第1編 《人事行政》

【第2部】 魅力ある公務職場の実現を目指して

補論3 各国の政府職員に対する意識調査

(1)米国

ア 調査の概要

米国では、人事管理庁が所管する連邦政府職員を対象とした職員意識調査(Federal Employee Viewpoint Survey)を毎年実施している。調査の目的は、勤務環境、組織及び直属の上司に対する職員の満足度を調査し、その結果から、エンプロイー・エンゲージメント(職員の職務や組織に対する献身。職務及び組織目標に積極的に取り組む姿勢、組織への帰属意識、同僚や上司とのつながりなども含まれる。)を測り、組織全体のパフォーマンスを向上させ、国民へ最高のサービスを提供することである。

1979年に最初の職員意識調査が実施されて以降、名称や実施間隔を若干変えつつも類似した内容の調査を行ってきたが、2004年に法定調査となり、各省庁は、年に1回職員意識調査を実施することが義務付けられた。2010年には名称を現在のFederal Employee Viewpoint Surveyとした。

2016年の調査における質問は、①自分の業務及び所属部署、②自分の組織、③自分の上司、④組織のリーダーシップ、⑤業務や組織、給与や勤務環境に関する満足度、⑥ワーク・ライフ・バランス施策の6項目84問で構成されている。このうち45問は毎年調査すべきとされる法定部分で、その他の39問は調査を所管する人事管理庁の調査担当チームが作成した。

調査対象889,590人のうち、回答を得られたのは45.8%に当たる407,789人で、組織の規模別で見ると、職員数75,000人以上の省庁の平均回答率が44.1%と全体の平均回答率を下回る一方、職員数が75,000人未満の省庁の平均回答率は60%を超えている。

人事管理庁は、調査の目的、意義、方法等について記載したガイドブックを作成し、各省庁の調査担当者を通じて職員に周知するほか、調査期間開始前に、全職員と職員組合に向けて調査への理解・協力を求めるメッセージを発出するなど、回答率を上げる取組を行っている。また、回答に際しての職員の負担を軽減するため、今後、法定部分の45問について質問数の大幅な削減を検討している。

イ 調査結果の分析

2016年の調査結果では、組織におけるエンプロイー・エンゲージメントが高い職員の割合(エンプロイー・エンゲージメント・スコア)は65%で、組織が小さいほど高い傾向にある。

人事管理庁は、エンプロイー・エンゲージメントに影響を与えると考えられる主な要素として、タイムリーかつ建設的なフィードバック、職場におけるコミュニケーション、能力開発の機会、公平かつ透明性の高いマネジメント、ワーク・ライフ・バランス施策を挙げており、これらは、世代、職種、役職段階を問わず、職員全般に共通するものとされている。

調査結果は人事管理庁から各省庁の調査担当者へ提供されるが、その結果を局・部・課・チーム等、どのレベルまでフィードバックするかについては各省庁の方針に任されており、調査担当者は人事担当部署や幹部職員と共に、スコアが低かった分野について課題検討の場を設けて改善計画を策定する、定期的に幹部職員と職員の対話の機会を設ける等の取組を行っている。

このように、組織が職員意識調査の結果を重視し、改善への取組を積極的に推進することは、職員側から見れば、調査を通じて示した自分達の意見が尊重されていることが確認できるため、組織への信頼が増し、結果的にエンプロイー・エンゲージメントの向上につながることが期待されている。また、幹部職員にとっては、自分の部署のパフォーマンスの良し悪しは自らの業績評価に関わるため、部下のやる気と能力を最大限に引き出すためにも、調査結果から部下の意識や要望を把握し、勤務環境を改善しようという意識が高められると言われている。

各省庁において調査結果を活用した様々な取組が行われていることからも、調査の有用性は広く認められていると考えられるが、一方で、回答数が半数に満たない省においては、回答率の低さを指摘し、調査結果をそのまま省の施策に全面的に反映させることには消極的な意見も見られる。また、調査結果のフィードバックから改善のための行動計画の策定・実施、実施結果の評価までの一連の取組は一定の時間を要することから、毎年実施ではなく、3年に1回程度の実施が効果的なのではないかとの意見もある。

ウ 調査結果の活用方法

組織のパフォーマンスの向上に貢献する優秀な職員の採用・確保は連邦政府全体にとって喫緊の課題とされており、各省庁では、エンプロイー・エンゲージメントが高い有為な職員(Engaged workforce)を長く組織に留めておくため、彼らが最大限に能力を発揮できる勤務環境を提供する必要があると考えられている。そのため、職員意識調査を通じて、有為な人材がどのくらい組織に存在するかを把握し、その割合を高めるよう魅力ある職場作りを進めることは、有為な人材の採用・確保施策としても有効であると考えられている。

