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第1編 《人事行政》

【第1部】 人事行政この1年の主な動き

第1章 国家公務員制度改革

1 国家公務員法等の一部を改正する法律の成立


(1)法案提出に向けた動き

ア 政府における検討

国家公務員制度改革については、稲田公務員制度改革担当大臣の下で検討が進められていたが、平成25年5月24日に公表された稲田大臣の「所感」において、平成21年に国会に提出された国家公務員法等の一部を改正する法律案(以下「21年法案」という。)について、「この5年間の日本を取り巻く状況・環境の変化も踏まえながら、逐条ごとに精査していきます。そして、おおむね1か月後に国家公務員制度改革推進本部を開催し、改革の全体像(仮称)をお示しし、決定することを目指します。」とされた。

ついで、6月28日、国家公務員制度改革推進本部において、「今後の公務員制度改革について」が決定された。同本部決定において、政府は、21年法案を基本とし、国家公務員制度改革基本法(平成20年法律第68号)の条文に即して、機動的な運用が可能な制度設計について早急かつ丁寧に検討を進め、秋に国会が開かれる場合には、国家公務員制度改革関連法案を提出するとともに、平成26年春に内閣人事局を設置することを目指すこととされた。

(参考)21年法案の概要

①幹部職員等の一元管理等

適格性審査及び幹部候補者名簿の導入、幹部職員の任免協議、幹部職員の公募、幹部候補育成課程、幹部職員の降任の特例等

②内閣人事局

①の事務のほか、次に掲げる事務等を所掌するため内閣人事局を置く

  • 国家公務員制度の企画及び立案、特別職国家公務員の給与制度、行政機関の機構及び定員に関する企画及び立案並びに調整等に関する事務〔総務省人事・恩給局及び行政管理局から移管〕
  • 級別定数の設定及び改定(指定職については号俸格付)、任用、採用試験(採用試験の実施を除く。)、研修(人事院が担う研修の実施を除く。)に関する事務〔人事院から移管〕

③国家戦略スタッフ等

内閣官房に国家戦略スタッフを置き、各府省に政務スタッフを置く

(注) 自律的労使関係制度の措置については規定されていないが、本法案提出前に示された国家公務員制度改革基本法に基づく改革の工程表においては、協約締結権の付与を措置することが定められていた。

イ 人事院の取組

人事院は、公務の民主的かつ能率的な運営を保障することを目的とする国家公務員法の下、人事行政の公正の確保及び労働基本権制約の代償機能を担うとともに、人事行政の専門機関として時代の要請に応える人事施策を展開してきている。

国家公務員制度は、各分野の行政を安定的・継続的に支える基盤となる制度であることから、その改革に当たっては、人事行政の公正の確保や労働基本権制約の代償機能について、国民的視点に立った幅広い議論を行い、広く関係者の合意を得て進める必要があるものと考えている。そのため、人事院は、長年にわたり蓄積してきた知見と経験に基づき、これまでも機会を捉えて、政府に対し、必要な意見を述べてきたところである。

(ア) 国家公務員制度改革推進本部決定に至るまでの人事院の意見の表明

6月28日の国家公務員制度改革推進本部決定に際し、それに先立つ6月20日に、稲田公務員制度改革担当大臣に対し、人事院総裁から、今後の公務員制度改革についての意見を提出した。

(参考)人事院総裁の意見の概要

①幹部職員人事の一元管理等について

幹部職員も成績主義の原則が適用されることから、職務に必要な能力・適性が公正に判断される必要がある。特に、外部からの採用については、選考手続の中でその人事の公正性が確保できるよう、第三者機関がその基準設定などに適切に関与する仕組みなどが必要と考える。

②労働基本権制約の代償機能の確保について

級別定数は、俸給表と一体となって職員の処遇を確保するための重要な勤務条件であり、現在も各府省及び職員団体からの意見を聞いた上で、決定をしている。労働基本権の制約について現行どおりとする以上、級別定数に関する機能は、使用者機関ではなく、第三者機関である人事院が代償機能として担う必要がある。

