前記第3節1で見たように、人事院が行った国家公務員イメージ調査では、「20歳台の学生」には、国家公務員のやりがいや成長の機会などに対してポジティブなイメージを持たれていない状況にある。また、就職活動を行う学生等からは業務量、業務内容やキャリアパス、身に付くスキルの不透明さなどについてネガティブに受け止められている状況にある。
一方で、内閣官房内閣人事局が国家公務員として働いている者を対象に実施した「国家公務員の働き方改革職員アンケート」によれば、働き方改革が進んだ実感について、平成30年度の43.0%から令和4年度では66.4%に増加している。また、令和5年度では、現在の職場について働きやすい、あるいは働きがいがあると回答した割合がいずれも約6割となっているなど、公務職場で働く職員は、働き方が着実に改善しているイメージを持っていることがうかがえる。このような公務職場内における改善の状況を公務外に十分に伝えられていないのが現状である。
近年、公務職場では、制度面の改善のほか、各府省の現場でも工夫をしながら様々な改善の取組を行っているものの、公務職場の提供価値の全体像を整理し、魅力という観点で各府省が連携して発信する取組は十分ではなかった。そのため、公務のイメージが断片的で分かりにくくなっている状況にある。働く場としての公務のイメージが的確に公務外に、特に求職者に伝わらないことには、いかに公務の魅力を向上しようともその効果は限定的となる。
そこで、今回、「公務のブランディング」の取組を提案する。公務のブランディングにおいては、まず、公務職場の提供価値のうち、何を魅力として発信すべきかを整理する。具体的には、①公務内外のターゲットとなる人材が期待する価値を把握した上で、②競合する民間企業等が提供する価値も踏まえつつ、③公務職場の提供価値のうち差別化した魅力として打ち出すべきものを戦略的に検討する。
その上で、魅力として差別化した公務職場の提供価値について、公務職場内における浸透施策を通じた魅力向上の取組と、公務外への魅力発信の取組を一体的、整合的に実施する。これらの取組を戦略的に行うことにより、公務内外のターゲットとなる人材を惹きつけていくことが重要となる。
なお、公務のブランディングは各府省レベルでも実施する必要があるが、今回の提案は公務「全体」のブランディングとする。これは、公務全体としての魅力を伝えることで、まずは職業選択において公務を選択肢として考えてもらい、その上で、個々の関心に応じて各府省につないでいくことが有効かつ効率的と言えるためである。
公務のブランディングの枠組みの全体像を示すと、以下のとおりである(図1-9)。

【コラム2】エンプロイヤー・ブランディングの潮流
(寄稿)アビームコンサルティング株式会社 ダイレクター 佐藤一樹氏
現在、日本の労働市場では、優秀な人材を巡る獲得競争が激化しています。一方で、「働く場」としての企業内に目を向けると、日本における社員のエンゲージメントと生産性は諸外国に比べて長らく低い水準となっています。結果として、多くの日本企業は、優秀な人材の採用が十分にできない、流出を止めることができない等の問題に直面しています。このような状況が放置されれば、企業は必要な人材の質及び量を確保することが困難となり、持続的な成長は不可能となります。企業の人事部を対象にした調査によると、必要な人材の量(ヘッドカウント)を十分に確保できていると答える企業は12.0%に過ぎず、必要な人材の質(スキル・経験)を十分に確保できていると答える企業は12.6%にとどまっています。その理由について、「労働市場の人手不足」という不可避の環境要因を最大の理由としながら、続く理由として挙がったのは、量・質両面において「自社の魅力が不十分」というものでした4。
このような状況を打破するには、今一度「働く場」としての「自社ならでは」の提供価値を社内外の労働者に対して訴求し、惹きつける必要があります。この取組がエンプロイヤー・ブランディングです。
エンプロイヤー・ブランディングは、採用市場に対する外面をよくするだけの表面的な採用ブランディングではありません。社員に対しては、日々の働く経験をよりよいものにする施策を通してエンゲージメントを高め、それを根拠に採用市場に対しても「働く場」としての価値を訴求していく一つの統合された取組を指します。つまりエンプロイヤー・ブランディングとは「働く場としての会社のブランドイメージを構築し、社内外のターゲットとする労働者を惹きつける取組」と言えます。
欧米では、エンプロイヤー・ブランディングは10年以上前から重要視されていますが、日本では「企業が人を選ぶ」との考えが根強く、あまり注目されてきませんでした。しかし、経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」は、企業と人が「選び、選ばれる関係」へ見直すことを提案しています。
「選び、選ばれる関係」を創り上げるエンプロイヤー・ブランディングについて、日本においても官民問わず一層の取組が進むことを期待します。
- 4 2024年 アビームコンサルティング株式会社「事業ポートフォリオ変革と社内外への人的資本への魅力訴求に関する実態調査」から見えるエンプロイヤーブランディングの重要性」https://www.abeam.com/jp/ja/insights/biz_portfolio_transformation/