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第1編 《人事行政》

【第2部】女性国家公務員の採用・登用の拡大に向けて

はじめに


男女共同参画社会の実現は、両性の人権尊重という普遍的な基本理念に基づく要請であり、人事院においても、人事行政における重要課題の一つとして従来から取り組んできたところである。

また、少子高齢化による労働力人口の減少、グローバル化や消費者ニーズの多様化への対応等の観点から、我が国の経済社会の活性化のためには、人口のほぼ半分を占める女性の能力の活用が不可欠との認識が社会全体で広く共有されるようになっている。

特に、最近は、成長戦略の一環として「全ての女性が活躍できる社会を創る」ことが重視され、2020年には社会のあらゆる分野において指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%程度とする目標の下で様々な施策が打ち出されるなど、女性の登用拡充の機運がかつてなく高まっている。

こうした動きの中で、国家公務員について女性の採用・登用を積極的に推進することは、経済、外交、財政、労働、福祉など国のあらゆる政策決定過程への女性の参画を高めることにつながることに加え、国がこうした拡充を率先することで、地方公共団体や民間企業等における取組の促進にもつながることが期待されている。

また、その方策については、成績主義原則に基づく公務員制度の本旨に立って、女性であることのみを理由とした優遇ではなく、適材適所を公平・公正に実現することが必要であり、最終的には、「性別にかかわらず、全ての人材の能力が最大限に活用される状況の実現」を目指すべきものと考える。

この点について、公務においては平等取扱原則(国公法第27条)の下で、出産・育児等に係る両立支援策を充実させていけば、性別にとらわれない能力本位の採用・登用も自ずと拡充するはずとの見方もあった。

しかし、我が国における女性労働をめぐる現実に目を向けると、

  1. 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「男女雇用機会均等法」という。)の施行(昭和61年)など節目節目での進展があったとはいえ、長年にわたって採用・登用の機会が男女で同じとは言い難い運用が続き、公務もその例外ではなかったこと
  2. 官民問わず、長期雇用の下で、昇進のためには資格取得や研修よりも職務を通じた訓練(OJT)が重視される人事慣行があり、幅広い職務経験を段階を追って一つずつ積み上げていく働き方が原則とされていること
  3. 女性にとって身体的に出産・育児に適した時期が、②の観点から職業人として重要な経験を積むべきとされている時期に重なりがちで、前者は個人の努力で調整できる性質のものではないことへの配慮が乏しかったこと
  4. 集団的執務体制の下では、各人の職務の範囲が不明確で、かつ、限られた人員配置の下で的確かつ迅速な対応を求められることから、家庭責任を顧みることなく忠実無定量的な働き方を前提とした長時間労働の慣行が根強く、適応できるのは一部の女性に限られてきたこと
  5. 伝統的な役割分担意識の強い社会において、大学進学率自体は男女同程度となっていても、欧米に比べ、法律、経済、理工などの職業生活に直結する専攻分野を選ぶ女性が少ないこと
  6. 職場においても、責任ある立場に就くことの魅力が必ずしも女性の間に広く浸透していない一方で、男性側も、女性が自分の競争相手ではなく補助的立場にとどまることを好む傾向があること

など、実質的な平等の実現を阻害する様々な要因が存在することが浮かび上がってくる。

このため、女性が男性同様に能力を発揮できる環境を実現していくためには、採用・登用拡充の呼びかけに加え、こうした歴史的、社会的な障害の所在を見極めて、それらを一つずつ取り除いていくという地道な取組が求められる。

人事院は、人事行政の専門機関として、女性の活躍支援が一過性の掛け声に終わらず、国民にも広く受け入れられ、長期的に持続可能なものとして公務にしっかりと根付いていくよう、各府省における取組を下支えしていきたいと考えている。

本報告では、女性の採用・登用に係る公務の現状をデータ及びアンケートに基づき分析した上で、民間企業における先進的な実例、諸外国における実態を聴取して、有用と思われる具体的示唆を導き出し、女性国家公務員の採用・登用の促進に資する方策を示すこととしたい。


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