第37回(令和6年)

人事院総裁賞の選考を終えて

 

 
 
 株式会社 BIOTOPE代表 佐宗 邦威
 
 令和5年度より人事院総裁賞選考委員を拝命し、今回で2回目の選考となった。国
民目線で見ると、公務員というのは「良い仕事をして当たり前」と思われがちである。しかし、私が所属している戦略デザインファーム、株式会社BIOTOPEが省庁のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定をサポートしたことをきっかけに、国家公務員の勤務環境をより魅力的にしようと尽力する人たちの存在を知った。さらに、人事院総裁賞の選考という機会を通じて、毎年約20件の推薦から、国民生活に貢献している国家公務員の皆様の尽力を知る度に、公務を支えている人がもっと報われると感じられる環境づくりが必要ではないかと思わざるを得ない。人事院総裁賞を選考していて感じるのは、「国家公務員の尽力に向き合うということは、その時代の社会課題と向き合う」ということだ。
 個人部門では、海上保安庁の徳永悠希さんが受賞となった。高度な知識・技術を要
する救助勢力において、大規模災害などの困難な現場で人命救助活動に従事し、消火
や潜水の新手法導入に関する研究開発に貢献したのみならず、後進の育成にも取り組み、国民の安全を守る組織を作ってこられた。これを表彰するということは、国民の
今の生活が成り立っているという安心・安全への感謝を伝えることではないかと思う。
 職域部門では、3件が受賞となった。
 農林水産省「#食べるぜニッポン プロジェクトチーム」は、ALPS処理水問題による海産物の輸入停止処置に対し、国内での新たな需要を作るためにSNSでキャンペーンを展開し、10か月間でホタテの家計消費額を平均で約1.5倍増加させるなどの反響を呼んだ。これは、広告予算を使わず成果を出したチームの知恵への表彰だと言えよう。公務員がYouTubeを活用して広報を行うのも非常に時代性がある。
 環境省の佐渡自然保護官事務所は、1度国内で絶滅に至ったトキを佐渡島において復活させ、安定生息する環境づくりに成功したチームである。国際的にも「ネイチャーポジティブ(生物多様性の回復)」がネクストSDGsとして注目される中で、150羽以上のトキの野生復帰に成功したことは、世界に対して誇れる実績だと思う。
 最後は独立行政法人国立印刷局の工芸部門だ。昨年は20年ぶりの新紙幣発行が国民的な話題となった。高度な技術と芸術センスを兼ね備えた専門職員が150年に渡り継承してきた彫刻やすき入れなどの技術とデジタル技術とが融合された日本の紙幣は、世界で有数の偽造防止効果を誇ると言われている。世界に注目される日本の手仕事への評価の象徴としての受賞ではないか。
 今回ノミネートされていないものの、受賞に値する活動をしている国家公務員の方々はたくさんいるのではないだろうか。国家公務員の仕事を魅力的に輝かせるためにも各省庁にはぜひとも多くのノミネートをお願いしたいし、選考委員としてもその活躍に全身で感謝を感じつつ、国民生活が日々無事に営まれていることに携わる全ての国家公務員の方に感謝をお伝えしたい所存である。


 (人事院総裁賞選考委員)

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