人事院では、役職段階ごとに求められる資質・能力を伸ばすことができるよう、行政研修及び地方機関職員研修を実施し、採用時から幹部級まで必要な研修の体系化と研修内容の充実を図っている。
1 行政研修
各府省の行政運営の中核を担うことが期待される職員等を対象とする行政研修は、高い倫理感に基づいた国民全体の奉仕者としての使命感の向上、広い視野や柔軟な発想など国民の視点に立つために求められる資質・能力の向上及び国家公務員として協力して施策を行うための相互の信頼関係の醸成を基本的な目的としている。
行政研修は、役職段階ごとに、採用時の合同初任研修、初任行政研修を始め、初任行政フォローアップ研修1、本府省の係長級、課長補佐級、課長級の職員に対する研修、さらには課長級以上の職員を対象とした行政フォーラムなどからなり、①国民全体の奉仕者としての使命と職責について考える、②公共政策の在り方を多角的に検証し考える、③公正な公務運営について学ぶ、の3点をカリキュラムの柱としている。また、研修参加者が、互いに啓発しながら相互の理解・信頼を深めることができるよう、多くの行政研修で班別での討議を設定し、意見交換を行う機会の提供に努めている。
課長級及び課長補佐級の研修では、様々な分野の者との交流を通じ幅広い視野を身に付け相互の理解を促進する観点から、民間企業、外国政府等からも研修員の参加を得ている。
令和6年度における行政研修の実施状況は、表2-1のとおりであり、全体で36コースを実施した。
- 1 令和5年度以前は「3年目フォローアップ研修」として実施
(1)国家公務員合同初任研修
例年、各府省において、主に政策の企画立案等の業務に従事することが想定される新規採用職員を対象に合同研修を実施している(4月に内閣官房内閣人事局と共催で実施)。
令和6年度は、オンライン方式により、岸田内閣総理大臣訓示、川本人事院総裁訓示のほか、公務員の基本に関する講義を実施した。
(2)初任行政研修
(1)の合同初任研修対象者のうち、本府省において主に政策の企画立案等の業務に従事することが想定される者を対象として、5月から7月にかけて7コースに分けて実施した。まず、第1週目として1日のオンライン研修を、全コースを2回の機会に集約する形で実施した。次に、第2週目として埼玉県入間市にある公務員研修所での合宿研修を、第3週目として地方自治体実地体験等を、第4週目として西ケ原研修合同庁舎にて3日間の通勤研修(うち2コースは公務員研修所で2泊3日の合宿研修)を実施した。
同研修は、国家公務員としての一体感を醸成するとともに、全体の奉仕者としての素養を身に付けさせ、国民の視点に立って行政を遂行する姿勢を学ばせることを狙いとしている。令和5年度は、2日間の地方自治体等実地体験を4年ぶりに行うとともに、公務員研修所での2泊3日の合宿研修を3年ぶりに行ったが、令和6年度はそれらを更に拡充し、地方自治体等実地体験を4日間に、合宿研修を4泊5日にて実施した。カリキュラムについては、前年度と同様、研修科目を厳選し、討議を重視した内容とした。具体的には、基軸科目として、歴史的意義の大きい過去の行政事例を題材に、公共政策の在り方を多角的に研究・考察する「行政政策事例研究」、あるいは、府省横断的な政策課題について調査研究を行い、公共政策の在り方を多角的に検討する「政策課題研究」を行った。また、事例を通じて倫理的な行動の在り方を考える「公務員倫理を考える」、自治体、市民、NPO等の地域の現場で活動している関係者等と行政課題の解決に関する市民との協働について考える「市民との協働について考える」等のカリキュラムを実施した。また、研修員間の相互理解が円滑なものとなるようチームビルディングも実施した(表2-2)。

(3)初任行政フォローアップ研修
原則として(2)の初任行政研修の受講から2年を経過した職員のうち、本府省において政策の企画立案等の業務に従事することが想定される者を対象として研修を実施している。
