倫理審査会では、倫理の保持のための施策の参考とするため、倫理制度や公務員倫理をめぐる諸問題について、各界から幅広く意見を聴取しており、また、各府省等における倫理法・倫理規程の運用実態、倫理法・倫理規程に対する要望等の把握に努めている。
(1)有識者との懇談会等
倫理審査会では、毎年、各界の有識者から、国家公務員の倫理保持の状況や倫理規制の在り方、倫理保持のための施策などについての意見聴取を行っている。平成28年度においては、東京都及び札幌市において、企業経営者、学識経験者、報道関係者、地方公共団体の長といった各界の有識者と倫理審査会の会長や委員との懇談会を開催した。また、前述のとおり各府省の官房長や地方機関の長等との懇談会を開催し、各府省における倫理法・倫理規程の運用状況や業務への影響、倫理法・倫理規程に対する要望事項などを聴取した。
<有識者との懇談会における主な意見>
【東京都での懇談会】
- ○ 公務員倫理とは、法令だけ守れば良いというものではなく、国民から見て、「公務員はこうあって欲しい」、「こういうことはしないで欲しい」ということを実践することが重要である。国益を担う主体として、一生懸命仕事をして欲しいというのが国民の願いであり、それに反するような行為は、公務員倫理に反するものということになる。
- ○ 「通報をせずに放置することこそ、公務全体の信頼に関わる大きな問題に発展する」ということを、通報する側に認識してもらうことが重要である。また、通報を受ける側も、「通報により、よりよい環境を作ることができる」ということを自覚すべきである。また、組織のトップとしては、「勇気ある告発者を守り抜く」という決意が非常に重要である。
- ○ 公務員倫理を徹底するためには、不正を許さない組織風土の確立が基本となる。誠実性などの原則に照らして判断し行動することができるよう、研修等を実施していく必要がある。また、組織のトップから倫理の重要性について継続的にメッセージを出すことが重要である。
- ○ 自分たちの仕事に誇りを持てるようにすることも、倫理感を高めることにつながる。組織の幹部が問題を起こした際に、国民からの批判の矢面に立って苦しむのは、現場の公務員である。高い倫理感を持って活躍している現場の公務員に日が当たるような広報活動を行い、やりがいを持てるようにすることも重要である。
【札幌市での懇談会】
- ○ 立場が変われば思うところも変わるし、初心に立ち返ることができるため、研修は繰り返し行うことが必要である。また、単なる座学ではなく、ケーススタディなど議論をするような研修にするなど、工夫も必要である。
- ○ 国家公務員としての初心を忘れず、「べからず集」的な内容を超えた意味での倫理感を保持することが重要である。倫理感の根本は、「後ろめたいことはしない」という誠実性であり、その点をもっと強調すべきである。
- ○ 内部通報制度について、終身雇用や同じ組織で長期間働くという日本の雇用慣行を考えると、部内の者が通報をためらうことは理解でき、そもそも内部通報制度が活性化しにくい風土である。そのような中で、通報制度に対する理解を深め、活用されるようにするためには、例えば通報に端を発し違反事案が発覚した事例など具体的ケースを研修の場で伝えていくことが考えられる。
- ○ 匿名での通報を受け付けることは当然であり、匿名の通報の中には不正確な情報もあるが、そうであるからこそ、一つずつ根気よく丁寧に対応していくことが非常に大事である。通報は、組織の中で隠れている問題の早期発見、早期対応に有効である。
(2)各種アンケート結果
倫理審査会では、倫理保持のための施策の企画等に活用するため、例年、各種アンケートを実施しており、本年度のアンケートでは、例年聴取している公務員倫理全般に関するもののほか、倫理規程のゴルフ禁止規定(注)について詳細に聴取した。平成28年度におけるその結果の概略は、次のとおりである。
(注)国家公務員倫理規程(平成十二年三月二十八日政令第百一号)(抄)
(禁止行為)
- 第三条 職員は、次に掲げる行為を行ってはならない。
- 七 利害関係者と共に遊技又はゴルフをすること。
・ 市民アンケート
国民各層から年齢・性別・地域等を考慮して抽出した1,000人を対象に平成28年6月から7月にかけて実施(WEB調査)
・ 民間企業アンケート
東京、名古屋各証券取引所(1部、2部)上場企業2,551社を対象に平成28年6月から7月にかけて実施(郵送調査。回答数829社(回答率32.5%))
・ 有識者モニターアンケート
倫理審査会が公務員倫理モニターとして委嘱した各界の有識者200人(企業経営者、学識経験者、マスコミ関係者、地方公共団体の長、労働団体関係者、市民団体関係者、弁護士等)を対象に平成28年8月から9月にかけて実施(郵送調査。回答数176人(回答率88.0%))
・ 職員アンケート
一般職の国家公務員のうち、本府省、地方機関の別、役職段階等を考慮して抽出した5,000人を対象に平成28年6月から7月にかけて実施(郵送調査。回答数4,267人(回答率85.3%))
ア 公務員倫理全般について
(ア) 国家公務員の倫理感についての印象(市民・民間企業・有識者モニター・職員アンケート結果)[図1]
「国家公務員の倫理感の印象」について質問したところ、好意的な見方をしている者(「倫理感が高い」又は「全体として倫理感が高いが、一部に低い者もいる」と回答した者)の割合は、市民アンケートでは54.4%、民間企業アンケートでは79.2%、有識者モニターアンケートでは94.3%、職員アンケートでは86.7%であった。一方、厳しい見方をしている者(「全体として倫理感が低いが、一部に高い者もいる」又は「倫理感が低い」と回答した者)の割合は、市民アンケートでは18.7%、民間企業アンケートでは3.4%、有識者モニターアンケートでは0.6%、職員アンケートでは2.4%であった。
