人事院総裁賞の選考に携わらせていただくようになり改めて感じることは、公務員の任務は非常に多岐にわたり、陰に陽に、長期的な視点に立って、国民が暮らしやすい毎日のために日々御尽力いただいているということである。私たちは毎日の暮らしの中で目にしたり耳にしたりしたことはある程度理解できるが、それらの情報によるものは、既に何らかの作用によって取捨選択された、ごく一部の公務員の姿であって、想像に及ばないところにも国民の暮らしを広く支えるための業務が多様に存在する。そのような業務で日本を支える国家公務員の皆様に改めて感謝申し上げる。
個人部門では、海上保安庁の野口英毅さんが選出された。野口さんは次世代の電子航行支援技術の第一人者として国際的に活躍され、日本技術の国際標準化などで世界をリードしてこられたとのことである。日本にとって重要な海に関する国際的地位の向上という重要な任務を長年遂行されていることに心より敬意を表したい。
職域部門では5件が選出された。国土交通省九州地方整備局の緊急災害対策派遣隊は、地震や集中豪雨などの緊急災害時におけるデジタル技術などの高度な専門性を生かした迅速な任務遂行が高く評価された。2024年は能登半島地震から始まった一年でもあり、その対応は現在進行形である。日本において、緊急災害対策は今後もますます重要度の高い公務の一つである。
水産庁漁業調査船「開洋丸」は、日本の魚食文化に影響の大きい「サンマ」の持続可能な漁業のために継続的な調査を実施し、貴重な基礎データを取得したことが高く評価された。また、法務省浪速少年院は、100年もの長きにわたり、社会情勢の変化も踏まえつつも非行少年の改善更生に尽力してきたことが高く評価された。これらはいずれも日本の社会・文化を理解しながら公務の信頼の確保と向上に貢献してきた事例であると言える。
気象庁気象大学校は、これも100年以上の長きにわたり気象に関する専門的な知識・技術に係る教育・研修を実施してきたことが高く評価された。昨今の環境問題の深刻化に加え、集中豪雨や大型台風等の激甚災害も増加していることから、気象に対する国民の関心や重要度はますます増加すると考えられる。また、金融庁政策オープンラボTECH FORMINGチームは、行政事務を効率化するツールを開発・実装したことが高く評価された。これは若手職員の活躍推進、業務効率化、ワーク・ライフ・バランスの向上など、これからの日本の課題を先取りした取組であると言える。
審査では多様な選考委員が、それぞれの価値観と視点から入念な議論を行ったが、不思議なことに総裁賞に選ばれるような候補には評価が自然と多く集まる。言い換えれば、受賞者・職域はいずれも、多種多様な価値観を有する国民からも広く支持され得るのだろうと理解している。なお、惜しくも今回受賞しなかった候補にも、重要度や専門性がとても高く、それぞれの選考委員が強く推挙したいと感じるものが多数存在していたことも、ここに申し添えたい。
(人事院総裁賞選考委員会委員)
|