幹部職員や上級管理職(Senior Executive Service)は、組織におけるエンプロイー・エンゲージメントの向上に責任を負うこととされており、業績評価項目にも盛り込まれている。こうしたシニア・リーダーは、エンプロイー・エンゲージメントを高めるような職場文化の構築やエンプロイー・エンゲージメント・スコアが低い分野に関する改善策の策定等に積極的に取り組むことが求められている。

人事管理庁は、行政管理予算局や大統領人事室と協力し、ホワイトハウスに各省庁の代表を集めてベスト・プラクティスを共有する機会を設けるなど、各省庁におけるエンゲージメント向上戦略を促進する取組を続けている。

国務省では、調査結果に基づき、エンプロイー・エンゲージメント・スコアに大きく影響を与えるとされるワーク・ライフ・バランス施策と能力開発の機会の充実、業績評価の透明性の確保に積極的に取り組んでいる。ワーク・ライフ・バランス施策については、扶養家族の急な傷病に関するケアサービスプログラムの充実、新たな授乳室の設置、各省庁が任意で設置できる年次休暇を職員間で寄付できる仕組み(休暇銀行)の立上げなどを行った。また、業績評価の透明性を確保し、職員の幹部職員に対する信頼を構築することもエンプロイー・エンゲージメントの向上に効果的であるため、業績評価の際には、直属の上司だけでなく、一つ上のレベルの上司との面談の機会を設けるなどの配慮をしている。

商務省や内務省では、調査結果を分析し、エンプロイー・エンゲージメント・スコアが低かった分野を中心に、1年間又は2年間の行動計画を策定し、改善プログラムを実施している。商務省では、リーダーシップ、清廉性、チームワーク、専門性、ワーク・ライフ・バランスを5つのコア・バリューとしてそれぞれゴールを設定し、ゴール達成のための具体的な施策を策定している。内務省では、調査結果に基づき、エンプロイー・エンゲージメントを強化すべき分野を少なくとも3つ定めて評価指標を作成し、それを幹部職員や上級管理職の業績目標に盛り込んでいる。行動計画の進捗状況は、四半期に1回幹部職員に報告される。

(2)英国

ア 調査の概要

英国では、エンプロイー・エンゲージメント(職員が組織目標に貢献し、やりがいを感じているか)を測り、その結果を活用した対応を行うことによって、組織パフォーマンスと職員の幸福度を向上させることを目的として、全省庁共通の職員意識調査(Civil Service People Survey)を2009年から毎年実施している。

2016年の調査は、98の機関が参加し、調査対象431,706人(全職員の99%)のうち、回答を得られたのは65%に当たる279,708人であった。

同年の調査の質問は、①自分の業務、②組織の目標・目的、③自分の上司、④自分のチーム、⑤研修・啓発、⑥包摂性と公正な取扱い、⑦リソースと業務量、⑧給与とその他の便益、⑨リーダーシップとマネジメント、⑩関与・貢献(エンゲージメント)等の17項目73問のほか、幸福度等の質問から構成されている。2009年の調査開始以来、主要な質問項目について大幅な変更を行ってこなかったが、2017年の調査では、調査開始以降の公務の変化や業務ニーズの変化への対応及び質問票の簡素化を目的として、質問項目の変更が予定されている。

イ 調査結果の分析

調査を所管する内閣府は、国家公務員全体と機関別の調査結果及び職員の属性等とエンプロイー・エンゲージメント・スコアとの相関関係の分析結果を政府のホームページで公表している。

2016年の調査結果から算出された国家公務員全体のエンプロイー・エンゲージメント・スコアは59%、最高は財務省の74%、最低は保健省の45%となっている。

また、内閣府では、継続的に高いエンプロイー・エンゲージメント・スコアを維持しているチームやスコアを大きく改善させたチームにインタビューを行い、それらのチームで行われている取組を把握・分析し、スコアが良いチームには8つの共通点(①リーダーがフィードバックを歓迎すること、②部下へのフィードバックや助言を与えることを重視すること、③チームメンバーの創造性やイノベーションを奨励すること、④現場経験の時間を作ること、⑤差別等のネガティブな行為に挑戦すること、⑥柔軟な働き方へのサポートがあること、⑦チーム内で良いコミュニケーションが取れていること、⑧調査結果に基づいて対応策を講じていること)があることやそのようなチームの取組内容を政府のホームページで公表し、各職場の管理職が、エンプロイー・エンゲージメントを醸成するためのヒントを得られるように支援している。

