第1編 人事行政

第2部 公務組織の人材マネジメントにおけるデータやデジタルの活用の可能性

第3章 民間企業、外国政府等の事例から学ぶ

第2節 外国政府の事例

1 英国(管理職員の支援強化のための人事データ分析能力向上の取組)

(1)人事データ活用の取組を進める背景

英国政府は、最近の人事管理上の課題の一つとして「職場における従業員(職員)体験(Employee Experience)の向上」を挙げており、職員一人一人にとって職場が魅力的なものとなるよう、日頃職員と接する管理職員のマネジメント能力強化を行っている。また、管理職員に対する支援の強化についても重要視しており、その一環として人事データの整備を進めている。

現在は、職員データを管理するシステムは府省ごとに異なっており、職員データの整備状況も府省ごとに区々である。政府共通のデータとして国家公務員の職員構成等に関する統計データを作成している程度であり、現場でマネジメントを行う管理職員に対して十分な支援をできていなかった。そのため、今後、人事システムを府省横断的に統一するとともに職員データの収集基準の整備を進め、管理職員が職員データを一覧できるツール(ダッシュボード)を構築するべく、政府全体として取組を進めている。

(2)具体的な取組

ここでは、人材マネジメントにおけるデータの活用に関し、政府内において、他府省とも連携しつつ、先進的な取組を行っている国家統計局(Office for National Statistics)の取組を紹介する。

ア 他府省とも連携した人事データ分析能力の向上

国家統計局では、政府内で人事データ分析(People Analytics)の文化を定着させる取組を推進している。近年では、人事データ分析に係る学習機会の提供、各府省の人事管理機能支援、人事データ分析の普及を目的として、各府省の人事担当者から成る人事データ分析交流グループ(People Analytics Exchange Group)を政府横断的に設立した。同グループの参加政府機関は発足後12か月で17から37に増え、四半期ごとに会合を開いて業務状況の共有を行っているほか、同グループが中心となって人事データ分析学習指針(People Analytics Literacy Pathway)を定め、人事データ分析の学習を促している。

同指針では、人事データ分析を「理解(Understand)」(データの解釈、洞察の抽出等)、「エンゲージ(Engage)」(データの定義付け、データ倫理等)、「分析(Analyse)」(分析手法、課題設定)、「理由付け(Reason)」(データのビジュアル化、分析結果の伝達、意思決定)の四つのモジュールに分け、それぞれについて学習素材を提供し、各自のペースで学習できるようにしている。また、同指針では、人事データ分析に関する理解度のレベルについて、レベルが高い順から「マルチリンガル(Multilingual)」、「流暢(Fluency)」、「能力がある(Competency)」、「理解できる(Literacy)」、「対話できる(Conversational)」の5段階で分類し、まずは全ての人事担当者が「理解できる」レベルを達成することを目標としている。

イ 人事データのマネジメントにおける活用

国家統計局には、6人で構成される人事データ分析チームが設けられている(データ分析担当者が5名、社会科学の知識を背景にデータ分析結果から職員の体験やWell-beingの状況を把握して改善提案を行う担当者が1名)。職員の属性(年齢、性別、民族、性的指向等)、勤務日数、会議時間、身体的な傷病又はメンタルヘルスの問題に起因する休暇日数、短期的・長期的休暇取得状況、最終出勤日、ボーナス支給状況などをグラフで確認することが可能なダッシュボードを作成しており、各部署の管理職員がアクセスできる。このデータを活用することで、管理職員は部下の心身の健康状態、業務や家庭生活に起因するストレスの状況、チーム内の多様性の状況、職員の属性によるエンゲージメントの違いなどを動的に把握することができ、問題を認識した場合に速やかに対応をとることが可能である。

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