第35回(令和4年) 人事院総裁賞「個人部門」受賞

小林 正典 氏(44歳)
(林野庁 近畿中国森林管理局 計画保全部 保全課 保護係長)

  小林さんは、シカ等の野生鳥獣による農林業への被害軽減に資するため、初心者でも簡単に罠を設置でき捕獲効率も高い、新たな野生鳥獣(シカ、イノシシ)の捕獲方法を考案。管轄域のみならず全国に普及活動を展開し、農林業の重要課題である獣害対策に大きく貢献したことが認められました。

 
 
 
 

☆はじめに、小林さんがこれまでに担当された業務と、現在従事しておられる業務の内容をお聞かせください。
 林野庁は全国の森林の約3割を占める国有林を管理経営しており、森林整備、治山事業、貴重な森林の保全などを行っています。治山事業とは、荒廃した森林を土木技術等で復旧したり、予防対策を実施することで山地災害から国民の生命財産を守る仕事ですが、主にこの治山工事の設計や監督などの仕事に携わってきました。
 現在の仕事は森林保護に関する業務で、森林病虫害やシカなどの野生動物から森林を守る仕事です。私が考案したシカ捕獲方法の講習会を局管内のみならず全国各地で開催し、獣害対策を指導することもあります。

 

☆小林さんは「小林式誘引捕獲法」のほか、シカ食害への対応として竹を利用したシカ侵入防止法などを開発されていますが、それらはどのようなきっかけで開発を思い至ったのでしょうか。
 治山事業では、早期の緑化を促すため、苗木の植栽や牧草類の種を撒くことがあります。これらがシカの食害を受け緑化が困難になるケースもあるため、シカの侵入を防ぐ対策が必要だと感じていました。一般的には防護柵で囲う方法が主流ですが、急傾斜地では、柵が壊れやすく、一度壊れるとすぐにシカに侵入されます。そこでまず、竹を利用したシカ侵入防止工法を開発しました。竹は、表面が固く滑らかなことやシカは蹄が滑るのを嫌がる習性に着目し、竹を斜面に敷き並べることで侵入を防ぐ対策を行いました。対策を行った箇所は、樹木が良好に生育し効果が確認されています。
 シカの捕獲に関しては、国有林での被害が拡大していることから、当時勤務していた和歌山森林管理署にてシカ捕獲の取組が平成27年にスタートしたことから、私も関わることになりました。けもの道へ罠を設置する方法で始めましたが、捕獲することが難しく、簡単で効率的に捕獲する方法を考えるなかで、シカの行動などを調査し、それに基づいた罠の設置方法「小林式誘引捕獲法」を開発するに至りました。

 

☆「小林式誘引捕獲法」の開発や普及活動を進めていく中で、印象に残っている出来事等がありましたらお聞かせください。
 シカの捕獲は、動物の命を奪う特殊な仕事でもあります。捕獲に取り組み始めた当初は、何ヶ月も全くシカが捕獲できず、くやしい思いと同時にシカを殺さなくても良いという安堵感もありました。初めてシカが罠にかかった時の複雑な心境は、今でも忘れられません。シカが捕獲できた喜びと同時に、シカの命を奪わなければならない罪悪感など、様々な感情がこみ上げ、捕獲したシカの姿は鮮明に覚えています。
 また、小林式誘引捕獲法が初めて捕獲事業に取り入れられ、成果が出た時も印象に残っています。この事業により他地域でも有効であることが証明され、全国へ普及するきっかけになりました。

 

☆「野生鳥獣の捕獲を含めた国有林野等における森林の保護に関する職務を遂行する中で、やりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。
 全国各地で小林式誘引捕獲法の普及活動を実施していますが、各地の狩猟者や自治体等の方から、「実際にシカが捕獲できた」「シカの被害が前より減少した」などの声を聞くことがあり、各地域で被害防止に貢献できていることにやりがいを感じます。
 また、国有林野等での森林保護業務は、人工林や各地域で昔から大切に守られてきた貴重な森林などを、後世に受け継ぐため必要な取組です。このような仕事に関われることにやりがいを感じています。

 

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。
 林野庁は省庁のなかでは、あまり目立たない組織かもしれませんが、全国土の約7割を占める森林において様々な施策を行い、木材供給や災害防止、生物多様性保全、地球温暖化対策などに貢献しています。少しでも多くの国民の皆様に林野庁の仕事とともに、森林に対する理解や関心を深めていただければ幸いです。
 また、シカやイノシシなどの野生動物による農林業被害は、地方では深刻な問題となっています。各地域で効率的な個体数管理を行っていただき、野生動物と人が上手く共存できる社会になれば良いと考えています。

 
▲新型くくり罠を開発する様子
 
▲小林式誘引捕獲法設置状況
 
▲罠を設置する様子
 
 

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