第37回(令和6年) 人事院総裁賞「個人部門」受賞

徳永 悠希
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海上保安庁 第三管区海上保安本部
横浜海上保安部 警備救難課 海上防災係長

 

  徳永さんは、特殊救難隊に代表される高度な知識・技術を要する救助勢力として、沖縄八重山諸島周辺海域をはじめ全国各地での人命救助活動に尽力。ネパール大地震など海外での人道支援にも参画。潜水等の新手法導入や他機関への指導・協力、後進の指導・育成、離職防止にも精力的に従事し、国民の安全確保に大きく貢献したことが認められました。

 
 
 
 

徳永さんがこれまで従事してこられた人命救助の業務内容をお聞かせください。
 平成17年度から令和5年度まで、巡視船いず潜水士を計5年、特殊救難隊を副隊長の三年を含め計10年、機動救難士を上席の1年を含め計3年務めました。潜水士としては、遠方洋上における船舶事故や船上負傷者の対応、深々度潜水による行方不明者の捜索救助などを実施し、特殊救難隊では、羽田の基地から全国の特殊海難に対応していました。機動救難士としては、石垣航空基地でヘリコプターと連携した救助を主任務としていました。

 

長年、人命救助活動の第一線で活躍されてきた中で、大事にしてきたことがあれば教えてください。
 大きく5つあります。
 1つ目は、必ず生きて帰ることです。特殊難隊は今年50周年を迎えますが、殉職者は1名も出していません。これは今後も継続していかなければならない使命でもあります。
 2つ目は、要救助者の生存可能性を疑わず、絶対に家族のもとへ帰すという意識です。要救助者が生存しているか不透明な場合もありますが、ついさっきまで呼吸があったかもしれない、行方不明のままではご家族も心の整理ができないかもしれないとの思いで、決して諦めることなく常に全力で対応してきました。
 3つ目は、安全管理のプロであることです。救急処置は医師など、特定の分野で私たちより専門的な方々は沢山います。しかし、それらを通常実施しない危険な環境で対応するのが私たちの仕事です。時々刻々と状況が変化する海上では安全管理のプロでなければなりません。安全に到達点はありませんので、1パーセントでもリスクを排除し、救助の可能性を上げるためにはどうするべきか、常に考え続けることが重要だと思っています。
 4つ目は、疑問を持つ意識と解決する行動をとることです。疑問を見つけ、調べて解消することで、理論的に分解でき、本質を見抜くことができると考えています。「?」をいくつも見つけ、それらを「!」に変えることです。また、他者の経験も自分事と捉えて考えること、うまくいった事案対応等も異なる状況に置き換えて考えることなど、間接経験をプラスすることも重要だと考えています。これらを繰り返し、自分の中で知識・技術としてシンプルに蓄積することで、臨機応変な行動・対応が可能になります。また、先を読むスキルにもつながります。現場での臨機応変な判断や的確な対応は、単純な経験年数ではなく、これらの積み重ねによるものだと思っています。
 5つ目は、家族への仕事の影響を可能な限り少なくすることです。急な呼出や不規則な勤務環境において、家族の負担となることがあるため、些細なことですが、予定や帰宅見込み時間などを伝えるよう努めました。職場でも、同僚の家族に対し業務体験の機会を設け、理解を深めていただき不安の解消を図りました。家族に1番身近な応援団となってもらうことで、隊員の離職防止にもつながると考えるようになりました。

 

印象に残っている事案等がありましたらお聞かせください
 印象に残っている事案の1つは、沖縄県竹富町浜島沖貨物船座礁海難事案です。猛烈な風で大しけのなか、19人を救助しました。風速20メートル、8メートルの波浪という台風のような悪天候で、大波にさらわれない構造物の影が一部しかない中、4回に分けて無事に吊上げ救助を成功させました。大きく揺れる船上で背後の波や傾斜具合を確認しながら、一緒に活動した隊員が構造物の影から出そうな場面では、安全な場所に引っ張り入れるなどをして、無事に完遂できました。

 

☆業務を通じてやりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。
 純粋に人の命が救えたときはこれ以上ないやりがいを感じます。助けられた方々が安堵の表情をされたり、ご家族のもとに帰れた時は、命の尊さはかけがえのないものであると改めて痛感いたします。御礼の手紙が届くこともあるのですが、胸が温かくなり、本当にこの仕事を続けてきて良かったなと思うとともに、まだまだ技能を向上させなければと心の背筋が伸びる思いになります。また、積み重ねてきた訓練により、とっさの判断や臨機応変な対応ができたときは、成果を感じられ嬉しく思います。

 

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。
 時代とともに、船の大きさや性能、運送するものが変わっていき、マリンレジャーも多様化していきますが、自然の猛威における人の無力さは変わりません。これまで同様、悲しい事象が起きないよう、無事に家族のもとへ帰れるよう、海での事故には十分気を付けていただきたいと思います。その上で、海を好きになって、楽しんでいただければ幸いです。私たち海上保安庁は、今後も日々研究・訓練を重ねてしっかりと備えていきますので、出動がないことが1番ではありますが、もし万が一の際には安心していただければと思います。

 
▲沖縄県竹富町浜島沖貨物船座礁海難での救助の様子
 
▲氷下潜水訓練を行う徳永氏(写真中央下)
 
 

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