第36回(令和5年) 人事院総裁賞「個人部門」受賞

野口 英毅 氏
(海上保安庁 交通部企画課 国際・技術開発室 専門官)

  野口さんは、海上交通業務の国際分野での第一人者として、国際会議で議長を務めるなど、他国を牽引。安全かつ能率的な船舶交通の実現のための国際基準を策定し、国内技術の国際標準化を実現させるなど、日本の国際的地位の向上及び国益の確保等に大きく貢献したことが認められました。

 
 
 
 

☆野口さんが従事されている業務の内容をお聞かせください。
 私の所属している海上保安庁交通部は、船舶交通の安全を確保するため、海上の交通路となる航路の制定や、灯台やブイ等の航路標識の設置・管理を行っています。船は国をまたいで人や物を運ぶことから、これらの航路や航路標識は、条約や基準等により国際的に統一することが必要です。私は、国際的な海運の条約や基準を作成している国際海事機関や、航路標識の国際基準を作成している国際航路標識協会に参加して、これらの条約や基準の策定に従事しています。

 

☆海上交通に関する国際基準の策定に大きく貢献されたとのことですが、野口さんの具体的な役割をお聞かせください。
 現在、船に搭載されているデジタル航海機器に、「AIS(船舶自動識別装置)」というものがあります。これは、海上に実際のブイがなくても、デジタル技術を利用して、レーダーや航海用のディスプレイに仮想的にブイを表示させることができる装置です。この表示に使われるシンボルは、航路の右側や左側等を示すブイの種類まで表示させることができなかったことから、平成22年に、日本が新たなシンボルや使い方のガイドラインを作成することを、国際海事機関に提案しました。私は、この作業のために設置された作業部会の議長として、2年間、各国の意見を取りまとめ、シンボルとガイドラインを完成させました。 また、現在では、国際航路標識協会のデジタル技術委員会の議長として、新たなデジタル航海機器や海上無線通信機器の基準作成の取りまとめ等をしています。

 

☆国際基準策定の取りまとめや国際会議の議長を務める中で、印象に残っている出来事がありましたらお聞かせください。
 最初の議長としての会議は今でも忘れられません。議論が白熱した案件があり、それを何とか解決したのですが、会議終了のベルを鳴らした後に思わずため息が出て、皆に笑われました。 また、私が議長を務めている「国際航路標識協会」は、国際的なNGOですが、これを条約に基づく国際機関に移行するという議論が、平成24年の理事会でなされました。その時は、日本では条約の締結に当たっては国会の承認が必要であり、ハードルが高いことが課題として挙げられました。しかし、平成26年の総会で国際機関移行のための作業方針が決定され、私は外務省の方の助言や協力を得ながら、条約案作成のための国際会議に数多く出席し、令和2年の外交会議で条約案の合意を、翌年に国会承認を得ることができました。約9年かけて一から条約を作り、しかも新たな国際機関の立ち上げに従事できたことは、得がたい経験だったと思います。

 

☆業務を通じてやりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。
 現在、私はAISの次世代技術であるVDES(注)の基準作成に従事しております。平成24年から3年の月日をかけて、私が企画して、日本で開催した国際会議においてVDESの名称や構成が決められました。その中で、ある日本の技術者の方から、最初から基準づくりに関わることができるのは、今後のVDESの開発等において非常に有益であると感謝されたことを覚えています。国際機関の本拠地が欧州にあるため、海上無線通信の基準策定は特に欧州が有利な立ち位置にあります。優秀な日本の技術力を国際基準に織り込んでいくのはとても大事なことであり、それに携わることにやりがいを感じています。
(注) VDES:VHF data exchange systemの略。
VHF帯の電波を使用した新たな海上デジタル通信システムであり、国際的に検討が進められている。

 

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。
 今回、ありがたいことに、人事院総裁賞という名誉な賞をいただくことができました。ただ、私が出席している国際海事機関の会議やその他の国際会議にも、多くの国家公務員が出席しています。その中で議長を務めている方も多くいると思います。これらの全ての方々は、私の受賞理由と同じである、国内技術の国際標準化を実現させ、日本の国際的地位の向上及び国益の確保に貢献していると思います。私は、そのような方々の中で、たまたま受賞することができただけです。このような会議は、あまり国民の皆さんの眼に触れることはないと思うのですが、これを機に、国際会議に出席して日本の国益の確保に従事している多くの国家公務員がいることを知っていただければと思います。

 
▲国際会議で議長を務める野口氏(写真中央)
 
▲国際会議の様子
 
 

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