第37回(令和6年) 人事院総裁賞「職域部門」受賞

独立行政法人国立印刷局 工芸部門

  150余年にわたり継承してきた伝統技術とデジタル技術とを融合して、20年ぶりとなる新しいお札のデザインを作り上げた。長年にわたる伝統技術の継承と技術開発が、高い偽造防止効果の基盤となっており、日本の通貨に対する信頼性確保に大きく貢献したことが認められました。

 
 
 

はじめに、工芸官の皆様はどのような業務を行っているのでしょうか。

工芸官は、国立印刷局の工芸部門に所属する、美術の専門技術を持つ職員で、製品デザイン・彫刻・線画デザイン・すき入れの4部門に分かれています。
 製品デザイン部門では、お札やパスポートといった各種製品のデザインを担当しています。単に芸術的に優れたデザインにするのではなく、お客様のニーズに合うこと、安定製造ができること、偽造されないことなどを踏まえた上で、ユニバーサルデザインを体現できるよう心掛けています。
 彫刻部門では、明治初期に西洋から伝わった彫刻技術を継承・発展させ、お札の基となる絵(原図)を基に、お札の肖像部分を細密に彫刻し、原版を作製しています。原図や写真を参考に、コンテ画を自ら描きあげた上で彫刻を行います。
 線画デザイン部門では、デジタル機器を駆使し、お札の背景の「彩紋模様」など、芸術的かつ精緻な模様のデザインを担当しています。また、原図を基に、彩紋模様や印刷版面に使用するデータを作成します。
 すき入れ部門では、伝統的な和紙の技術を活用し、長年伝承してきた「すき入れ」を担当しています。すき入れは、偽造が特に困難とされている技術です。新しいお札には、通常のすき入れ(肖像部分)に加え、肖像の背景に緻密な連続模様を施した「高精細すき入れ」を新たに導入しました。

 

今回、20年ぶりとなる新しいお札の発行を迎えましたが、デザインの作製にあたって特に大変だった作業があれば教えてください。

製品デザインについては、お札という限られたスペースの中で、図柄の大きさや配置など、いくつもの条件をクリアしながら、偽造防止技術の効果を最大限に発揮しつつ、日本銀行券(お札の正式名称)としての品格が保たれるようなデザインを維持する必要があり、その点が苦労しました。
 また、彫刻・線画デザインについては、繊細すぎたり、画線幅や密度が合わないと、印刷の際に潰れたりかすれたりと品質にばらつきが生じるので、緻密さと大量生産できる安定性とのバランスを意識しました。
 すき入れについては、肖像の表情が今までよりも自然に見えるよう徹底的に追求しました。紙の厚みを繊細にコントロールし、気が遠くなるような回数の試行錯誤を繰り返すことで、求める水準を達成することができました。

 

新しいお札には伝統技術とデジタル技術が融合されています。次世代への技術伝承と新しい技術の習得の両方が求められますが、意識した点や苦労した点があれば教えてください。

お札のデザインの技術は、偽造防止技術を施す製造プロセス(製版、インキ、印刷等)に対応させ、進化しながら約150年にわたって工芸官に受け継がれています。これまで全て手描きのデザインだったものがコンピュータを活用するようになり、彫刻技術も手彫りの原版をデジタル化する技術を研究開発し、歯車を組み合わせて作製されていた彩紋がCGを活用して作製されるようになり、すき入れ技術もより高精細化するためのノウハウを確立するなど、それぞれ進化を遂げてきました。これらは単にデジタル技術を取り入れるのではなく、大元となる伝統技術と偽造防止技術の基本を工芸官が理解し、日々の研鑽により体得して初めて、伝統技術とデジタル技術との融合を図ることができるものです。

 

☆今業務を通じてやりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。

自分が携わった仕事の成果である製品が世に出回り、多くの方々の目に触れられることにやりがいを感じています。国民の皆様に親しみを持っていただくことも大事ですが、日本の文化・イメージを損ねないような製品の設計をすることが肝要です。重責ですが、日々やりがいを感じながら研鑽を重ねています。
 最近は、製品を製造するだけでなく、美術系の大学での講義や実技指導も行っており、講義等を通じて、学生にものづくりの難しさや楽しさを感じてもらえることにもやりがいを感じます。

 

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。

お札は、水や空気のように、私たちの日常生活になくてはならないものだと思います。国民の皆様がお札を、安心・安全に使えるように、工芸官は一丸となって、これからも技術力向上に努めてまいります。お札をじっくりと手に取る機会がありましたら、そのデザインや印刷技術にも目を向けていただき、日本のものづくりの素晴らしさを感じていただけたら嬉しい限りです。

 
お札の彩紋を作成する様子
 
▲すき入れで作られた習作(東京国立博物館)
 

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