第1編 人事行政

第2部 風通しのよい職場環境づくりに向けて〜職員の声から見える公務職場の実情を踏まえて〜

第3章 課題と対応

第2節 対応策

3 管理職員のマネジメント能力の向上

(1)部下職員の能力伸長

組織における一般的な意思決定方式としては、大まかに、トップダウン型、ボトムアップ型に分けられる。案件の内容や締切までの日数など、様々な要因によってどちらを選択することが適当であるかは異なってくるものであり、当然のことながら、一律的に決められるものではない。

トップダウン型の長所として、意思決定スピードの速さやトップの意思の的確な浸透が挙げられるところであるが、そればかりによることになると、部下職員である若手・中堅職員のやる気を奪い、いわゆる指示待ちタイプの職員を生み出すことにもなりかねない。

近時、公務職場においては、人員面で厳しい状況に置かれていることや、行政の複雑・高度化が進んでいることなどから、政策に係る意思決定に時間的な余裕がなく、トップダウン型に偏りがちになる傾向にあるとも思われる。

管理職員が、物事を決めるべき時に決め、自らがその責任を負うということはいかなる意思決定方式をとるとしても変わるものでないが、部下職員を育成し、将来に向けて組織パフォーマンスを高めていくという観点からは、できる限り、部下職員に提案等を求め、それを基に施策を作り上げていくというボトムアップ型をとることが適当と考えられる。

その際、ただ単に案件の提案等を部下職員に求めるだけではなく、部下職員の業務処理等の実情を日頃からよく把握した上で、当該職員の能力や負担度を見極め、業務分担として特定の職員に過度な負担とならないよう留意しつつ、個々の職員の能力伸長につながるような形で、部下職員に委ねることが必要である。

仮に、部下職員の考えとは異なる管理職員の考えに沿った意思決定を行った場合でも、なぜそうしなければならないのかについて、必然性や合理性を丁寧に説明することにより、部下職員の納得を得ることが必要である。

(2)日常的なコミュニケーション

今後は、育児や介護など多様な事情を抱えている職員がどの職場においても多数存在するようになることや、職場外の人との交流や自己啓発など仕事以外の生活も充実させたいという意識のある職員がいることを、それぞれの管理職員が自覚することが求められる。その上で、これと調和できるような職場環境を構築していけるよう、業務処理や人員配置に係る計画等を考える必要がある。

具体的には、まず、個々の職員が抱える事情は様々なものがあることから、業務面にとどまらず、プライベートな面においても、部下職員の実情を個人のプライバシーにも配慮しつつ十分に把握することが求められる。

ともすれば、近時、職場において、上司がプライベートな面にまで立ち入ることについて、必ずしも肯定的な部下職員ばかりではないことから、管理職員の側で、消極的に捉えられることも少なくない。

しかしながら、全く日々の職務と無関係のことであればともかく、育児や介護などの事情については、その職員の働き方に少なからず影響が生ずるものであり、仮にそうしたことに不安を抱えながら職務に従事しているとすれば、職務中の集中力といった、精神的な面において影響が生ずることにもなりかねない。

したがって、管理職員として、積極的に部下職員が抱える事情を把握する必要があるものと考える。その際、部下職員が抵抗感を持つことのないよう、個人的な興味本位で聴取するものではないことを伝えて理解を求めるとともに、日頃から信頼関係を築いておくことが肝要である。

そのためには、人事評価の面談等の機会だけでなく、日常的に、部下職員と積極的にコミュニケーションを取ることが求められるものであり、例えば、勤務時間外における雑談も有効であると考える。また、部下職員の家庭生活等の事情やプライベートな時間への配慮に留意しつつ、勤務時間外の昼食会や懇親会などを開催することにより、管理職員との話しやすい環境づくりをすることも考えられる。

○ 民間企業等における取組例

上司と部下のコミュニケーションのきっかけを作る取組として、月1回、簡単な質問に回答する調査を実施し、上司はその回答を見て、回答に変化があった社員に声かけする契機としているものがある。また、社内報を社内イントラネットに掲載し、役員や部門長等が発信するメッセージに対して社員が匿名でコメントを書き込むことができるとともに、そのコメントを見て他の社員もコメントできるようにしているといった取組も見られる。

