第1編 人事行政

第1部 人事行政この1年の主な動き

Ⅱ  多様な人材が集まり、一人一人が高い志を持って
  職務を遂行できる魅力ある公務へ

第2章 公務員人事管理における主な課題の取組状況

第3節 Well-beingの実現に向けた環境整備

 多様な人材をいかし、その能力を最大限に発揮できる勤務環境を整備するため、勤務間のインターバル確保の推進や、フレックスタイム制等の柔軟な働き方の浸透策の検討、魅力ある勤務環境整備に向けた更なる取組、兼業制度の見直しの検討を進めた。

 勤務時間調査・指導室による調査等を通じて、超過勤務の縮減に向けた取組を行った。

 ゼロ・ハラスメントの実現に向け、全ての職員にハラスメント等に対する正しい認識とハラスメントをしてはならないという自覚を徹底するための意識啓発に取り組んだ。

 健康管理体制の充実に向けた検討、健康に関する相談窓口の拡充、職場復帰支援手法の開発等に取り組んだほか、非常勤職員の病気休暇(私傷病)の有給化などの非常勤職員の勤務環境の整備を進めた。

1 時代に即した働き方の推進

(1)勤務間のインターバル確保に係る調査・研究

睡眠時間を含む生活時間の確保は、健康の維持のために不可欠であること等から、令和6年4月に、勤務間のインターバル確保に係る各省各庁の長の努力義務規定を導入した。これを踏まえ、各府省や職員の協力を得ながら、職員アンケート調査、各種ヒアリング等の調査研究事業を実施し、勤務間のインターバル確保に向けた課題の解消に資する取組の検討等を進めた。

(2)制度改革を柔軟な働き方につなげていくための取組

勤務間のインターバル、フレックスタイム制、テレワーク等が各職場で適切に運用され、積極的に活用されるようにするためには、職員の意識や職場の慣習を変えていくことも必要であること等から、民間企業における事例を参考にしつつ、公務における制度の浸透のための効果的な働きかけ方を検討し、各府省に展開するための取組を進めた。

(3)魅力ある勤務環境整備に向けた更なる取組

時代に即した働き方を進め、公務の勤務環境を魅力あるものとするため、人事行政諮問会議の報告を踏まえ、育児や介護などに限らない職員の様々な事情に応じ無給の休暇による勤務時間の短縮等を可能とすることの検討や、厳格な勤務時間管理が馴染まない職員が自律的に勤務時間帯やその長さを選択した上で職務に従事させることができる枠組みについての研究を進めている。

(4)兼業制度の見直しの検討

現行の兼業制度の考え方等について整理した「一般職の国家公務員の兼業について(Q&A集)」を内閣官房内閣人事局と共同で作成し、令和6年6月に公表した。また、国家公務員の兼業制度の見直しの検討の基礎資料を得るため、内閣官房内閣人事局と合同で、兼業に関する職員の意識の把握のための職員アンケート及び民間企業等の兼業・副業の実態の把握のためのヒアリングを実施し、その結果を令和7年2月に公表した。

2 仕事と生活の両立支援の拡充

令和6年8月、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充や介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化のための措置の実現を図るため、育児時間の取得パターンの多様化等を内容とする育児休業法の改正について意見の申出を行うとともに、超過勤務の免除の対象となる子の範囲の見直し、子の看護休暇の子の範囲・取得事由の見直し、育児・介護に係る両立支援制度を利用しやすい勤務環境を整備することを表明した。

育児時間の取得パターンの多様化及び非常勤職員の育児時間の対象となる子の拡大を内容とする意見の申出に基づく「国家公務員の育児休業等に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第79号)は、令和6年12月25日に公布された(令和7年10月1日施行)。また、超過勤務の免除の対象となる子の範囲に加え、子の看護休暇の対象となる子の範囲や取得事由を見直したほか、介護に係る両立支援制度を利用しやすい勤務環境の整備に関する措置等の各省各庁の長等への義務付けについては、所要の人事院規則及び運用事項等を改正した(令和7年4月1日施行)。

3 職員のWell-beingの土台づくりのための取組

(1)超過勤務の縮減

超過勤務縮減の観点から、国会対応業務の超過勤務への影響や業務量に応じた要員確保の状況等を把握するために、各府省に対して令和4年度にアンケートを行い、その結果を踏まえ、関係各方面の御理解と御協力をお願いした。その後の各府省の実態を把握するため、フォローアップアンケートを実施し、令和6年8月に公表した。国会対応業務に係るアンケートについては、人事院総裁が同月に衆議院議長及び参議院議長を訪問して説明を行った。また、業務量に応じた要員確保に係るアンケートについては、その結果を踏まえ各府省の実情を把握した上で、関係部局と意見交換を行い、必要な協力を求めた。

