第1編 《人事行政》

【第2部】 魅力ある公務職場の実現を目指して

補論2 民間企業及び地方公共団体における意識調査

(1)実施状況

民間企業が各社の経営理念を実現するためには、社員一人一人の意欲を高め、高いパフォーマンスを引き出す必要があり、そのためには社員の意識や満足度の現状を把握することが重要と考えられている。一般財団法人労務行政研究所が、平成25年に、全国の証券市場に上場する企業等を対象に行った「人事労務諸制度実施状況調査」(回答企業数:214社)によれば、社員満足度調査を実施している企業(企業規模計)は24.3%であった。従業員数が1,000人以上の企業に限ると、実施率は36.5%となっている。同研究所における同様の調査から、これまでの社員満足度調査の実施率の推移(企業規模計)を見ると、平成16年が14.2%、平成19年が20.1%、平成22年が23.1%となっており、調査を実施する企業は増加する傾向にある。調査を実施する頻度については、平成25年の同研究所の調査によれば、「1年に1回」が47.5%で最も多く、「3年に1回」が12.5%でこれに続いている。(「労政時報」第3847号(平25. 6. 14)労務行政刊)

また、同研究所が平成28年に行った、民間企業の人事労務・総務担当者を対象とした「人事関連制度の改定状況アンケート」(回答企業数:116社)によれば、社員満足度調査を実施している企業(企業規模計)は、44.8%となっており、従業員数が1,000人以上の企業に限ると、実施率は55.3%となっている。(「労政時報」第3928号(平29. 4. 14)労務行政刊)

なお、地方公共団体における満足度調査の実施状況に関する調査は行われていない模様である。

(2)具体的な取組状況

人事院は、平成29年1月、満足度調査を実施している民間企業及び地方公共団体を対象に、調査を導入した背景や調査結果の活用方法、調査の有用性に対する認識等について聞き取り調査を行った。これにより得られた取組状況等は、次のとおりである。

ア 調査を導入した背景及び調査項目

民間企業における従業員満足度調査は、社員が会社の経営理念や行動指針を踏まえて生き生きと仕事をすることが、顧客満足度や業績の向上につながるとの考え方に基づき、各社員への経営理念や行動指針の浸透度、各社員から見た職場環境の状況や人事制度に関する認識等を測定するために導入されたものである。

また、地方公共団体における職員満足度調査は、職員が高いモチベーションの下で仕事をすることが、より良い政策の立案等につながり、そのことが納税者であり行政サービスの顧客でもある住民の満足度を向上させることになるとの考え方に基づき実施されているものである。

具体的な調査項目は、詳細な部分については各社及び各地方公共団体により様々であるが、経営理念や組織目標の浸透度、仕事、職場、上司、組織に対する認識、業務効率や組織風土等について問うもの、働き方の見直しや労働時間の在り方、制度導入に先立った意識の把握などその時々において企業や地方公共団体が重視している人事施策に関する認識を問うもの及び自由記述欄から構成されている点が共通していた。

イ 調査結果の活用事例

(ア) 民間企業と地方公共団体に共通する活用事例

調査結果の活用方法としては、上司と部下の間のコミュニケーションの向上をはじめ、部門単位での日常の働き方や労務管理の在り方の見直しなど組織マネジメントの改善につなげていく場合、業務運営における従前の運用を見直す際の検討過程において参考指標として用いる場合、調査結果を具体的な人事施策の見直しにつなげていく場合等がある。具体的な活用例としては、次のようなものが挙げられる。

(部門単位での業務運営の改善につなげている例)

ある企業では、コミュニケーションに関する評価が高い部門長は、経営理念を自らの言葉に翻訳して部下に伝え、社員一人一人に会社の経営理念と自らの業務のつながりを意識させたり、人事評価のフィードバックの時間を十分に取って意思疎通を図ったりするなど、社員一人一人としっかりと向き合う機会を設定しているという共通点が明らかとなった。そこで、このような情報を部門長間で共有し、各部門長が自らの職場において社員とのコミュニケーション向上策を実践することで、各部門単位の職場コミュニケーションの向上に努めている事例があった。このほか、経営理念の実現に向けて積極的に挑戦している社員を周囲の同僚が承認していくことで、社員の仕事に対するやりがいを高めていく職場作りや、職場単位で社員の挑戦を表彰するための制度を導入している等の取組もあった。

また、地方公共団体の中には、幹部職員と若手職員が一組になって仕事をする機会を作り、円滑な意思疎通が可能となるような取組を行ったり、机の配置を柔軟にして若手職員と経験が豊富な職員が席を並べることで、経験やノウハウの継承を行いやすくしたりするといった手法を取り入れている団体があった。

(運用を見直す際の検討過程において活用している例)

近年、働き方改革や女性の活躍推進の観点から、各企業においては長時間労働の是正やワーク・ライフ・バランスの推進に向けた様々な取組が実施されている。その一環として、労働時間や勤務環境に関する調査結果も参考にしつつ、不要な会議を減少させるための会議の運営ルールの設定、見積書や決裁書類等を定型化することによる資料作成の効率化、必要以上に上司に報告を求めてきた文化を見直すことによる業務の効率化、単に営業成績を上げることが大事という意識から時間当たりの労働生産性を高めるような意識への転換といった取組を行っている事例があった。

地方公共団体においても、不要な仕事や手続の見直しを行うべきとの調査結果を受けて、庶務・労務・経理等の事務の集約化や会議の効率化、ペーパーレスで会議ができる勤務環境の整備等の取組につなげている事例があった。

(人事施策の見直しにつなげている例)

経営理念において、挑戦することの重要性を掲げている企業においては、人事評価制度の中に行動評価という概念を導入し、仮に業績向上に結びつかない場合であっても、挑戦の内容自体に顕著なものがあれば、高い評価を行うことが可能な仕組みを導入したり、常に挑戦できる環境の下に社員を置くために人事ローテーションの活性化を図ったりするなど、具体的な人事施策の見直しにつなげている企業があった。

(イ) 特に公務において見られた傾向

民間企業と比較して、定員管理や人事制度の柔軟な見直しが難しい地方公共団体においては、中高齢層における人事の滞留や、年齢別人員構成のゆがみから生じる問題を解決することがより切実な課題となっていると考えられる。一部の地方公共団体では、中高齢層の職員のモチベーションが低くなる傾向や、OJTの実施状況や人材育成の面で若手職員の評価が低いといった状況が見られる。これらの状況を踏まえ、中高齢層の職員が抱えている仕事の「やらされ感」を解消し、これまで培ってきた知識や経験を最大限にいかしながら、若手職員の指導にも主体的に取り組めるよう公募制を新設した事例があった。また、チューター制度を作って後輩を育成する仕組みや若手職員の人事交流の機会を増やす取組を検討している事例もあった。

ウ 調査の有用性

満足度調査は、組織の定期健康診断として、継続的な定点観測により組織の改善点等を見つけていくために有意義な取組と受け止められている。また、部門ごとの調査結果がフィードバックされる部門長(管理職層)は、調査結果を通じ、自らの組織においてどのような対策を講じることができるかを真剣に考えるようになってきている。そのような部門長の下においては、上司と部下の意思疎通の円滑化や労働生産性を意識した働き方への見直し等様々な効果が現れているとのことである。このほか、一般の社員や職員からも、調査が、自らの意見を言える場、意見を聴いてもらえる場として非常に有益との意見があるとのことである。

このように、満足度調査は、民間企業及び地方公共団体の双方において、部門単位での業務運営の改善や人事施策の見直し等を行うに当たっての参考資料として活用されている状況にある。

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