第1編 人事行政

第3部 令和4年度業務状況

第2章 人材の育成

第2節 役職段階別研修

1 行政研修

各府省の行政運営の中核を担うことが期待される職員等を対象とする行政研修は、高い倫理感に基づいた国民全体の奉仕者としての使命感の向上、広い視野や柔軟な発想など国民の視点に立つために求められる資質・能力の向上及び国家公務員として協力して施策を行うための相互の信頼関係の醸成を基本的な目的としている。

行政研修は、役職段階ごとに、採用時の合同初任研修、初任行政研修を始め、3年目フォローアップ研修、本府省の係長級、課長補佐級、課長級の職員に対する研修、さらには課長級以上の職員を対象とした行政フォーラムなどからなり、①国民全体の奉仕者としての使命と職責について考える、②公共政策の在り方を多角的に検証し考える、③公正な公務運営について学ぶ、の3点をカリキュラムの柱としている。また、研修参加者が、互いに啓発しながら相互の理解・信頼を深めることができるよう、多くの行政研修で班別での討議を設定し、意見交換を行う機会の提供に努めている。

課長級及び課長補佐級の研修では、様々な分野の者との交流を通じ幅広い視野を身に付け相互の理解を促進する観点から、民間企業、外国政府等からも研修員の参加を得ている。

令和4年度における行政研修の実施状況は、表2-1のとおりであり、全体で41コースを実施した。

令和4年度行政研修実施状況
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(1)国家公務員合同初任研修

例年、各府省において、主に政策の企画立案等の業務に従事することが想定される新規採用職員を対象に合同研修を実施している。(4月に内閣官房内閣人事局と共催で実施。)

令和4年度は、前年同様、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点からオンラインにより、現下の世界情勢に関する有識者の講演のほか、公務員の基本に関する講義を実施した。

(2)初任行政研修

(1)の合同初任研修対象者のうち、本府省において主に政策の企画立案等の業務に従事することが想定される職員を対象として、初任行政研修を8コースで、5月から7月にかけて第1週目(1日)をオンライン、第2週目(5日間)を通勤4日間及び福島県被災地域への現場訪問1日、第3週目(5日間)をオンラインで実施した。

同研修は、国家公務員としての一体感を醸成するとともに、全体の奉仕者としての素養を身に付けさせ、国民の視点に立って行政を遂行する姿勢を学ばせることをねらいとしている。令和4年度は、過去2年間と同様、新型コロナウイルス感染症に係る状況を踏まえての実施となったが、中止していた実地体験型のプログラム(介護等実地体験、地方自治体実地体験、被災地復興・地方創生プログラム)について、福島県浜通り被災地域への現場訪問として一部復活させた。さらに、研修員間の相互の学びと交流をより深めるため、対面での研修(通勤形式)を2年ぶりに実施した。カリキュラムについては、前年同様、過去の5週間から2週間+1日(11日間)へと研修期間を短縮して実施したことから、研修科目を厳選し、討議を重視したカリキュラムとした。具体的には、基軸科目として、歴史的意義の大きい過去の行政事例を題材に、公共政策の在り方を多角的に研究・考察する「行政政策事例研究」、あるいは、府省横断的な政策課題について調査研究を行い、公共政策の在り方を多角的に検討する「政策課題研究」を行った。また、論題に関する論理的かつ説得的な立案・説明手法を実践的に学ぶ「政策ディベート」、事例を通じて倫理的な行動の在り方を考える「公務員倫理を考える」、駐日大使館等に勤務する外交官等からの話を聞き、意見交換を行うことで、国際社会における日本の役割への理解を深める「諸外国から見た日本」、自治体、市民、NPO等の地域の現場で活動している関係者等と行政課題の解決に関する市民との協働について考える「市民との協働について考える」等のカリキュラムを実施した。また、研修員間の相互理解が円滑なものとなるようチームビルディングの科目も実施した(表2-2)。

令和4年度初任行政研修のカリキュラム

(3)3年目フォローアップ研修

原則として(2)の初任行政研修を受講した職員のうち、本府省において政策の企画立案等の業務に従事することが想定される採用3年目の者を対象として研修を実施している。

前年は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響でオンラインでの実施となったが、令和4年度は、令和2年度採用者を7コースに分け、前半2日間をオンラインで、後半2日間を合宿で実施した。本研修の参加者は新型コロナウイルス感染症の影響により、2年前の初任行政研修で実地体験型のプログラムを行えなかったことから、公務員研修所が所在する埼玉県入間市及び同市内の中小企業の協力を得て、同市内の公共施設や企業への現場訪問、入間市長との意見交換を行う体験型プログラムを取り入れた。他にも、会議や日常業務においてグループでの討議を円滑に進めるためのファシリテーション技法や、グループをまとめる上で必要となるマネジメント力の入門的な講義・演習、初任行政研修受講後からの2年間の自身を振り返り、先輩職員の参画を得て今後の自身の課題とキャリアを考えるプログラム、各々が所属する組織の政策や課題等を発表し、相互に討議するなど、多彩なカリキュラムにより実施した。

(4)行政研修(課長補佐級)

本府省課長補佐級に昇任後おおむね1年以内の職員のうち、政策の企画立案等の業務に従事する者を対象に、オンラインでの3日間の研修を1コース、同4日間の研修を2コース、合宿での4日間の研修を2コースの計5コースを実施した。

本研修は、班別討議を経て政策提言・分析を行う「政策課題研究」、研修員自らが直面する行政課題をテーマに議論を行う「個別政策研究」、「マネジメント研究」等からなるカリキュラムにより実施した。