令和6年度は、令和4年度採用者を6コースに分け、4日間の合宿形式で実施した。前年度に続き、公務員研修所が所在する埼玉県入間市並びに同市及び同市近隣市内の中小企業の協力を得て、同市内の公共施設や企業への現場訪問、入間市長等との意見交換を行う体験型プログラムを実施した。他にも、会議や日常業務においてグループでの討議を円滑に進めるためのファシリテーション技法や、グループをまとめる上で必要となるマネジメント力の入門的な講義・演習、初任行政研修受講後からの2年間の自身を振り返り、先輩職員の参画を得て今後の自身の課題とキャリアを考えるプログラム、各々が所属する組織の政策や課題等を発表し、相互に討議するなどのカリキュラムにより実施した。
(4)行政研修(課長補佐級)
本府省課長補佐級に昇任後おおむね1年以内の者のうち、政策の企画立案等の業務に従事する者を対象に、合宿での4日間の研修を2コース、通勤での4日間の研修を1コース、オンラインでの4日間の研修を1コースの計4コースを実施した。
本研修は、班別討議を経て政策提言・分析を行う「政策課題研究」、研修員自らが直面する行政課題をテーマに議論を行う「個別政策研究」、「マネジメント研究」、外国人との共生をテーマとした政策課題研究に関連付けて埼玉県川口市の芝園団地を訪問する「現場訪問」等からなるカリキュラムにより実施した。
(5)行政研修(課長補佐級)国際コース
英語による発表や議論を通じ、英語での意思伝達及び説得能力の向上を図り、各府省における行政の国際化に対応できる人材の育成に資すること等を目的とする国際コースを1コース(3日間)、通勤で実施した。擬似的なグローバル環境における議論ができるよう、駐日大使館等から外国人研修員の参加を得て、日本人参加者が所属組織の政策や課題を英語で発表し、外国人研修員と共に討議等を実施した。
(6)行政研修(課長補佐級)女性管理職養成コース
近い将来、本府省の管理職員として行政運営の一翼を担い、後に続く女性管理職員のロールモデルとなることが期待される者を対象に、官民の女性リーダーとの意見交換や、部下のマネジメント、組織運営について考察する研修を1コース(3日間)、通勤で実施した。
(7)行政研修(課長補佐級)リーダーシップ研修
本府省課長補佐級の職員で、将来、本府省幹部職員として行政運営の中核を担うことが期待される者を対象に、令和6年8月から令和7年1月までの間に通算14日間の研修を1コース、合宿、通勤及びオンラインの組合せにより実施した。
令和6年度は「東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム」の協力により研究者の参加を得て実施した。研修員が小グループに分かれて日本が抱える重要問題について研究し、提言をまとめる「共同研究」を民間企業等で活躍する方々との意見交換を含めて実施したほか、リーダーの在り方に関する各界有識者からの講義を実施した。また、島根県海士町で活動する「株式会社風と土と」に委託し、同町の地方創生の取組について理解を深めるとともに、離島という研修員にとって非日常の環境に身を置いて自らを深く見つめ直し、今後のビジョンや志を言葉にする現場学習を実施した。
(8)行政研修(課長級)
本府省課長級職員を対象に、課長級の職員として求められる組織統率力、人材育成力及び政策の実現に必要となる対外的説明能力等を充実・向上させることを目的とした「課長力向上コース」を、途中に職場でのマネジメント課題の実践期間を1か月程度挟み込む形で、通勤2日間のコース、通勤4日間のコースを1コースずつ実施した。
日本の組織・人材マネジメントの第一線で活躍される講師からの講義を通じ、これからの組織運営の課題や目指すべき方向性について理解を深めるとともに、官民双方からの参加者による、自らが所属する組織におけるマネジメント上の取組や課題を持ち寄っての討議や意見交換を行った。前半の研修の最後に、研修内容を踏まえて実践期間中に取り組む課題設定を各自が行い、当該課題について約1か月間にわたって職場で実践した後、その結果と今後に向けた課題を引き続く後半の研修で持ち寄って報告・共有を行い、これに対する講師からの講評等も織り込んで、組織統率に当たり必要となる自らの使命と職責について深く考察する流れでのカリキュラムを実施した。