なお、全省共通で統一的に調査を実施することの利点として、個別の機関ごとに調査を実施する場合と比較して大幅な経費削減が可能になるとともに、組織パフォーマンス向上への活用という観点から、省庁横断比較や経年比較が可能なデータを得られるという点が挙げられている。

ウ 調査結果の活用方法

調査結果は、国家公務員全体の多様性と包摂性(diversity & inclusion)を向上させるための戦略や差別・いじめ・ハラスメント対策等人事施策の検討に活用されている。また、障害のある職員による自由回答欄のコメントが障害者施策担当部局に提供され、政策の検討の際に活用された例もある。

人事管理においても、上級公務員(Senior Civil Service。各省・各エージェンシーの課長級ポスト以上に在職する幹部公務員。約5,000人)の業績評価シートには自らが管理するチームの直近のエンプロイー・エンゲージメント・スコアを記載することとされているほか、事務次官の業績評価の測定指標として活用されている例も見られる。

また、各省においては、人事評価制度の在り方を検討する際の参考資料、管理者研修の内容を検討する際の参考資料、省内のハラスメント・差別対策方針を検討する際の参考資料等として利用した例が見られた。

なお、課等の職場のチーム単位の結果が、各チーム(約1万チーム)に対してフィードバックされることから、管理職に限らず全てのレベルの職員がエンプロイー・エンゲージメント・スコアの改善に取り組むようになってきている。特に、上級公務員については、自らがマネジメントするチームの調査結果が、業績評価等にも影響するため、調査の実施状況を意識しており、相当のプレッシャーを感じているケースもあるようである。

(3)ドイツ

ア 調査の概要

ドイツ連邦政府においては、全省横断的な職員意識調査は実施されていないが、社会全体における人口構造の変化への対応という枠組みの中で、公務においても、優秀な人材を確保・維持し、職員の職務遂行能力を維持するための対策として、公務職場の魅力向上に取り組んでいる。魅力的な職場とは、やりがいのある仕事ができ、ライフステージに応じた能力開発の展望があり、ワーク・ライフ・バランスを実現できる職場であると位置付け、職員の健康管理、専門能力やモチベーションの維持・向上、勤務条件の整備などに係る施策を推進している。

健康管理に係る具体策を講じるに先立ち、現状分析を行う手法の一つとして、職員意識調査(Mitarbeiterbefragung)が奨励されているが、組織・人事管理上の改善施策は各省の事情に応じて策定・実施されることから、職員意識調査を実施するか否か、調査内容や対象など、全ては各省の判断に委ねられている。

例えば、連邦内務省では、職員の健康管理及び職員の満足度とモチベーションの向上を目的として、2014年に全職員を対象に調査を実施し、職員の64%が回答した。また、連邦食糧・農業省(当時は連邦食糧・農業・消費者保護省)では、メンタルヘルスに重点を置き、2009年に全職員を対象に調査を実施し、職員の約60%が回答した。その後、2012年にも同様の調査を実施している。

調査の計画から実施、調査結果の評価・分析、対策の策定・実施という一連のプロセスには一定の期間を要するため、公務員制度を所管する連邦内務省としては、少なくとも4年に1回は調査を実施するよう各省に推奨することとしている。

イ 調査結果の分析

調査結果に基づいて、連邦内務省及び連邦食糧・農業省では、対策を講じる必要性のある分野を把握した上で、必要に応じて職員による対策会議を実施し、より深い分析を行っている。

例えば、連邦内務省では、管理職による指導などのコミュニケーション、健康管理、業務分担と組織管理、ワーク・ライフ・バランスについて対策を講じる必要性が明らかとなり、責任ある職務遂行及びワーク・ライフ・バランスを主眼とする2種類の対策会議が開催された。また、局ごとに対処の必要性が別途確認された場合には、当該局において対策を講じることとされている。

連邦食糧・農業省では、対策を要する分野として、健康管理、管理職の指導、ワーク・ライフ・バランス、能力開発、組織管理の5つの重点が明らかとなり、管理職の指導についてはワークショップが開催され、これ以外の4分野については、分野ごとに職員による対策会議が開催された。

