(1)人材マネジメントシステム
ア システムの概要
韓国政府では、各府省における人事業務を支援する観点から、e-Saramと呼ばれる政府共通の人事システムを導入している。e-Saramには、各府省の人事当局が様々な人事管理を行うための機能と、職員が休暇や超過勤務等を申請する機能が備わっている。各府省は、人事の発令、人事評価、教育研修、勤務スケジュール管理、給与支給など、採用から退職までの様々な人事業務をe-Saram上で電子的に管理・実行することができている。また、e-Saramの特徴として、各府省共通の内容に加え、各府省独自のニーズに応えるべく改修を加えることができる仕組みになっており、入力する職員個人のデータも各府省における必要性や状況を踏まえて取捨選択できる点が挙げられる(例えば、外交部(外務省)では、語学能力に関するデータを入力する等)。
イ システム導入までの経緯・今後の活用
韓国政府は、2000年代初頭にe-Saramを開発し人事データの整備を開始したが、当時は紙で管理されていた情報も多く、また、府省ごとに異なる内容・形式の人事データを蓄積していた。約8年かけてデータ化や各府省に散在していたデータの集約を進め、2012年からe-Saramを政府横断的に導入し、現在では中央人事行政機関である人事革新処がその管理を担っている。政府共通システムとして導入された当初は、人事手続等の業務プロセスの電子化が主たる目的であったが、より個人に合わせたカスタマイズを行い、人材マネジメントにも活用されてきている。
将来は、AIも活用して職務情報と個人情報のデータを掛け合わせ、例えば妊娠した職員は出産後に育児休暇をどのように取得すれば良いか、昇進していくにはどのような研修を受ければ良いかなど、個人向けに情報をカスタマイズして提供することが想定されている。そうした中で、マネジメントを行う立場の管理職員がこのシステムを使いこなすことがとても重要になると考えられている。
(2)公務人材データベース
韓国政府では、e-Saramの他にも公務人材データベース(Human Resources Data Base:HRDB。公務員の一覧ではなく、「公務を担える人材」のデータベース)が国家公務員法において規定された上で活用されている。このシステムには、約35万人のデータが登録され、このうち、約8割が民間人材、それ以外は中央省庁に在職する課長補佐級以上の職員が登録されている。各府省において採用のニーズが生じたとき、各府省から人事革新処へ求める人材の要件を示すと、人事革新処がHRDBで検索し、1ポストについて3~4名の候補者を各府省に提示している。
HRDBには基本的に誰でも登録でき、他薦による登録も可能であるが、登録基準を満たすか否かは当局側が審査する。一方で、当局側もメディアやインターネットを通じて著名人を日頃から探索しており、当局判断に基づきデータベースに著名人を登録することもある。
HRDBにより、①透明性(人事に公正性や客観性を付与)、②戦略性(国の重要ポストの欠員が生じた場合に迅速に補充が可能)、③開放性・専門性(専門性の高い民間人材をオープンに登録可能で、公務の専門性と問題解決能力を高めることが可能)といったメリットがあるとされている。
【コラム】従業員体験(Employee Experience)という考え方
「従業員体験(Employee Experience。以下「EX」という。)」という考え方がある。EXとは、従業員が企業組織の中で、業務や人間関係、成長機会を通じて得る経験を指す*1。
PwCコンサルティング合同会社等が日本国内の企業を対象に実施した調査*2によれば、EXという言葉の認知度は、同調査への回答企業142社の76%、従業員5,000人以上の企業に絞れば80%に上る。また、同調査への回答企業のおよそ半数がEXの向上を経営課題として認識している。さらに、マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査*3によれば、ポジティブな経験をした従業員は、ネガティブな経験をした従業員と比べて、会社に留まりたいと思う可能性が8倍高いことが示されている。
本節でも紹介したように、英国政府ではEXを重視し、職員一人一人にとって職場が魅力的なものとなるよう、日頃、職員と接する管理職員のマネジメント能力強化を行っていたほか、管理職員に対する支援の強化の一環として、人事データの整備を進めていた。この点、本報告においてここまで述べてきたように、我が国の公務組織においても、働く職員一人一人が日々、良質な体験を積み重ねられるようにするという意味でも、職員個別の状況を踏まえたきめ細かい人材マネジメントを行っていくことが望まれる。