好意的な見方をしている者の割合は、いずれのアンケートにおいても前回のアンケート(平成27年度)と比較すると増加している。
(イ) 倫理規程で定められている行為規制に対する印象(市民・民間企業・有識者モニター・職員アンケート結果)[図2]
「倫理規程で定められている行為規制の印象」について質問したところ、「妥当である」と回答した者の割合は、市民アンケートでは64.2%、民間企業アンケートでは74.1%、有識者モニターアンケートでは64.8%、職員アンケートでは69.1%であった。
また、「厳しい」又は「どちらかといえば厳しい」と回答した者の割合は、有識者モニターアンケートが33.5%と最も高く、次いで職員アンケート(27.5%)、民間企業アンケート(18.3%)、市民アンケート(12.8%)の順となった。一方、「どちらかといえば緩やかである」又は「緩やかである」と回答した者の割合は、市民アンケートが17.4%と最も高く、次いで、民間企業アンケート(5.7%)、職員アンケート(2.4%)、有識者モニターアンケート(1.7%)という結果となった。
前回のアンケート(平成27年度)と比較すると、いずれのアンケートにおいても、「厳しい」又は「どちらかといえば厳しい」と回答した者の割合が微増した。
(ウ) 倫理規程で定められている行為規制による行政と民間企業等との間の情報収集等への支障(民間企業・有識者モニター・職員アンケート結果)[図3]
「倫理法・倫理規程があるため、職務に必要な行政と民間企業等との間の情報収集、意見交換等に支障が生じていると思うか」について質問したところ、「あまりそう思わない」又は「そう思わない」と回答した者の割合は、民間企業アンケート79.1%、有識者モニターアンケート67.0%、職員アンケート65.5%であり、前回のアンケート(平成27年度)と比較すると、いずれのアンケートにおいても増加した。
(エ) 倫理に関する研修の受講状況(職員アンケート)[図4]
職員に対して、公務員倫理に関する内容がカリキュラムに組み込まれている研修等に最後に参加してからどのくらいの期間が経過しているか質問したところ、1年未満と回答した者の割合が72.3%、1年以上3年未満と回答した者の割合が16.2%であり、両者を合わせた割合は前回のアンケート(平成27年度)よりも2.4ポイント向上した。
一方、5年以上と回答した者の割合が5.5%、一度も受講したことがないと回答した者の割合が1.7%と、両者を合わせた割合は前回のアンケートから減少しているものの、長期間受講していない又は一度も受講したことがない職員が依然として一定程度いる。
イ 倫理規程のゴルフ禁止規定について
倫理規程では、国家公務員は利害関係者と「共にゴルフをすること」が禁止されている。ゴルフ禁止規定については、廃止を求める意見等もあることから、平成28年度は、国民のゴルフに対する意識や考え方等を改めて把握するための質問を取り入れてアンケートを実施した。ゴルフに関するアンケートの結果は以下のとおりである。
(ア) ゴルフ禁止規定についての印象(市民・民間企業・有識者モニター・職員アンケート結果)[図5]
「ゴルフ禁止規定の印象」について質問したところ、「妥当である」との回答割合は、市民アンケートでは65.1%、民間企業アンケートでは78.6%、有識者モニターアンケートでは74.4%、職員アンケートでは75.6%であり、いずれのアンケートでも7割程度が「妥当である」との回答であった。
(イ) ゴルフ禁止規定による行政と民間企業等との間の情報収集等への支障(民間企業・有識者モニター・職員アンケート結果)[図6]
倫理規程におけるゴルフ関係の規制があるため、職務に必要な行政と民間企業等との間の情報収集、意見交換等への支障が生じているか質問したところ、「あまりそう思わない」又は「そう思わない」と回答した者の割合は、民間企業アンケートでは86.7%、有識者モニターアンケートでは79.0%、職員アンケートでは79.7%であり、いずれのアンケートでも約8割が、支障が生じているとは思わないとの回答であった。
(ウ) 国家公務員が利害関係者と共にゴルフをすることに対する考え(市民・民間企業・有識者モニターアンケート結果)[図7]
国家公務員が利害関係者と共にゴルフをすることに対する考えについて質問したところ、「国家公務員が自己の費用を負担したとしても、利害関係者と共にゴルフをすることは、疑惑や不信を招くおそれがある」と回答した者の割合は、市民アンケートでは72.1%、民間企業アンケートでは70.0%、有識者モニターアンケートでは74.3%であり、いずれのアンケートでも7割以上が割り勘であっても疑惑や不信を招くおそれがあるとの回答であった。
(エ) ゴルフ禁止規定の見直しに対する考え(市民・民間企業・有識者モニター・職員アンケート結果)[図8]
スポーツの中でゴルフのみが倫理規程の禁止行為として列挙されていることについてどのように感じるかと尋ねたところ、「違和感はない」又は(「違和感がある」若しくは「どちらとも言えない」が)「現行のままでよい」と回答した者の割合は、市民アンケートでは54.3%、民間企業アンケートでは61.1%、有識者モニターアンケートでは60.0%、職員アンケートでは52.5%で、いずれのアンケートでも5割を超える者がゴルフ禁止規定の見直しに消極的な回答であった。
以上のような結果も勘案し、倫理審査会としては、現時点ではゴルフ禁止規定を見直すことは困難であると判断した。
各種アンケートや懇談会等での意見聴取は、国家公務員の倫理感や倫理規程に定められた行為規制などに対する各方面の印象や見方など、公務員倫理をめぐる状況の的確な把握に資するものであり、倫理審査会としては、今後とも倫理保持のための施策の企画等に活用するため幅広い意見聴取に努めていく。