第1編 人事行政

第2部 「選ばれる」公務職場を目指した魅力向上・発信戦略
    ~働く場としての公務のブランディング~

第2章 公務職場の魅力の整理

第3節 公務職場の提供価値として打ち出すべきもの

前記第1節及び第2節では、公務のブランディングの枠組みに基づき、公務内外のターゲットとなる人材が期待する価値及び競合する民間企業等が提供する価値を見てきた。

本節においては、公務職場の提供価値を整理した上で、公務のブランディングにおいて魅力として打ち出すべきものを特定していく。

公務職場が提供できる価値の整理の仕方は様々あり得るが、ここでは公務内外のターゲットとなる人材が期待する価値等を踏まえ、「社会への貢献に関する価値」、「職員の成長に関する価値」、「働く環境や経済的利益に関する価値」の三つに分類して整理することとする。

このうち、「社会への貢献に関する価値」については、前記第1節2で示したとおり、国家公務員採用総合職試験等からの新規採用職員が国家公務員になろうとした主な理由として挙げる「公共のために仕事ができる」、「仕事にやりがいがある」、「スケールの大きい仕事ができる」に関わるものである。仕事を通じた社会への貢献については、特に昨今の持続可能な開発目標(SDGs)への取組やパーパス経営の潮流もあり、競合する民間企業等でも価値として打ち出しているものではあるが、国家公務員の場合、「国」の視点から社会・国民生活の向上に貢献できるという点で、競合相手と差別化できる唯一無二の価値として、魅力の中核となり得るものと言える。

一方で、「職員の成長に関する価値」及び「働く環境や経済的利益に関する価値」については、人的資本経営や健康経営の観点とも相まって、競合する民間企業等もそれぞれ力を入れて提供している価値であり、より直接的に公務と比較される部分となる。したがって、積極的に魅力として打ち出せるものはより強化していくとともに、ネガティブなイメージを持たれている場合はそれを払拭する取組が必要となる。

1 公務職場の唯一無二の中核的価値

(1)社会への貢献に関する価値

公務職場の提供価値のうち、「社会への貢献に関する価値」は、競合相手と差別化できる国家公務員の魅力の中核であり、国家公務員として働くやりがいとして、「なぜ私はここで働くべきなのか」という求職者からの問いへの答えとなるものである。

ただし、前記第2節で紹介した企業のヒアリング結果にもあるように、近年は民間企業においても、事業活動を通じて社会課題の解決に積極的に貢献することを価値として打ち出している。これにより、公務と明確に差別化しにくくなってきており、特に若年層からの国家公務員のイメージにおいて「やりがい」がポジティブに評価されない原因の一つともなっていると言える。

そこで「社会への貢献に関する価値」を打ち出すに当たっては、競合する民間企業等と比べてどのような点で差別化でき、国家公務員が唯一無二であると言えるのか、分かりやすい切り口で整理して示していく必要がある。

今回、民間企業の人事担当者や、国家公務員と民間企業の双方の勤務経験を有する者などへのヒアリングを通じ、国家公務員の仕事の唯一無二性について、次のような視点を得ることができた。

〈国家公務員の仕事の唯一無二性に関する視点の例〉

○ 国のために、国家レベルで国際的に仕事ができる。

○ 高い視座、広い視野で、社会のこと、社会の反応を考えながら施策を検討できる。

○ 物事を語るときの主語が「国」となり、俯瞰的な視座で仕事ができる。

○ 公共目的を達成するために正面から社会課題解決に取り組める。

○ 将来の日本の在るべき姿を多面的に考えて実現するための検討・思考を続けられる。

○ 政府の立場でしか扱えない法令、予算、税制等を通じて社会にインパクトを与えられる。

○ 法令や政策の立案を通じて社会をリードし、国を変えることは、国家公務員しかできない。

○ 特に海外における国際交渉等では、日本政府の一員になることで信頼が得られ、その経験が自身の財産になる。

また、人事院が作成している「国家公務員試験ガイド 2025」においては、各府省の若手職員が挙げる国家公務員の魅力として、

○ 日々の仕事が我が国のあるべき姿の実現につながっていくこと。

○ 広い視点と大きな責任をもって業務に取り組むことができること。

○ この国の未来を憂うのではなく、自分の手で変えられること。

○ 唯一無二の社会的インパクトの大きさ。

○ 実施した事業が全国に行き渡るその規模の大きさ。

といった点が挙げられている(図2-7、図2-8)。

国家公務員試験ガイド 2025総合職

国家公務員試験ガイド 2025一般職

このような公務の唯一無二の魅力として挙げられているものを共通項で整理すると、大きく分けて、「視座の高さ」、「視野の広さ」、「影響力の大きさ」の三つの視点を抽出することができる。

