(1)職員個別の状況を踏まえたきめ細かい人材マネジメントの必要性
意識比較アンケートの結果を見ると、積極的な転職意向がある者は、自身の知識・スキルを高めることを重要視していることから、彼らに対しては、本人のスキル向上等、能力開発の支援というアプローチが人材流出防止の有効打となる可能性があると考えられ、その前提として一人一人のキャリアへの志向等を把握することが有効である。また、同じく意識比較アンケートから、若年層ほど上司や人事担当者には、職員一人一人のキャリア志向、成果などについて、もっと丁寧に向き合ってほしいと思っていることが読み取れる。伸長させるべき能力、その方法等について上司が自分と一緒になって考える時間を取り、支援してほしいと感じているものと考えられる。
調査等の結果から、人事担当部局や管理職員など人材マネジメントを行う者に対しては、職員(部下)との日常的なコミュニケーションのほか、評価面談や1 on 1ミーティング等の様々な接点を活用して、職員一人一人のキャリア志向や働き方に対する考え方を把握するとともに、人事異動や人事評価の際には、その根拠や更なる成長のために期待することについて丁寧に説明・助言するなどのきめ細かい行動がより一層求められているものと考えられる。
実際、各府省に対するヒアリング結果からも見られるように、多くの府省では、職員一人一人の短期的・中長期的なキャリア志向を面談で把握したり、人事異動時に当該異動の趣旨・背景について対象者一人一人に対して詳しく説明したりする等、きめ細かい人材マネジメントにつながる取組を実践し始めている。
(2)効率的な人材マネジメントの必要性
各府省の人事担当部局や管理職員の人員には限りがあり、上記(1)のような施策を十分に実施するのは難しいのが現状である。そのため、人材マネジメントに当たる人員体制の増強や一層の業務効率化への取組を引き続き実施することに加えて、公務組織の人材マネジメントを効率的に実施できるよう変革していくことが急務である。
職員個別の状況を踏まえたきめ細かい人材マネジメントを効率的に行うための基礎として、職員に関する様々な情報(例えば、過去の職務経験、当該職務経験を通して得られた知識・スキルの保有状況、短期的・中長期的なキャリア志向、評価期間中の評価事実、評価面談や1 on 1ミーティング等で話された内容など)を蓄積し、職員本人と管理職員や人事担当部局が、職員のキャリア形成や育成等にそのデータを活用することができる状態にすることは有益である。さらに、幹部職員や管理職員が自らの組織の課題を客観的に把握できるようにすることも、当該組織に所属する職員個々人へのきめ細かなマネジメントを行う上で重要である。
各府省ヒアリングにおいて、一部の府省からは、人事情報の確認・検索に労力がかかるという声があったことからも、上記のようなデータの更なる活用を進めるに当たっては、それらのデータが集約され、必要な情報を即時に取り出せる状況としておくことが望ましい。そのためには、いわゆるタレントマネジメントシステム2等、デジタルを活用することは有効であると考えられる。
次章では、そのような観点から人材マネジメントにおいてデータやデジタルを活用している民間企業や外国政府等の事例を紹介する。
- 2 人材の採用、選抜、適材適所、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成などの人材マネジメントのプロセスを支援するシステムを指す。
(出典)(一社)日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2018」(2017年)