第36回(令和5年) 人事院総裁賞「職域部門」受賞

水産庁 漁業調査船「開洋丸」乗組員一同

  過酷な厳冬期の北太平洋において、乗組員が一丸となって困難な調査に取り組み、近年不漁が続くサンマ資源の持続的な利用に向けた貴重な基礎データの取得に成功。科学的根拠に基づく政策立案に寄与するとともに、日本の魚食文化保全に大きく貢献したことが認められました。

 
 
 

☆はじめに、「開洋丸」は水産庁唯一の漁業調査船とのことですが、具体的にどのような業務を行っているのでしょうか。

開洋丸では、様々な機材や手法を用いて、水産資源やそれらが生息する海洋環境の状態を調査し、資源を適切に管理するためのルールづくりや研究の基になる科学的なデータ、生物サンプル等を取得しています。 我が国の消費者に親しまれるサンマやサバ、サケ・マス類などの食用種を対象にした資源調査を行うほか、深海生態系を構成する冷水性サンゴや希少で発見が困難な宝石サンゴ等の調査も行っています。 近年では気候変動などに伴う海洋環境の変化から、水産資源の状態が大きく変わってきているため、従来どおりの調査の進め方をしているだけでは新たな知見を得ることはできません。 未知の領域を開拓できるよう、調査船側も研究論文や関係資料等により理解を深めた上で、調査の進め方や独自に開発した調査手法を提案するなど、革新的な取組を行っています。

 

☆今回のサンマ資源に関する調査で、特に御苦労された点についてお聞かせください。

私たちが調査を行った厳冬期の北太平洋は、最大風速毎秒40m超の凄まじい低気圧が絶えず通過して大しけが続き、波の高さが10mに達するなど、運航の常識では調査不可能とされている悪条件のため、過去に十分な調査が行われていませんでした。 しかし、調査実施が困難だからと回避していては、いつまで経っても、未知の領域のままとなり、新たな知見を得ることができません。 雷光が閃き、激しい雨や雹(ひょう)を伴う強風、荒れ狂う海の中、実施不可能とされていた調査に乗組員が一丸となって挑みました。 いかなる大義があったとしても、大きなリスクを伴う調査であったため、特に全体の指揮を執る船長には、数多くの苦悩がありました。 船や乗組員の安全を図りつつ調査の成果を得るという目的を果たすため、常に難しい判断を迫られながらも、有効な進め方や方策を見出すよう努めました。

 

☆今回の調査で得られたのは「基礎データ」とのことですが、今後、そのデータはどのように活用されるのでしょうか。

北太平洋に広く分布するサンマは、多くの国・地域で漁獲されていますが、近年は記録的な不漁が続いているため、資源動向や不漁要因について国際的に関心が高まっています。 また、サンマは、国際機関である北太平洋漁業委員会(NPFC)において、日本、米国、中国、カナダ、台湾等の関係国・地域による合意に基づき、国際的に管理されています。 今回の調査で開洋丸が収集してきたデータは、NPFCによる科学的な知見に基づく管理方策を定めるために不可欠な科学的根拠となる重要な情報であり、サンマ資源の持続的な利用に向けた議論に大きく貢献することが期待されています。

 

☆今業務を通じてやりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。

たとえ、人工衛星などからのリモートセンシング(遠隔地からの測定)によって様々な情報が得られるようになった昨今でも、水産資源の分布や生態などの情報については、調査船で実際に海を調査しなければ得ることができません。 大自然と向き合って調査を行うため、危険や困難な状況に直面することもありますが、乗組員一丸となってそれを乗り越え、未知の世界の扉を開けば、様々な発見や感動に出会うことができます。それが漁業調査船による調査の醍醐味です。 また、国民の皆さんの食の将来を守ることにもつながりますので、そこにやりがいを感じています。

 

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。

このような名誉ある賞をいただき大変光栄に思っています。このたびの受賞を励みにして、水産資源の適切な管理と食の将来を守る一助になれるよう、これからも乗組員一丸となって取り組んでまいります。

 
▲悪天候の中、調査を行う乗組員
 
▲乗組員が一丸となって流し網を揚げる様子
 

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