この三つの視点について、以下(2)では国家公務員行動規範との関連を見ていく。

(2)国家公務員行動規範との関係

人事行政諮問会議最終提言において、全ての国家公務員が職務を行うに当たって常に念頭に置くべき基本認識を言語化し、共通して求められる行動の指針として、国家公務員行動規範を定めることが人事院に対して求められた5

国家公務員行動規範においては、国家公務員に求められる行動として、①「国民を第一」に考えた行動、②「中立・公正」な立場での職務遂行、③「専門性と根拠」に基づいた客観的判断を挙げている。

これらは、①が「視座の高さ」と、②が「視野の広さ」にそれぞれ関連している。また、③の「専門性と根拠」に基づいた客観的判断は、国家公務員の仕事の「視座の高さ」、「視野の広さ」、「影響力の大きさ」の全てに関連して求められるものと言える。

このように見れば、国家公務員の仕事の唯一無二の魅力となる差別化要素は、国家公務員行動規範で示す各行動が求められる背景と密接に関連していると言うことができる。

参考 国家公務員行動規範

1「国民を第一」に考えた行動

・国を支える国家公務員としての使命感の下、国民を第一に考え、志と意欲を持って誠実に行動する

・確かな行政サービスを提供し続けるため、限りあるリソースを効果的に活用し、最大のパフォーマンスを発揮する

2「中立・公正」な立場での職務遂行

・特定の個人や組織など一部の利害を偏重せず、中立・公正な立場で職務を遂行する

・行政に対する多様なニーズや様々な立場があることを理解し、広い視野を持って職務にあたる

3「専門性と根拠」に基づいた客観的判断

・国民からの信頼が得られるよう、常に透明性の高い行政運営を意識した上で、根拠に基づいた客観的判断を行う

・知識を深め、スキルを磨き、行政のプロフェッショナルとしての誇りと責任感を持つ

さらに、このような国家公務員の唯一無二の価値に魅力を感じて集まる者は、国家公務員行動規範に定める行動を取る使命感の高い行政のプロフェッショナルであり、これらの者が互いに切磋琢磨する職場であるという点も、働く場として、他と差別化された魅力となり得る。

(1)で整理した「視座の高さ」、「視野の広さ」、「影響力の大きさ」の三つの視点に、上記のような「職場の使命感とプロ意識の高さ」という視点も加えて、国家公務員の「社会への貢献に関する提供価値」について、競合相手と差別化する観点で整理すると次のとおりである。

(「社会への貢献に関する価値」を差別化する観点からの整理)

視座の高さ

○ 国の視点から日本社会の在るべき姿、更には国際社会の在り方まで俯瞰的に考え、国民全体の安全・安心や生活の向上を追求する仕事であること。

○ 社会全体の在り方から国民一人一人の生活への影響まで見据えて取り組む仕事であること。

○ 長期的なスパンで未来の我が国の在るべき姿を考える仕事であること。


視野の広さ

○ 国民全体に関わる複雑かつ多様なステークホルダーの利害を調整しながら社会課題を解決する仕事であること。

○ 多種多様な職務、現場を通じて政策を執行し、国民生活の向上に貢献する仕事であること。

○ 国内にとどまらず、国際機関や各国とも協力して困難な社会課題解決に取り組む仕事であること。


影響力の大きさ

○ 法令や政策の企画・立案を通じて社会をリードし、国民生活や社会の仕組みに関わるルールを形成していく影響力の大きい仕事であること。

○ 現場での執行を通じて国民一人一人の生活に深く影響を与える仕事であること。

○ 国を背負い外国政府との交渉を通じた国際基準の策定等に携わる仕事であること。


職場の使命感とプロ意識の高さ

○ 政策の立案から現場での執行まで、社会や国民生活の向上に対して高い使命感、志を持って取り組む者が集まる職場であること。

○ 社会や国民生活への影響の大きさを自覚し、政策の立案から現場の執行まで、行政のプロフェッショナルとしての誇りと責任感を求められる職場であること。

【コラム3】国家公務員の「社会的信用」

「The Times Top 100 Graduate Employers」によれば、2024年の英国における新規学卒者が選ぶ良い雇用者のランキングにおいて、国家公務員は第2位となっている。令和7年2月に英国の政府機関(内閣府等)の職員複数名に対し、国家公務員として働く魅力について聴取したところ、仕事のインパクトや多様さ、幅の広さ、成長の機会といった仕事に起因する魅力のほか、「評判」や「名声の高さ」、「プライド」などに関する言及があった。