③人事行政の公正性の確保について

任用の基準、採用試験・研修は、その公正性を確保する観点から人事院が担うこととされてきたものであり、第三者機関から使用者機関に移管する合理的な理由は認められず、引き続き第三者機関である人事院が担うべきであると考える。

また、6月28日に開催された国家公務員制度改革推進本部においては、人事院総裁から「国家公務員制度は、各分野の行政を安定的・継続的に支える基盤となる制度であり(略)幹部職員人事における公正性の確保、労働基本権制約の下での代償機能に関わる事項、人事行政の公正性の確保に関わる事項の取扱いについては、十分な議論を重ね、広く関係者の合意を得て進めていただく必要」がある旨の発言を行った。

(イ) 給与に関する報告の際の人事院の意見の表明

さらに、人事院は、平成25年8月8日の給与に関する報告の際、あわせて、「国家公務員制度改革等に関する報告」を行い、その中で、国家公務員制度改革についての経緯を振り返り、今後の検討に当たっての留意点等を提示した。

同報告では、

①幹部職員人事の一元管理については、内閣人事局の役割と各省大臣の組織・人事管理権との調和等を考慮して適切な制度設計を行う必要があるとともに、中立・第三者機関が選考基準設定等に関与する必要があること、

②内閣人事局の設置と人事院の機能移管については、級別定数は重要な勤務条件であり、労働基本権制約の下では、級別定数に関する機能は中立・第三者機関が代償機能として担う必要があるとともに、任用基準、採用試験及び人事院が所掌している研修は、人事行政の公正を確保する観点から特に重要な事務であり、これまでどおり中立・第三者機関が担うべきであること、

③自律的労使関係制度については、人事院はこれまで議論を尽くすべき重要な論点(公務の労使交渉においては給与決定に市場の抑制力が働かない、国会の民主的コントロールの下での使用者側の当事者能力には限界がある等)を提起してきているが、十分な議論は行われておらず、いまだ国民の理解は得られない状況にあること

等の論点を示した。

ウ 法案の調整及びとりまとめ

政府(内閣官房行政改革推進本部国家公務員制度改革事務局)において、6月28日の国家公務員制度改革推進本部決定を踏まえ、21年法案を基本として検討が行われ、9月に入ってからは、与党における議論、人事院との協議、各府省人事当局との協議など各方面との調整が進められた。

こうした調整を通じて、法案には、上記イの人事院が述べてきた意見を踏まえた改正が盛り込まれることとなった。

具体的な改正内容は、以下のとおりである。

①幹部職員人事の一元管理等

  • 幹部職員人事の一元管理等に関する事務は内閣総理大臣が担うこととされたが、幹部職員人事の一元管理における適格性審査及び幹部候補者名簿に関する政令を定めるに当たっては、適格性審査の基準、手続や幹部候補者名簿の作成等における公正性を確保するため、あらかじめ人事院の意見を聴くことが定められた。

②労働基本権制約の代償機能の確保

  • 級別定数の設定・改定に関する事務については、機動的な人事・組織管理等の観点から、機構・定員に関する事務とともに一体的に内閣総理大臣が担うこととされたが、級別定数は勤務条件の側面を有することに鑑み、職員の適正な勤務条件の確保の観点からする、級別定数の設定・改定に関する人事院の意見を十分に尊重することが法案に明記された。
    また、この法案の規定を踏まえた級別定数の実際の運用においては、各府省要求に始まる予算編成過程において、人事院が労使双方の意見を聴取して策定した級別定数の設定・改定案を意見として内閣総理大臣に提出し、内閣総理大臣はそれに基づいて級別定数の設定・改定を行うこととなる。