ウ 調査結果の活用方法

調査結果とその分析は、以下のような具体的な対策を立てる上での基礎として活用される。

連邦内務省においては、コミュニケーションの改善策として、全ての課において管理職への調査結果のフィードバック又はチームコーチングのいずれかを行ったほか、各役職段階の職員が多様な経験を積めるよう、業務分担に当たり、能力・資格に見合った要求水準の高い業務を担当させることに一層配慮するようにしたとのことである。以上のほか、昇任の機会や係員級職員の研修機会を拡充し、また、ワーク・ライフ・バランスに関しては、両立支援策の利用を促しつつ、利用しない職員の理解も得られるよう、各局においてチームでの話し合いや職員面談を行っているとのことである。

連邦食糧・農業省においては、管理職の指導や能力開発をテーマとする幹部ミーティングの実施、管理職の社会的能力と管理能力の評価を拡大するための人事評価要綱の改定、調査結果をきめ細かく反映したテーマを内容とする管理職セミナーの実施、研修需要の把握・拡充、ベルリンの本庁舎内への保育園の設置などの対策が講じられたとのことである。

(4)フランス

フランスでは、米国、英国、ドイツのような人事当局による職員意識調査は行われていない。

フランスでは、専ら労働組合が職員の意見を代弁する役割を担っており、勤務環境やマネジメント等に対する職員の不満や意見があれば、労働組合を通じて当局に伝えられるため、アンケートによる調査の必要性は認識されていない。

調査が実施されていない背景には、人事当局が全職員に対して調査を実施することは、労働組合の職員代表性を揺るがし、ひいては労働組合の存在意義そのものが問われかねないとの懸念があるとのことである。

(5)経済協力開発機構(OECD)の報告書

ア 報告の背景

OECDは、各国の人件費削減の状況と公務員の職務の強度やストレスへの影響を概観するとともに、各国が実施している職員意識調査についての比較・分析を行い、その結果を報告書にまとめ、2016年に公表している。この報告の背景には、2008年の世界的な金融危機を受けて、OECD諸国において人件費の削減策が行われた結果、公務員のパフォーマンス、意欲、長期的な労働力確保に影響を与えた可能性が指摘されており、このような中で、多くの国では、職員意識調査を通じて、職員の視点から組織のパフォーマンス、リーダーシップ、職場の質の改善に努めているとされている。

イ 各国における職員意識調査の実施状況

OECDは2016年に実施した「戦略的人的資源管理に関する調査」において、各国の職員意識調査の状況について把握した。その結果、対象39か国(地域)のうち、32か国(地域)が職員意識調査を実施しており、そのうち、全府省共通の調査を行っていたのは、21か国(地域)となっていた。

ウ 各国(地域)で共通している項目

多くの国(地域)での職員意識調査に共通する主な要素として、次の点が挙げられている。

調査は、オンラインのネットワーク上で定期的に実施しており、個人レベルと組織レベルの双方での業績を改善し魅力的で競争力のある雇用者となるためのリーダーシップ及び協力的な職場文化の推進を目的としている。調査結果は、管理能力と責任体制の強化、多様化する職員の管理のために活用されている。

エ 人材確保への活用

OECD諸国では国民本位の行政サービスを効果的かつ効率的に提供することが求められる一方で、前述のとおり、人件費削減策が行われ、組織規模の縮小や民間給与との格差などの問題に直面している。そのような状況においては、公務にとって適切な人材を確保することが一層重要となっている。

特に、若い世代は、専門家としてのキャリアを求め、懸命に働きつつ、ワーク・ライフ・バランス、職務遂行におけるある程度の自由裁量、自分の仕事の成果などを重視する傾向にあると言われている。

各国をめぐるこのような状況を踏まえ、OECDは、リーダーシップとマネジメントの向上と、より柔軟で個々人のニーズ等に応じた人事管理を通じて、職員のエンゲージメントを向上させることが、使用者としての公務部門の魅力を向上させ、将来必要となる人材を確保することにつながるとしている。

オ 職員意識調査結果の職員のエンゲージメント向上への活用

各国では、職員のエンゲージメントの定義や測定方法は異なっているものの、定期的な職員意識調査の実施、調査結果の管理者へのフィードバック、専門的サポートを受けての個々の管理者による職場改善に向けたフォローアップといった取組は、先進事例において共通して実施されている。また、エンゲージメントが改善した事例においては、組織のトップの積極的関与、職員と管理職の間のコミュニケーションの向上、職場改善に向けた職員提案の導入、管理者によるフォローアップの組織的支援、総合的かつ積極的な人事管理施策の推進といったことが併せて行われている。

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