我が国について見ると、人事院が令和4年3月に公表した「本年度就職活動を終えた学生を対象とする意識調査」では、学生が持つ国家公務員のイメージとして「周囲の人に誇れる職業である」が最も高くなっている。

また、前記第1章第3節1で紹介した「国家公務員イメージ調査」でも、国家公務員の「社会的信用」に関するイメージは、肯定的回答の割合が高くなっている(図2-9)。

社会的に信用されている(全年代計)
社会的に信用されている(全年代計)のCSVファイルはこちら

前記(1)の国家公務員の仕事の唯一無二性に関する視点の例でも挙がっているように、特に国際交渉等の場においては、日本政府の国家公務員であることで、高い信用を得て重要な議論に参画することができるといった声もある。この点は海外に限らず国内においても同様であり、例えば、国家公務員として働くことで、行政サービスの受け手となる様々な立場・経験を有する方々や、学識経験者、企業経営者等と若いうちから意見交換・折衝をすることで貴重な知見を得て、政策の立案・執行に反映できるという点が挙げられる。

国家公務員として社会・国民生活の向上のために働く立場であるからこそ、社会的な信用を得てこのような機会を得ることができている。このような国家公務員の仕事の社会的信用も、働く場としての魅力の一つと言えよう。

2 公務と、競合する民間企業等が共に提供できる価値

次に、公務職場の提供価値のうち、競合する民間企業等も提供する「職員の成長に関する価値」及び「働く環境や経済的利益に関する価値」について整理する。

「職員の成長に関する価値」は公務内外のターゲットとなる人材が特に強く求める価値であり、競合相手も力を入れて提供していることから、「社会への貢献に関する価値」と関連付けるなどして差別化した上で、積極的に発信していく必要がある。

また、「働く環境や経済的利益に関する価値」についても、実態に応じた正しい情報を発信することが重要である。特に、ネガティブなイメージについてはその払拭に向けて、正しい情報の発信に加え、現状に対する問題意識や今後の改善の方向性、目指す未来の姿も併せて示していくことが重要である。

この点、人事行政諮問会議最終提言において示された新時代の人事管理を実現するための施策については、工程表を作成した上で、取組の進捗状況を定期的にモニタリングしその結果を公表することが人事院に対し求められている。このような改善に向けた取組の進捗状況は、特に併せて発信すべき重要な情報の一つと言える。

(1)職員の成長に関する価値

職員が成長の機会として何に魅力を感じるかは、個々の価値観や、職種・職域、専門性などによって様々であるが、ここでは競合相手との差別化を図る観点から、「社会への貢献に関する価値」の差別化の切り口である「視座の高さ」、「視野の広さ」、「影響力の大きさ」、「職場の使命感とプロ意識の高さ」を使って整理することとする。

① 全体を俯瞰し、物事を構造的に捉える力(視座の高さ)

国家公務員は、国の視点から日本社会の在るべき姿、更には国際社会の在り方まで俯瞰的に考え、国民全体の安全・安心や生活の向上のために最も望ましい政策を提案・実行する役割を担っている。また、国の未来を見据えて長期的な視点で政策を検討し、実行している。

個々の業務はその範囲で閉じることなく、社会全体の制度や仕組みに影響を及ぼすこととなる。そのため、職員はどのような職位であっても、目の前の業務と社会全体とのつながりを意識して、社会の仕組みを読み解く力を養っていくこととなる。

このように全体を俯瞰し、物事を構造的に捉えて全体最適を考える力は、いわば民間企業において経営層が行うような高い視座での思考であり、そのような機会を、比較的若い段階から国の視点で働く国家公務員という立場から得ることができると言える。

② 多様で幅広い仕事を通じた多角的な視点、課題解決力、調整力(視野の広さ)

国家公務員は、自分たちの組織内にとどまらず他府省、地方公共団体、民間企業等との人事交流、更には外務省以外の職員でも在外公館での勤務や国際機関等への派遣の機会などがある。これらの「越境体験」を通じて、能力開発はもちろんのこと、異なる組織文化、立場からの多角的な視点を得ることができる。