③人事行政の公正の確保

  • 職員の公正な任用の確保に関する事務や採用試験の対象官職等を除く採用試験の企画と実施に関する事務については、今までどおり人事院が担い、人事院規則で定めることとされた。内閣総理大臣は、各府省のニーズに基づく採用を確保するという観点から、優れた人材の養成・活用に関する事務のほか、特定の行政分野に係る採用試験等の対象官職や種類、採用試験により確保すべき人材に関する事務を担うこととされ、これらに関する政令は、採用試験における公正の確保の観点から、人事院の意見を聴いて定めることとされた。
  • 研修については、人事院と内閣総理大臣がそれぞれ中央人事行政機関として研修を行うこととされた。人事院は、これまで行ってきた国民全体の奉仕者としての使命の自覚及び多角的な視点等を有する職員の育成等の観点から行う研修の計画・実施を引き続き担うこととされた。また、これまで人事院が行ってきた各府省が行う研修に関する総合的企画・調整に関する事務は内閣総理大臣が担うこととされ、人事院は、公正確保の観点から、内閣総理大臣及び各府省が行う研修の監視・是正指示等の事務を担うこととされた。

このように、今回の法案では、人事管理に関し、内閣総理大臣の行う事務が追加されたが、それに対するチェック機能も含めて、人事院の人事行政の公正の確保及び労働基本権制約の代償機能は引き続き確保されることとなった。

なお、自律的労使関係制度については、21年法案の際には、平成21年2月の国家公務員制度改革推進本部決定で自律的労使関係制度の措置を含めた改革の工程表が定められたが、今回の改正においては、特段の取組はなされていない。

(2)国会における審議

11月5日に「国家公務員法等の一部を改正する法律案」(以下「政府提出法案」という。)が閣議決定され、第185回国会(臨時会)に提出された。

これに対し、野党から、民主党、みんなの党及び日本維新の会の共同提案による「幹部国家公務員法案」等の対案が提出された。

衆議院においては、11月22日に本会議で政府提出法案の趣旨説明及び質疑が行われた後、内閣委員会において、政府提出法案及び野党から提出された法案が一括して審査された。政府提出法案等は継続審査とされた。

平成26年1月24日に開会された第186回国会(常会)では、内閣委員会において、3月12日、自由民主党、公明党及び民主党の合意により雇用と年金の接続に関する附則を追加する修正が行われた上で可決され、また、5項目の附帯決議が付された。同月14日、本会議で可決された後、参議院に送られた。

参議院においては、4月2日に本会議で修正後の政府提出法案の趣旨説明及び質疑が行われた後、同月3日から内閣委員会で審査が開始され、10日に可決し、6項目の附帯決議が付された。翌11日、本会議で可決、成立し、18日に公布された。

(参考)国会審議における人事院総裁の答弁
(政府提出法案に対する人事院の基本的な考え方)

人事院は、今回の国家公務員法等改正法案に関しまして、人事行政の公正の確保と労働基本権制約の代償機能の確保、(中略)そういった公務員制度の根本に関わる機能を低下させるべきではないとの立場から、これまで国家公務員制度改革事務局と意見交換を重ねてきたところでございます。

その結果、今回の法案では、人事行政の公正の確保と代償機能の確保に支障が生じないものと判断をしたところでございます。

具体的に申し上げますと、人事行政の公正の確保という点につきましては、そのために必要な基準は今後とも人事院が定めることとされており、また、採用試験や研修につきましても、必要な機能は人事院が担うこととされていることから、人事行政の公正の確保に支障が生じないものと理解してございます。

級別定数につきましては、組織管理の側面がある一方で、勤務条件の側面を有するものであることから、その設定、改定に当たりましては、労働基本権の制約のもとでは、代償機能が適切に発揮される必要がございます。級別定数の設定、改定は内閣人事局が所掌することになりますが、今回の法案におきまして、職員の適正な勤務条件の確保の観点からする人事院の意見を聴取し、これを十分に尊重するものと法定されているところでございます。

その運用につきましては、各省要求に始まる予算編成過程におきまして、人事院が労使双方の意見を聴取して作成した設定、改定案を意見として内閣人事局に提出し、内閣人事局がそれに基づいて級別定数の設定、改定を行っていただくことが基本となるものと考えてございます。これによりまして、労働基本権制約の代償機能が確保されることになると考えているところでございます。

いずれにしましても、人事院といたしましては、今後とも、政令の策定や運用に当たりまして、人事行政の公正の確保あるいは労働基本権制約の代償機能の確保がなされるように十分留意してまいりたい、かように考えているところでございます。

(平成25年11月29日衆議院内閣委員会における人事院総裁答弁)


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