国公法第96条第1項は、服務の根本基準として、「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当たつては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」と規定している。この根本基準の趣旨を具体的に実現するため、同法は、職員に対し、法令及び上司の職務上の命令に従う義務、職務上知り得た秘密を守る義務、争議行為及び信用失墜行為の禁止、政治的行為の制限、私企業からの隔離などの職員に対する服務上の制限を課している。また、服務規律保持のために、非違行為に対する懲戒制度が設けられている。
これを受けて、任命権者においては、職員に服務義務違反が生じた場合に、速やかにその事実関係を十分把握した上で懲戒処分を行うなど厳正に対処することが求められる。また、人事院においても各府省等に対し、従来より種々の機会を通じて、服務規律の保持と再発防止策の実施について徹底を図っている。
1 服務
職員の服務に関する事項のうち、政治的行為の制限、私企業からの隔離等については人事院が直接所掌している。これらの事項については、制度の周知徹底や適正な運用の確保を図るため、令和6年度においても、各府省等に対し、日常の具体的事例に関する照会回答等の機会を通じて、適切な処理についての指導を行った。
また、服務・懲戒制度全般の趣旨を徹底させるため、令和6年度においては、本府省、地方支分部局等の人事担当者を対象に服務・懲戒制度の説明会を実施したほか、音声解説付きの制度説明資料の提供を通じて、制度の周知徹底を図った。加えて、職員に全体の奉仕者としての自覚を促し、服務・懲戒制度について理解を深めてもらうため、各府省等職員を対象とするeラーニングシステムを活用した服務・懲戒制度研修を令和6年4月期及び10月期の2期において実施した。
2 懲戒
(1)懲戒制度の概要、懲戒処分に関する指導等
各府省等の任命権者は、職員が、①国公法若しくは倫理法又はこれらの法律に基づく命令に違反した場合、②職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合、③国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合のいずれかに該当するときは、当該職員に対し、懲戒処分として免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができることとされている(国公法第82条第1項)。その具体的手続は、国公法及び規則12-0(職員の懲戒)に定められている。
人事院は、毎年の懲戒処分の状況を公表するとともに、各府省等に対し、担当者会議等の機会を通じて、懲戒制度の厳正な運用について徹底を図っている。
(2)懲戒処分の状況
令和6年の懲戒処分の状況については、令和7年3月14日に「令和6年における懲戒処分の状況について」として人事院ホームページに公表した。
https://www.jinji.go.jp/kouho_houdo/kisya/2503/choukaiR6.html
令和6年中において、懲戒処分を行った事例としては、国家公務員倫理規程違反事案を除くと、以下のようなものがあった。
● パワー・ハラスメント、セクシュアル・ハラスメント等事案
巡視船内において、他の船内職員に対してパワー・ハラスメント、セクシュアル・ハラスメントを行ったほか、部内規則に反して船内で飲酒等し、加えて、船内職員に対する暴行により暴行罪で刑事処分を受けたとして、海上保安庁の職員1人に対して停職処分が行われた。
● 雇用調整助成金等不正受給事案
景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対し、一時的な雇用調整を実施することによって従業員の雇用を維持した場合に国から支給される雇用調整助成金等の不正受給に加担したとして、厚生労働省の職員1人に対して免職処分が行われた。
各任命権者は、懲戒処分が行われるべき事件が刑事裁判所に係属している間においても、人事院の承認を経て、適宜、懲戒処分を行うことができることとされている(職員が、公判廷における供述等により、懲戒処分の対象とする事実で公訴事実に該当するものがあることを認めている場合には、人事院の承認があったものとして取り扱うことができる。)。令和6年においても、この手続により懲戒処分が行われた事案があった。
3 兼業
(1)営利企業の役員等との兼業
国公法第103条並びに規則14-17(研究職員の技術移転事業者の役員等との兼業)、規則14-18(研究職員の研究成果活用企業の役員等との兼業)及び規則14-19(研究職員の株式会社の監査役との兼業)により、研究職員は、所轄庁の長等の承認があった場合は、営利企業の役員等の職を兼ねることができるとされているが、令和6年において所轄庁の長等が新たに承認をしたという人事院への報告はなかった。
(2)自営に係る兼業
国公法第103 条及び規則14-8(営利企業の役員等との兼業)により、職員は、所轄庁の長等の承認があった場合は、自ら営利企業を営むことができるとされている。
所轄庁の長等が自営に係る兼業を承認したとして、各府省等から人事院に報告のあった件数の合計は、令和6年は302件であった。兼業の主な内容は、不動産の賃貸、太陽光電気の販売などとなっている。
(3)株式所有による経営参加の報告
国公法第103条及び規則14-21(株式所有により営利企業の経営に参加し得る地位にある職員の報告等)により、職員は、株式所有により営利企業の経営に参加し得る地位にある場合は、所轄庁の長等を経由して人事院に報告し、人事院が職務遂行上適当でないと認める場合は、その旨を当該職員に通知することとされている。ただし、明示された基準を満たしている場合には所轄庁の長限りにおいて報告を受領することができるよう措置しており、令和6年において人事院には職員から株式所有に係る報告はなかった。