民間企業等との激しい人材獲得競争の中で、国家公務員採用試験の申込者数は長期的な減少傾向にあり、採用試験制度の改革は喫緊の課題となっている。
令和3年度に人事院が実施した就職活動を終えた学生を対象とする意識調査によると、国家公務員を志望しなかった理由として、「採用試験の勉強や準備が大変」との回答が最も多く、また、民間企業等から採用内定を得た時期が早期化していることも明らかになった。各府省や大学関係者からも、「学生の間で採用試験に対する負担感が大きくなっている」、「民間企業の採用時期と比べ国家公務員採用試験の時期が遅い」といった意見が寄せられていた。
こうした状況を踏まえ、人事院としても、採用試験制度の改革について、適切な能力実証の観点に十分留意しつつ、学生等にとってより受験しやすくなるよう見直していくこととした。令和4年度に措置した主な施策は以下のとおり。
(1)総合職春試験の実施時期の前倒し
春に実施する総合職試験について、民間企業のスケジュールを踏まえた採用試験日程とすることが重要との認識の下、各府省の官庁訪問を民間企業の内々定解禁日(6月1日)と同時期に行うことができるようにするため、試験実施時期を段階的に前倒しすることとし、令和5年は第1次試験を4月9日(日)に実施(6月8日(木)最終合格者発表)し、令和6年以降は第1次試験を3月中下旬(令和6年は3月17日(日))に実施(5月下旬最終合格者発表)することを決定し、公表した。
(2)総合職試験(大卒程度試験)「教養区分」の受験可能年齢の引下げ
年々進む民間企業の採用活動の早期化に抜本的に対応していくことが重要との認識の下、毎年秋に実施している総合職試験(大卒程度試験)「教養区分」について、令和5年の試験から、受験可能年齢を1歳引き下げて「19歳以上」とし、大学2年生の秋から受験できるよう、令和4年12月に人事院規則等の改正を行い、公表した。
(3)幅広い専門分野の人材が受験しやすい総合職試験の実現
多様かつ優秀な人材を確保していくためには、多様な専門分野に対応した試験体系を整備することが必要である。あわせて、専門分野にかかわりなく受験できる試験区分をより受験しやすくすることが必要である。
このため、人文系の専門分野に対応することが重要との認識の下、総合職試験(院卒者試験)「行政区分」に人文系のコースを、総合職試験(大卒程度試験)に「政治・国際・人文区分」を設けるとともに、出題分野及び内容についてこれらの区分等に対応したものとし、令和6年の試験から実施できるよう、令和5年3月に人事院規則等の改正を行い、公表した。
また、専門分野にかかわらず受験できる総合職試験(大卒程度試験)「教養区分」について、令和5年の試験から、第1次試験地を全国9都市に拡充することを決定し、公表した(令和4年は札幌市、東京都、大阪市及び福岡市の4都市で実施。令和5年は仙台市、名古屋市、広島市、高松市及び那覇市を追加)。
(4)採用試験の合格有効期間の延長
民間企業での勤務や博士課程進学といった経験を積んだ者が、再度採用試験を受け直すことなく各府省の官庁訪問を受けられるよう、令和5年の試験から、春に実施する総合職試験、一般職試験(大卒程度試験)、財務専門官採用試験、国税専門官採用試験及び労働基準監督官採用試験の合格有効期間を5年に、総合職試験(大卒程度試験)「教養区分」の合格有効期間を6年6箇月にそれぞれ延長することとし、令和4年12月に人事院規則の改正を行い、公表した。
(5)受験しやすい基礎能力試験の実現
民間企業等との人材獲得競争が特に激しい理系人材を確保していくためには、国家公務員と民間企業を併願する学生にとってより受験しやすい採用試験とする必要があるとの認識の下、令和6年の基礎能力試験から、春に実施する総合職試験(大卒程度試験)、一般職試験(大卒程度試験)及び専門職試験(大卒程度試験)について出題数を40題(知能分野:27題、知識分野:13題)から30題(知能分野:24題、知識分野:6題)に削減するとともに、知識分野については単に知識を問うような出題を避けて時事問題を中心とし、普段から社会情勢等に関心を持っていれば対応できるような内容とするほか、試験時間を短縮するなどの対応策を行うこととし、令和5年3月に公表した。
(6)その他の施策
上記施策に加え、総合職試験「行政区分」、「政治・国際・人文区分」、「法律区分」及び「経済区分」の専門試験(記述式)の解答題数を令和6年の試験から削減することとし、令和5年3月に人事院公示の改正を行い、公表した。また、令和6年の試験から、高卒程度試験を含む全ての基礎能力試験の知識分野において「情報」分野の問題を出題することとし、令和5年3月に公表した。