さらに、若手社員が役員に1対1で、社内コミュニケーションツールの活用方法や特定分野のトレンドなどについてサポート・助言する取組も見られ、役員にとっては若手社員とのやり取りを通じて新たな気付きなどを得る機会となり、若手社員にとっては経営層の考え方等をタイムリーに聞き、モチベーションを高める機会になるとともに、この取組に参加する若手社員同士でコミュニケーションを図るきっかけ作りともなっている。

(3)自らのマネジメントの改善

管理職員にマネジメントが求められることは、ほとんど全ての管理職員が自覚しているものと思われる。他方で、日々の業務処理において、一人のプレイヤーとしても成果を出すことが求められるとともに、定型的な案件であっても、誤りのないように慎重な対応が必要とされるといったことから、部下職員と向き合うことをつい怠りがちになってしまうことはないであろうか。

こうした管理職員をめぐる状況からすれば、やむを得ない面もあるものと思われるが、組織全体としてのパフォーマンスを向上させるとともに、自らの成長に係る部下職員からの期待に応えるために、今一度、マネジメントの重要性を自覚し、行政をめぐる諸課題に取り組む中でも、部下職員の育成や多様な事情を抱える職員が能力発揮のできる職場環境の構築を図っていくことが求められる。

また、管理職員は、自分なりのマネジメントのスタイルを有している。それは、自らの経験の中から培われたものであり、マネジメントが画一的なマニュアルになじむものではない以上、そのこと自体は否定されるものではない。

しかしながら、多様な事情を抱えた職員が顕在化してきたり、若手職員に価値観の多様化やキャリア形成に関する意識の高まりが見られるなどの変化が生じてきたりしている中においては、自らのマネジメントを日々振り返り、必要があれば不断に改善していくことが求められる。

過去においては厳しい指導として許容されていたものであっても、現在改めて振り返ってみると、パワハラに該当するということもあり得る。管理職員として、かつては有効であった自らのマネジメントの方法も、時代とともに変化させなければならないということも生じ得るものであり、謙虚に見直す姿勢が肝要である。

かつて上司は「自らの背中で語る」ということで、自分の仕事ぶりを部下に見せていれば、黙っていても部下は自然と学んで成長するという考え方もあった。しかしながら、複雑・高度化する行政の下で、若手職員の価値観が多様化してきている近年の状況においては、そのような手法によって育成を図っていくことは効果的ではない。

加えて、情報通信機器の急速な進展が見られ、それ自体は効率的、合理的な業務処理に大きく寄与しているところであるが、他方で、直接的なコミュニケーションが希薄になるおそれもあり、部下職員が仕事の上でどのようなことに悩んでいるか、何が原因で業務処理が滞っているかといったことが把握しづらい面もある。

特に、これからのマネジメントにおいては、まずは相手の話を聴くという「傾聴」が重要であると考える。部下職員の話を積極的に聴き、お互いに話し合うことによって、誤解を生じさせず、信頼関係を築くことが何よりも求められるのではないか。

その際、1対1での対話、職場単位等で話し合う場の設定、コミュニケーションツールの使用など、話の内容や時々の状況に応じて、適宜使い分けながら、関係を深めていくことが肝要である。

人事院としても、管理職員向け研修においてマネジメントを取り上げるなど、各種の取組を通じて、引き続き管理職員のマネジメント能力の向上を支援してまいりたい。あわせて、セクハラの防止について、指定職職員及び本府省課長級職員への研修の実施を義務化することや、外部の者が職員から受けたセクハラに関する相談窓口を人事院に設置することとしている。また、パワハラの防止について、外部有識者の意見も聴きながら、公務における対策を検討することとしている。

○ 民間企業等における取組例

管理職のマネジメント向上の観点から、管理職を集めて、日頃課題に感じていることやそれにどのように対処しているかを話し合う機会を設け、同僚の管理職による課題への対処方法を聞くことを自らの気付きの契機とするという取組や、部下に管理職に対するアンケートを実施し、その結果を人事部からその管理職の上司に伝え、その上司が管理職を指導するという取組がある。