第37回(令和6年) 人事院総裁賞「職域部門」受賞

環境省 関東地方環境事務所
佐渡自然保護官事務所

  野生絶滅したトキについて、佐渡島内において推定個体数が500羽を超えるなど安定的に生息する状況を実現。地域の理解促進、生息環境の整備、科学的知見に基づく繁殖・放鳥等について、継続して丁寧な調整、対応に努め、日本の自然環境保全に大きく貢献したことが認められました。

 
 
 

はじめに、佐渡自然保護官事務所はどのような業務を行っているのでしょうか

環境省は、野生生物の種の保存を任務の1つとしており、佐渡自然保護官事務所では、野生絶滅したトキを再び日本の野生に戻すという事業に取り組んできました。トキを飼育施設で繁殖させ、平成20年から毎年佐渡島で放鳥しており、今では佐渡島に野生のトキが推定500羽以上生息しています。
 トキの野生復帰には、①環境教育や座談会等を通じて地域住民のトキに対する理解や協力を促す社会環境整備、②環境保全型農業やビオトープ(注)整備によりトキの餌場環境等を創出する生息環境整備、③科学的知見に基づくトキの飼育・放鳥の取組が重要です。そのため、トキの飼育・放鳥だけではなく、餌場となる場所の整備やトキに関する勉強会の開催など、トキと共生するための環境づくりについても、地元の自治体や地域の方々と一緒に取り組んでいます。また、これらの取組の効果を把握するため、トキの観察も毎日行っています。


(注) ビオトープ:工業の進展や都市化などによって失われた生態系を復元し、本来その地域にすむ生物が生息できるようにした空間。

 

トキと共生するための環境づくりを実現するために工夫された点や苦労された点があれば教えてください。

トキには、水田を荒らすということで害獣として駆除された歴史があるため、トキの放鳥を開始した頃は、地域の方々から水田への被害に対する懸念が出ていたと聞いています。当時の担当職員は、地域の方々にトキの野生復帰に向けた取組を理解していただくために、島中を回って地域住民の皆様と膝を突き合わせて話をしていたそうです。このような地道な取組を長年積み重ねた結果、今では地域の方々から自分たちの水田で放鳥してほしいとの要望を頂くまでになりました。
 事業を進めるにあたって、私たちが重要視している点は、地域の方々のトキに対する想いです。皆さんの想いは様々で、全てに応えることは難しい部分もありますが、なるべく多くの想いに応えることができるよう、情報伝達手段が充実している今でも、私たちは当時を見習って、地域の方々とできるだけ直接お話をするようにしています。

 

業務を通じて喜びややりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。

野外でトキの姿を見るたびに、事業の成果を実感します。特に春になって巣の中に雛を見つけたときはとても嬉しく、成長を楽しみにしながら毎日観察しています。
 最もやりがいを感じるのは、トキを放鳥したときです。放鳥箱からトキを放鳥した瞬間、佐渡島の空に飛び立ったトキを見て、地域の方々が目を輝かせて喜んでくださいます。佐渡島には、野生絶滅前からトキの保護に携わってきた方もいますし、多くの方々が、トキの野生復帰のために餌場となる水田やビオトープの整備に取り組んできたので、放鳥箱が開いた瞬間、地域の方々がトキに掛けてきた想いもあふれ出てくるのだと思います。私たちはこういった地域の方々の姿を見ると、次の放鳥も実現させようと非常にやる気が出てきます。また、放鳥されたトキが水田で餌をついばんでいるのを見ると、野生でもたくましく生きてほしいと心から思います。

 

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。

環境省は、令和8年度上半期中を目処に、本州で初めて、石川県能登地域にてトキの放鳥を行い、野生復帰事業を展開していくことを決定しました。将来的には全国各地の空をトキが舞う日が来ることを目指しています。
 トキが生息できる自然環境は、人間にとっても他の生き物にとっても良い環境です。佐渡島では、トキをシンボルとして地域の自然環境保全の取組を進めることで、生物多様性も増進しました。また、地域の活性化にもつながりました。全国各地でも、佐渡島と同様に、人間と自然が共生することができる環境づくりが進み、トキを受け入れることができる環境が広がっていくことを目指していきますので、国民の皆様におかれても、トキ野生復帰事業に御理解・御協力を頂けますと幸いです。

 
飼育しているトキを確認する様子
 
▲トキ放鳥の様子
 

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