(9)行政研修(係員級特別課程)
係長級への昇任直前のⅡ種・Ⅲ種等採用職員又は一般職試験等採用職員で、勤務成績優秀な者を対象として、将来の幹部職員への登用を視野に入れた育成に資するために実施している。
令和6年度は、「政策課題研究」、「公務員倫理を考える」等からなるカリキュラムにより、5日間の日程で合宿1コース、通勤1コースを実施した。
(10)行政研修(係長級特別課程)
本府省係長級のⅡ種・Ⅲ種等採用職員又は一般職試験等採用職員で、各府省が将来の幹部要員として計画的に育成しようとしている者を対象に実施している。
令和6年度は、「政策課題研究」、「個別政策研究」、「マネジメント研究」、「特別講義」等からなるカリキュラムにより、5日間の日程で合宿1コース、通勤1コース、オンライン1コースを実施した。
(11)行政研修(課長補佐級特別課程)
本府省課長補佐級のⅡ種・Ⅲ種等採用職員又は一般職試験等採用職員で、各府省が将来の幹部要員として計画的に育成しようとしている者を対象に実施している。
令和6年度は、「政策課題研究」、「個別政策研究」、「古典に学ぶ」、「マネジメント研究」からなるカリキュラムにより、5日間の日程で通勤1コースを実施した。
(12)行政フォーラム(本府省課長級及び本府省幹部級)
本府省の課長級以上の職員の研修機会として、約1時間30分、我が国の抱える諸問題について各界の優れた有識者による講義と意見交換を行っている。
令和6年度はオンラインで計6回実施した。
(13)幹部行政官セミナー(アスペンメソッド)
本府省審議官級及び筆頭課長級の職員を対象に、4日間の研修を1コース、通勤及びオンラインで実施した。アスペンメソッドとは、米国アスペン研究所が行っている研修手法であり、様々な古典を素材に、参加者相互の対話を通じて高次のリーダーシップの養成を目指す思索型プログラムである。幹部行政官セミナーでは、このプログラムを活用して優れた思想や人間的価値の本質を探る中で、現代社会の複雑な課題に的確に対応できる高次のリーダーシップの養成を図っている。
2 地方機関職員研修
人事院各地方事務局(所)では、管内の各府省の地方機関の実情を踏まえつつ、役職段階別に求められる資質・能力を向上させるとともに、国民全体の奉仕者としての意識の徹底を図ることを目的とする役職段階別の研修を実施している。また、行政運営の在り方及び幹部行政官として求められる倫理感を考察させることを目的とする幹部行政官セミナーを実施している。これらの研修では、各役職段階に必要な基本的知識等を付与するカリキュラムのほか、近年の公務を取り巻く諸情勢を踏まえたカリキュラムを取り入れて行っている(表2-3)。
このほか、係長級職員を主な対象として、役職段階別研修におけるマネジメント科目の設定や、JST教材を活用したマネジメント研修(1日コース)の実施など、マネジメント能力を高めることを主眼とする研修を引き続き行った。
(1)新採用職員研修
各府省の地方機関に採用された職員を対象として、公務員としての心構え、公務員倫理、公務員制度の解説などのカリキュラムを中心に実施している。
(2)中堅係員研修
一定の職務経験を積んだ中堅の係員を対象として、将来の職場のリーダーとしての心構えや、中堅係員に共通して求められる能力の向上を目的として、公務員倫理、人権、情報発信スキルなどのカリキュラムを中心に実施した。
(3)係長研修
各府省地方機関の係長級職員を対象として、将来の中堅幹部としての心構えや、職場のリーダーに求められる能力の向上を目的として、公務員倫理、部下の育成、メンタルヘルスなどのカリキュラムを中心に実施した。
(4)管理監督者研修(課長補佐研修・課長研修)
各府省地方機関の課長補佐又は課長を対象として、将来の地方機関における上級幹部職員の養成を目的として、管理監督者の心構えや役割に関するカリキュラムを中心に実施した。
(5)幹部行政官セミナー
管区機関の局部長級の職員を対象として、これからの行政と行政官の在り方を基本に立ち返って考え、意識改革を図ることを目的として、各界の有識者からの講話と講師を交えた意見交換を行った。

