第1編 人事行政

第2部 風通しのよい職場環境づくりに向けて〜職員の声から見える公務職場の実情を踏まえて〜

第2章 個別の苦情相談の内容

1 多様な事情を抱えた職員の業務との両立

【事例1】出産、育児を控えた職員を取り巻く職場環境

まもなく産前休暇に入る職員であるが、上司から引継ぎのために産前・産後休暇中や育児休業中に出勤してほしいと言われた。引継書を作成し上司に渡すとともに、他の職員にも引継ぎを行ったが、別の職員にも引継ぎを行う必要があり、直接私から引継ぎをしてほしいというのがその理由である。

(関連制度)

女子職員の出産に係る休暇として、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定がある女子職員が申し出た場合に、出産の日までの申し出た期間、いわゆる産前休暇が、女子職員が出産した場合に、出産の日の翌日から8週間を経過する日までの期間、いわゆる産後休暇が設けられている。

また、職員は、任命権者の承認を受けて、子を養育するため、当該子が3歳に達する日まで、育児休業をすることができる。なお、任命権者は、育児休業を請求した職員の業務を処理するための措置を講ずることが著しく困難である場合を除き、これを承認しなければならないこととされている。

(本事例から見える課題)

本事例については、産前・産後休暇及び育児休業を取得する予定の職員に対して、上司から引継ぎ等の職務命令が発せられたものである。産前・産後休暇は、胎児の生育や母体保護のために設けられたものであり、職務に従事する必要はなく、上司がその期間に引継ぎのための出勤を命ずることはできない。また、育児休業中についても、職務専念義務が免除されている職員に出勤を命ずることはできず、上司の指示は適切でない。

本事例のような妊娠・出産・育児というライフイベントを控えた職員は、そのようなライフイベントに対する不安に加え、仕事との両立に不安を感じていることが多い。そのような多様な事情を抱える職員を部下に持つ管理職員は、制度の理解は当然のこととして、当該職員の業務状況や休暇・休業の要望等について把握するとともに、それを最大限実現できるよう組織全体を計画的にマネジメントし、必要に応じて業務体制や仕事の割振りの見直しを行う必要がある。また、特に妊娠・出産・育児については、事由が急に発生するとは考えにくいことから、普段から当該職員や周囲の職員と密にコミュニケーションを取るなど相談しやすい職場の雰囲気を醸成し、産前・産後休暇や育児休業に入る前に余裕を持って業務の引継ぎ等を行うことで、当該職員が安心して休暇・休業に入ることができる環境を整えることが肝要である。

【事例2】介護と業務の両立

両親が病気で介護が必要な状態となったので、介護休暇を取得したい旨上司に相談したところ、その2日後にその上司から突然、他の部署に異動と言われたが、この異動を受けるしかないのか。上司とはなかなか話ができる雰囲気ではない職場である。異動の理由は分からないが、後任者も決まっているようである。

(関連制度)

職員は、任命権者の承認を受けて、負傷や疾病又は老齢により2週間以上の期間にわたり日常生活を営むのに支障がある者の介護をするため、介護を必要とする一の継続する状態ごとに、通算して6月の期間内(3回まで分割可能)において、勤務しないことが相当と認められる期間、介護休暇を取得することができる。なお、任命権者は、介護休暇の事由に該当すると認めるときは、公務の運営に支障がある日又は時間を除き、これを承認しなければならないこととされている。

(本事例から見える課題)

本事例については、職員の異動について介護休暇の相談をした2日後に内示があったものであるが、このような介護の必要のある家族を持つ職員は、介護と仕事の両立に不安を感じていることが多く、特に、本事例では、休暇の申出と異動を伝えるタイミングが近接していたことから、職員が介護休暇の申出に対する措置として異動が命ぜられたと感じたものであり、当該職員に対する管理職員からの説明や意思疎通が不十分であったものと考えられる。

このような事情を抱える職員に対しては、管理職員は、制度の理解は当然のこととして、特に、介護については、事前に分からないケースも想定されるため、そのような事由が発生した場合にも速やかに対応できるよう、普段から部下職員と密にコミュニケーションを取るなど相談しやすい職場の雰囲気を醸成することが肝要である。

【事例3】健康に関する問題(メンタルヘルス)

前の週の金曜日に医師から精神疾患のため2週間の療養を要する旨の診断を受けたため、診断書を添えて病気休暇の請求をしたところ、診断書記載期間どおりの病気休暇の承認がなされなかった。

