(1)人事管理におけるデータやデジタルの活用の背景
デンマークでは官民問わず人材の流動性が高く、政府においても、若手職員の早期離職が課題になっている(以前は5年から10年程度継続して勤務してから転職していたが、最近では2年から3年程度で転職してしまう事例が増加している状況。なお、政府機関と比較して民間企業の給与水準の方が高い。)。政府機関で長期勤続する職員を増やすため、柔軟な働き方の推進等に加え、新たなデジタルの活用により、各職場のマネジメントの質を向上させ、魅力的な職場環境を整備する取組が進められている。
(2)データやデジタルの具体的な活用
デンマーク政府においては、全府省が同一のシステム(Statens HR)を用いて職員情報を管理している(データは府省ごとに管理されており、府省間でのデータの閲覧等はできない。)。Statens HR上に格納される職員情報は、国民に割り振られる市民登録番号(Civil Personal Registration:CPR)と紐付けられる。また、Statens HRは、採用システム、給与システム、eラーニングシステム、調達システム、財務管理システム、BIツール、各政府機関の独自システムと連携しており、Statens HRと他システムとの間でのデータのやり取りが可能となっている。このようなStatens HRをコアとした各システムとの連携を通じ、採用前(公務に関心をもち応募し、採用されるまで)から採用・勤務・退職(研修、業績の評価、給与の支給等)まで、職員のライフサイクル全体において各種システムが活用されている。各領域における具体的な活用例は以下のとおりである。
ア 採用
職員は採用に際して、Statens HR上に、勤務先、採用日、採用区分、勤務時間、試用期間終了日などの職員データを登録することとされており、登録されたデータは他システムにも共有される。Statens HRに職員情報が登録されると、職員は「着任前」コンテンツにアクセスし、着任前の段階から、組織の中での自分の役割について学ぶことができる。
イ 能力開発
研修については、eラーニングシステム上で、eラーニングコンテンツの配信や職員の受講講座の管理を行っている。また、業績管理システムは、管理職員が年1回実施する職員の業績評価の結果データだけでなく、職員が職場にとって重要な人的資源であるか、リーダーの資質を備えているかなどのデータも収集している。これらのデータに基づき、年1回、1時間半程度、過去1年間の評価や今後の目標、目標達成のために必要となるスキル・能力、給与等について管理職員と話し合う機会が設けられており、この内容に基づいて職員の能力開発計画を作成し、この内容がeラーニングシステムにも書き込まれる。この能力開発計画は、若手職員からの強い要望もあり、5年ほど前から導入されているものである。また、月1回、30分程度、管理職員と部下職員が能力開発計画の進捗等について話し合う機会が設けられている。これは、若手職員が年1回だけでなく、継続的なフィードバックを求めているためであり、最近導入されたものである。管理職員にとっては負担であるが、若手職員の離職防止には有効であると考えられている。
ウ 勤務時間管理
職員は毎日、業務ごとの労働時間と休憩時間、休暇情報をシステム上に記録し、管理職員がそれを承認する。その結果を参考に年1回、次年度の労働計画(例えば、ある業務に何時間割り当てるか、研修、休暇、昼休憩にそれぞれ何時間割り当てるか。)を作成する。職員は、労働計画の作成を通じて、限られた時間を各業務にどのように配分するか決定する能力を身に付ける。また、システム上に記録された情報はBIツールにより可視化される。
(3)データの組織マネジメントにおける活用
幹部職員や管理職員は、BIツールを用いて構築された職員管理ツールにより、職員に関する予算等(給与、プロジェクト予算、各職員の教育に充てられる予算など)、職員の休暇や病気休職取得状況、時間外労働時間、月の予定労働時間などのデータに基づき、職員の労働時間管理、メンタル面を含む心身の健康のケアなどの人事管理を行っている。例えば、時間外労働時間が多い職員がいる場合、その要因が業務分担の偏りなのか、人員不足なのか等をデータから分析し、適切な対応をとることができる。また、休暇の状況等から、メンタル不調の職員を事前に把握する等により、深刻化を未然に防ぐ等の対応が可能となる。管理職員には、データを正確に把握し、分析する能力が求められる。