(5)行政研修(課長補佐級)国際コース

英語による発表や議論を通じ、英語での意思伝達及び説得能力の向上を図り、各府省における行政の国際化に対応できる人材の育成に資すること等を目的とする国際コース(3日間)を1コース、通勤で実施した。擬似的なグローバル環境における議論ができるよう、駐日大使館等から多数の外国人研修員の参加を得て、日本人参加者が所属組織の政策や課題を英語で発表し、外国人研修員と共に討議等を実施した。

(6)行政研修(課長補佐級)女性管理職養成コース

近い将来、本府省の管理職員として行政運営の一翼を担い、後に続く女性管理職員のロールモデルとなることが期待される者を対象に、官民の女性リーダーとの意見交換や、部下のマネジメント、組織運営について考察する研修を 1コース(3日間)、通勤で実施した。

(7)行政研修(課長補佐級)リーダーシップ研修

本府省課長補佐級の職員で、将来、本府省幹部職員として行政運営の中核を担うことが期待される者を対象に、令和4年8月から令和5年1月までの間に通算14日間の研修を1コース、通勤及び合宿、オンラインの組合せにより実施した。

本研修では、10年後の日本を見据えた研究課題の設定と改革ビジョンの作成を、「東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム」の協力を得て、研修員が小グループに分かれて「共同研究」を行ったほか、リーダーの在り方に関する各界有識者からの講義を実施した。また、島根県海士町で活動する「株式会社風と土と」に委託し、民間企業からの研修参加者とともに、現地での人々との交流を交えながら、離島という非日常の環境において自らを深く見つめ直し、今後のビジョンや志を言葉にする現場学習を初めて行った。

(8)行政研修(課長級)

令和4年度は、本府省課長級職員を対象に、オンラインによる講義に加え福島県への現場訪問を行う現場訪問コースを行ったほか、安全保障や米国の政治・外交に係る最新の動向、マネジメントに関する第一線の専門家の講義や、「個別政策研究」などからなるオンラインでの4日間のコースを実施した。

さらに、課長級の職員として求められる組織統率力、人材育成力及び政策の実現に必要となる対外的説明能力等を充実・向上させることを目的とした「課長力向上コース」を通勤3日間、オンライン1日間の日程で試行した。同研修では、日本の組織・人材マネジメントの第一線で活躍される講師からの講義を通じ、これからの組織運営の課題や目指すべき方向性について理解を深めるとともに、官民双方からの幅広い参加者による、自らが所属する組織におけるマネジメント上の取組や課題について、討議や意見交換を行った。通勤研修の最後には3日間の研修を振り返り、自ら実践すべき課題設定を行い、当該課題について1か月間にわたって職場で実践し、その結果と今後に向けた課題を、引き続くオンライン研修で共有し、行政経験豊富な講師からの講評を通じて、組織統率に当たり必要となる自らの使命と職責について深く考察するカリキュラムを実施した。この試行結果を踏まえ、次年度においては「課長力向上コース」の一層の拡充を行うこととしている。

(9)行政研修(係員級特別課程)

係長級への昇任直前のⅡ種・Ⅲ種等採用職員又は一般職試験等採用職員で、勤務成績優秀な者を対象として、将来の幹部職員への登用を視野に入れた育成に資するために実施している。

令和4年度は、「政策課題研究」、「公務員倫理を考える」等からなるカリキュラムにより、5日間の日程で 通勤2コース、合宿1コースを実施した。

(10)行政研修(係長級特別課程)

本府省係長級のⅡ種・Ⅲ種等採用職員又は一般職試験等採用職員で、各府省が将来の幹部要員として計画的に育成しようとしている者を対象に実施している。

令和 4年度は、「政策課題研究」、「個別政策研究」、政策上の論題に関する立論・反論・説得等を通じて、幅広い視点から物事をとらえる力や効果的な説明手法を養う「政策ディベート」、政策課題研究に関連付けて埼玉県内の中小企業を訪問する「現場訪問」等からなるカリキュラムにより、5日間の日程で通勤1コース、合宿2コースを実施した。

(11)行政研修(課長補佐級特別課程)

本府省課長補佐級のⅡ種・Ⅲ種等採用職員又は一般職試験等採用職員で、各府省が将来の幹部要員として計画的に育成しようとしている者を対象に実施している。

令和4年度は、「政策課題研究」、「個別政策研究」、本府省課長補佐級職員に求められるマネジメント能力について、講義及び具体的な事例や課題を題材とする相互討議を通じて、必要なスキルの向上や意識の醸成を図る「マネジメント研究」等からなるカリキュラムにより、5日間の日程で通勤1コース、合宿1コースを実施した。

なお、係長級及び課長補佐級の特別課程では、研修員の所属府省における今後の育成の参考に資するため、研修期間中のレポートの内容、研修への参加状況等を通じて、研修員の能力・適性等について評価を行うこととしている。

(12)行政フォーラム(本府省課長級及び本府省幹部級)

本府省の課長級以上の職員の研修機会として、約2時間、我が国の抱える諸問題について各界の優れた有識者による講義と意見交換を行っている。

令和4年度はオンラインで計5回実施した(表2-3)。

令和4年度行政フォーラムのテーマ及び講師

(13)幹部行政官セミナー(アスペンメソッド)

本府省審議官級及び筆頭課長級の職員を対象に、3日間の研修を 1コース、オンラインで実施した。アスペンメソッドとは、米国アスペン研究所が行っている研修手法であり、様々な古典を素材に、参加者相互の対話を通じて高次のリーダーシップの養成を目指す思索型プログラムである。幹部行政官セミナーでは、このプログラムを活用して優れた思想や人間的価値の本質を探る中で、現代社会の複雑な課題に的確に対応できる高次のリーダーシップの養成を図っている。

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