また、勤務時間調査・指導室では、令和4年度から各府省を直接訪問して勤務時間の管理等に関する調査を実施し、超過勤務縮減に向け、その基礎となる超過勤務時間の適正な管理やその他の指導・助言等を行っている。令和6年度は、調査・指導を更に充実させる観点から、対象となる職員数を増やして実施した。同調査の場においては、客観的な記録を基礎とした超過勤務時間の適正な管理について指導を行ったほか、他律部署(他律的な業務の比重が高い部署)・特例業務(大規模災害への対処等の重要な業務であって特に緊急に処理することを要する業務)の範囲を必要最小限のものとするとともに、月100時間等の超過勤務の上限を超える職員数を減らすよう指導を行った。このほか、各府省における超過勤務制度の運用状況を聴取する機会を通じて、超過勤務の縮減に向けた取組について協力を求めた。

(2)ゼロ・ハラスメントの実現

本府省及び地方機関の幹部・管理職員(課長級以上の職員)等にハラスメント防止に関する自身の役割の重要性の理解促進を図る研修を実施するとともに、国家公務員ハラスメント防止週間には「ゼロ・ハラスメントで明るい職場づくり」をテーマとし、全ての職員にハラスメント等に対する正しい認識とハラスメントをしてはならないという自覚を徹底するための意識啓発に取り組んだ。

近年、社会全体で、顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマー・ハラスメント)への対応についても関心が高まっていることから、研修やポスターを通じて、各府省には職員を守る責務があることや過度な要求に対しては毅然とした対応も求められること等の意識啓発に取り組んだ。

(3)職員の健康増進

職員の健康管理施策を一層推進していくためには、これを担う健康管理体制の充実が不可欠である。人事院は、令和5年度に実施した各府省における健康管理体制の充実のための官民調査(Well-being調査)の結果も踏まえ、女性特有の健康課題に関する職員の相談窓口の新設に向けた準備を進めたほか、心の健康の問題による長期病休者の円滑な職場復帰のための新たなマニュアル等の作成に取り組んだ。引き続き、各府省と連携し、実効的な改善策を検討していく。

また、非常勤職員の健康に関する支援や適切な勤務環境の整備を進める観点から、総合的な健康診査(人間ドック)の受診に係る職務専念義務の免除が認められる非常勤職員の範囲を拡大したほか、非常勤職員の病気休暇(私傷病)について有給化した(令和7年4月1日施行)。

【コラム】グローバル社会における人事行政分野の取組

グローバル化の進展により、国際社会及び我が国を取り巻く環境が大きく変化し、新たな対応が求められている中、諸外国との意見交換を通じ、今の時代環境に即した公務員人事制度に関する知識や情報を得るとともに、人事行政分野において国際社会に貢献できるよう、国際交流や国際協力を一層充実させていくことが重要である。

人事院は、主催国として国際会議を実施するなど、これまでも多国間のネットワーク構築に尽力してきている。東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国とは、互いに学び合うことが時代環境に則した公務員人事管理を進めていく上で重要であるとの考えの下、人事行政分野におけるネットワークをより強固なものとすべく様々な取組を行っている。具体的には、人事院は、令和6年10月に、ASEAN+3公務協力会議(ASEAN Plus Three Cooperation on Civil Service Matters, ACCSM+3)の枠組みにおける国際協力事業として、「Work Engagement and Well-being in the PublicService(公務におけるワークエンゲージメントとウェルビーイング)」をテーマとする国際ワークショップを札幌市にて開催した。同会合においては、各国や国際機関の代表者によるプレゼンテーションや課題対応に関する活発な意見交換を通して、専門的知見や好事例の共有が行われた。

【コラム】グローバル社会における人事行政分野の取組

また、人事院は、シンガポールとの間で職員の相互派遣の検討を進めるなど、このACCSM+3諸国の中で二国間における協力関係の推進も図っている。

上記のほか、人事院は、中国及び韓国との間で人事行政分野における連携及び相互交流を進めるために構築された日中韓人事行政ネットワークの枠組み、経済協力開発機構(OECD)の公務員雇用管理(PEM)に関する作業部会などにおいて、人事行政分野における重要課題や最先端の取組について参加国との間で意見交換などを行う場に参画している。これらに加えて、人事院は、アジア諸国やアフリカ諸国の開発途上国等に対する技術協力において、独立行政法人国際協力機構(JICA)プロジェクトを通じて様々な協力を行っている。

人事院としては、こうした様々な機会を有効に活用し、国際交流・国際協力の一層の充実を戦略的に進めていき、公務員制度の発展と改善に取り組むとともに、グローバル社会における人事行政分野での貢献度を高めていくこととしている。

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