第1編 人事行政

第2部 「選ばれる」公務職場を目指した魅力向上・発信戦略
    ~働く場としての公務のブランディング~

第2章 公務職場の魅力の整理

第2節 競合する民間企業等が提供する価値

公務は、職種・職域が多岐にわたることから、人材獲得において競合する民間企業等を特定することは困難である。他方で、前記第1章第3節1の「国家公務員イメージ調査」を見ると、商社及びコンサルタント・シンクタンクにおいて、やりがいや成長に関する肯定的回答の割合が国家公務員に比して高くなっている。

そこで、今回、複数の商社及びコンサルティング会社にヒアリングを行ったところ、各企業は、成長できる職場であることを積極的に発信するとともに、事業活動を通じた社会課題の解決への貢献もやりがいとして打ち出している状況がうかがえた。一方で、処遇や勤務環境については、競合他社と明確に差別化できるものでなければ、それほど積極的にアピールしていない状況が明らかとなった。

各企業の人事担当者等からヒアリングした内容の概要は以下のとおりである。

(1)三井物産株式会社

三井物産株式会社が提供する価値は、グローバルに新しいビジネスに携わり、自分自身が成長できる環境である。同社では、海外の大学で1年間勉強した後、そのまま海外で1年間のOJTをしながら語学力を高める機会を提供するなど、成長ができる環境が与えられている。

同社は幅広い事業展開をしており、社内公募制により、全く異なる事業領域に異動することができる。そのため、入社後に自分のやりたいことが変わった場合でも、自身のキャリア志向に合わせて事業を選ぶ機会が与えられている。

同社では、一つの産業では解決できないようなスケールの大きな産業横断的な課題の解決に取り組むことができることも一つの価値としてアピールしている。

(2)伊藤忠商事株式会社

伊藤忠商事株式会社では、企業の成長と社員の成長を前提として、「厳しくとも働きがいのある会社」を目指すことを人材戦略の柱として打ち出している。働き方改革を積極的に進めているが、それにより企業としての成長が妨げられるものであってはならず、成長と働き方改革の取組は両方が進むことでより魅力的なものとなると考えている。

同社では、同業他社との比較で社員数が少なく、社員一人一人が持つ裁量が大きいため、社員の能力開発と主体的キャリア形成支援を積極的に行っており、人材育成のきめ細やかさも同社のアピールポイントとなっている。

また、退職者には必ず個別面談を実施して退職の背景・理由を分析し、選ばれる会社となるための方策を考えるためのヒントとしている。

(3)A社(商社)

A社は、グローバルなフィールドで、スケールが大きく、社会貢献性が高いビジネスに携われることを価値として提供している。

また、学生は若いうちから成長の機会があることを期待するため、同社では業務を通じて成長できる機会が多くあることも大きな魅力としている。採用広報活動では、入社10年目程度までの社員がどのようなキャリアを歩み、スキルや知識を身に付けて成長してきたのか、携わった仕事がどのような社会貢献につながってきたのかという社員自身の実体験を発信している。

(4)アビームコンサルティング株式会社

アビームコンサルティング株式会社は、現状、採用市場において「働きやすい」、「人間関係が良好」といった想起を得ている。しかしながら、これだけでは同社の定める「Vision2030」の実現に必要な人材を惹きつけるには不十分だと捉え、労働市場とのコミュニケーションにおいて提示する自社に来る理由を「社会的責任への高い意識」、「チャレンジングな業務」、「キャリア形成に資する経験価値」の3点と再定義し、コミュニケーションを実施している。

さらに、持続的な価値創造を実現する「価値創出経営」を掲げ、この考え方に共感し、社会を変革する人材を迎えるべく、自社のエンプロイヤー・ブランディング(前記コラム2参照)を実施している。

(5)EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社は、パーパス(企業が存在する目的)に基づく採用、発信に力を入れており、求職者に対して、業務を通じた社会貢献性の高さを提供価値としてアピールしている。同業他社も社会貢献性を自社の魅力として発信しているが、同社は従前から長期にわたり事業として社会貢献に取り組んでいることを独自の価値として捉えている。また、パーパス実現に向けて、社員に能力を発揮してもらうため、働きやすいオフィス環境を整備している。同社が求めるような、長い目で見て社会に貢献できる人材を獲得するため、短期的に人気が出るような取組ではなく、会社の軸であるパーパスをぶれずに発信することに取り組んでいる。勤務条件や研修制度も、パーパスに紐付けて、パーパス実現のために制度が利用できることを発信している。

同社は、求職者はスキルを身に付けて成長することより、より良い社会の構築に向けて自身の実現したいことが達成できることを重視して企業を選んでいると考えている。したがって、同社では業務で身に付くスキルだけを殊更に発信するような取組はしていない。

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