悪化させないことが重要であるとされた。これらの考え方は、業務の生産性や組織経営の観点から注目された。

(2)従業員満足度研究の増加と発展

従業員の心理面での満足が、業務の生産性そのものに結びつくと考えられ始めたことを契機に、従業員満足度研究も増加した。研究においては、生産性と満足度の関係、仕事に内在する要因や労働条件といった満足度の要因、個人の心理的な側面に関する要因などの考察に重点がおかれるようになった。

このような中、従業員満足に関する資料を収集する主要な方法の一つとして、上司との関係、組織の方針、賃金、昇進の機会などの質問を含む質問紙調査が用いられるようになった。その後も、従業員満足はストレスなどのメンタルヘルス、ワーク・ライフ・バランス等との関係から研究が行われてきている。また、生産性の向上との関係についても、モチベーション(動機づけ)、組織コミットメント(組織の期待に応えていこうとする積極的な態度)、ワーク・エンゲージメント(仕事への積極的関与の状態)など、組織行動に影響する様々な態度や状態の一つとして従業員満足を捉え、生産性との関係を明らかにしようとする諸研究が行われている。

(3)公務員制度との関係

国公法には「能率」の概念が規定されているが、これは(1)で述べた米国における科学的管理法や人間関係論の影響を受けたものであり、人事行政において公務能率を重視する点を捉えて「科学的人事行政」と呼ばれている。

また、米国では、ハーズバーグの動機づけ―衛生理論に基づき、組織のパフォーマンスを向上させる観点から、構成員を動機づける要因に関心が向かったが、公務員は公共的なものに動機づけられているのではないかという問題意識から、パブリック・サービス・モチベーション(PSM)研究が開始されたとされている。

したがって、こうした系譜に連なる従業員満足に関する調査の手法を参考として、職員の意識調査を行い、その結果を人事管理に活用することは、公務の能率的な運営の保障にとって、今日的意味があるものと考える。

(4)今回の調査の統計分析

今回の調査結果の分析に当たっては、85の質問項目を全て用いて、最ゆう法とプロマックス回転による因子分析を行った。因子数については、もともと想定していた要素を基に、解釈のしやすさ等について検討し、最終的に10の因子が抽出された。因子ごとにクロンバックのα係数を算出したところ、0.79~0.97の値が得られた。

相関分析においては、全ての質問文が肯定的な内容となっており、回答には5点から1点の得点を与えていることから、質問項目間の相関係数は全て正の値となっている。

また、重回帰分析については、【全体的な意識】を従属変数、他の領域を独立変数として、ステップワイズ法によって行った。その結果、【国民本位の所管行政】、【職員の人事管理】、【公共に奉仕する姿勢】により【全体的な意識】を説明する回帰式が得られた。標準偏回帰係数は、【国民本位の所管行政】が0.361、【職員の人事管理】が0.306、【公共に奉仕する姿勢】が0.283であり、調整済みR2は0.605であった。

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