課長からは、業務繁忙期に2週間も休まれては困るので、週休日を含め3日間の休みは認めるが、月曜日からは必ず出勤するようにと言われたところ、月曜日になってもまだ体調が悪く、出勤するのは厳しい状況である。

診断書記載の期間どおりに病気休暇が承認されなかったことは初めてであり、このような取扱いに疑問がある。

(関連制度)

職員は、各省各庁の長の承認を受けて、負傷や疾病のため療養が必要である場合、必要と認められる最小限度の期間(原則最大連続した90日間)、病気休暇を取得できる。各省各庁の長は、休暇の事由に該当すると認めるときは、公務の運営に支障があり、他の時期においても目的を達することができると認められる場合を除き、承認しなければならないとされている。この場合において、病気休暇は原則として医師の診断書に基づき判断することが求められているところ、提出された診断書の内容によっては勤務しないことがやむを得ないと判断できないとき等においては、健康管理医又は各省各庁の長が指定する医師の判断を求めるものとされている。

また、メンタルヘルスに関しては、自身のストレスを把握するストレスチェック制度の導入や休職者が円滑に職場復帰するための試し出勤の実施等が行われている。

(本事例から見える課題)

本事例については、メンタルヘルスに係る疾病と診断され療養が必要とされた職員が、業務繁忙を理由として当該療養に必要な期間の一部について、病気休暇が承認されなかったものである。

職員一人ひとりが自身の能力を最大限発揮するためには、健康であること又は疾病に罹患したとしても、当該疾病の程度に応じて、その治療と仕事を両立することが求められる。職員の健康については、一義的には本人がしっかりと把握し、対処するべきものであるが、組織側としても能率や安全配慮義務といった観点に加え、行政運営を円滑に行うためにもしっかりと取り組む責任がある。

病気休暇については、各省各庁の長において、職務遂行の可否等について、職員の健康安全の観点を踏まえて、慎重に判断する必要がある。

また、メンタルヘルスに係る疾病については管理職員や同僚など他の職員が気付くこともあるため、管理職員は普段から職場において各職員と密にコミュニケーションを取るなどして、些細な変化を見逃さないことが必要である。そのような変化が見られた場合は、健康管理者や健康管理医などの保健スタッフに相談するなど、組織として対応していくことが重要である。加えて、メンタルヘルスに係る疾病については、業務過多等によるストレスに起因することも考えられることから、管理職員は、当該疾病に罹患した職員と密にコミュニケーションを取り、今後の業務分担等を行うことが重要である。

【事例4】妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメント

妻が第一子を出産する予定であるため、夫である私が、育児休業をすることについて上司に相談したところ、「私の立場では駄目と言えないのは分かると思うけど、当然の権利だと思わないように。」等明らかに歓迎しない態度を取られた。

(関連制度)

妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントは、規則10−15(妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントの防止等)において定義されており、①妊娠又は出産したこと、②妊娠又は出産に関する制度又は措置の利用、③育児に関する制度又は措置の利用、④介護に関する制度又は措置の利用に関する言動により、当該職員の勤務環境が害されることが、当該ハラスメントに該当するとされている。また、各省各庁の長には、妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントの防止に関し、必要な措置を講じること、苦情を申し出た職員の不利益を防止すること、職員に対して必要な研修を実施すること等が義務付けられているほか、当該ハラスメントが生じた場合は必要な措置を迅速かつ適切に講じなければならないとされている。

育児休業については、男性職員・女性職員ともに対象であり、承認の請求を育児休業を始めようとする日の原則1月前までに行うものとされている。

(本事例から見える課題)

本事例については、妻が出産するため育児休業をしようとした男性職員に対し、上司が明らかに歓迎しない態度を取ったものである。事例1で述べたとおり、育児休業は任命権者の承認によることとされているが、当該承認については、自由裁量でなく不承認の余地は極めて限定的であり、本事例のような発言は適切でない。

女性活躍の観点や価値観の多様化等を背景として、政府全体として男性の育児休業が推進されていることからも、育児は女性がするものといった考えを持っている管理職員は、その認識を改めるとともに、制度を理解し、男女問わず部下職員が育児と仕事を両立できるよう最大限支援することが必要である。そのためには、育児を行う職員とのコミュニケーションを通じ、休暇・休業や業務を含めた働き方に関する悩みを把握する必要がある。また、他の職員も含めて業務の割振りを見直すなど、組織全体で対応する必要がある。