また、国家公務員が直面する課題の多くは前例のないものであり、課題の解決に当たっては、既存の枠組みにとらわれない新たな発想で、各現場、府省横断、さらには各国とも協力して、政策を総動員して困難な社会課題解決に取り組む必要がある。このような仕事を通じて高度な課題解決力が培われることとなる。さらに、このような仕事は、複雑かつ多様なステークホルダーの利害を調整しながら、社会全体、あるいは国民生活に直結するような課題の解決に向けて関係者を巻き込んで取り組むものであり、高度な調整力を発揮することが求められる。

③ 責任の大きい仕事への挑戦と中長期的な人材育成(影響力の大きさ)

国家公務員は、法令や政策の立案・執行を通じて社会をリードし、国民生活や社会の仕組みに関わるルールを形成するとともに、国際的な場では国を背負って国際基準の策定等の議論をするといった影響力の大きい仕事に挑戦することとなる。それだけに、政策の合理性や整合性を確保し、客観的根拠に基づく責任のある判断が求められる。

このような高度な判断を職員が責任を持って行うためには、実務経験と理論や演習による体系化の繰り返しが重要であり、中長期的な視点での育成が必要となる。そこで、各職場でのOJTを通じた行政経験の付与に加え、人事院では各府省の職員に対して、役職段階別研修、テーマ別研修等を実施している。さらに、派遣研修として、専門的な知識、技能等を習得させ、その後の公務に還元させることを念頭に置いて毎年多くの職員を国内外の大学院(修士課程・博士課程)へ派遣している。また、各府省においても、それぞれの職員の能力開発のための様々な研修を実施するとともに、一部府省では独自の研修施設を有するなどしており、中長期的な視点での能力向上が意識されている。

④ 使命感に根ざした成長の場(職場の使命感とプロ意識の高さ)

国家公務員の職場には、国家公務員行動規範に定める各行動を取り、国民全体の利益の実現に高い使命感を持って取り組む行政のプロフェッショナルが集まっている。このような志の高い職員同士が、日々の行政サービスの提供や将来に向けた政策の企画立案に真摯に取り組み、互いに切磋琢磨している。国民生活に関わる社会課題の解決に向けて重責を担い、多様な視点と高度な専門性を培いながら業務を遂行する中で、職員一人一人が大きく成長できる場であると言える。

以上の内容を改めて整理すると次のとおりである。

(職員の成長に関する価値を差別化する観点からの整理)

① 全体を俯瞰し、物事を構造的に捉える力(視座の高さ)

○ 目の前の業務と社会全体とのつながりを意識して、社会の仕組みを読み解く力を醸成

○ 民間企業において経営層が行うような高い視座での思考を国家公務員として実施

② 多様で幅広い仕事を通じた多角的な視点、課題解決力、調整力(視野の広さ)

○ 「越境体験」を通じた多角的な視点の獲得

・自分たちの組織内での幅広い政策分野の経験

・他府省、地方公共団体、民間企業等との人事交流

・在外公館での勤務や国際機関等への派遣

○ 前例のない課題に対し、新たな発想で政策を総動員して対応する高度な課題解決力の獲得

○ 複雑かつ多様なステークホルダーの利害を調整しながら関係者を巻き込んで課題を解決する高度な調整力の獲得

③ 責任の大きい仕事への挑戦と中長期的な人材育成(影響力の大きさ)

○ 国や社会の仕組みに関わるルール形成に直接関与するような、国民生活に大きく影響する仕事に挑戦する機会

○ 高度な能力を培うため中長期的な視点で人材育成(公務への還元を念頭に多くの職員を海外の大学院へ派遣等)

④ 使命感に根ざした成長の場(職場の使命感とプロ意識の高さ)

○ 志の高い職員同士が、真摯に職務に取り組み、互いに切磋琢磨する場

○ 重責を担い、多様な視点と高度な専門性を培いながら業務を遂行して成長する場

【コラム4】国家公務員の海外留学の機会

国家公務員の海外留学(行政官長期在外研究員制度)は、国際的視野を持ち、複雑・多様化する国際環境に的確に対応できる行政官の育成を図ることを目的として実施しており、人事院は、従来から国家公務員の魅力の一つとして力を入れてきている。毎年、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学など、米英を中心に世界各国の大学院の修士課程・博士課程で日本の国家公務員が研鑽を積んでいる(年間約150人程度を派遣)。

留学経験については、各府省の採用パンフレットを始め様々な媒体で紹介されており、国家公務員の魅力的な能力開発の機会として発信されている。

なお、帰国した行政官長期在外研究員は、留学の経験・成長をいかして公務に従事しており、その一部は帰朝報告のため、高円宮妃殿下に御接見を賜っている。

(2024年11月に高円宮妃殿下に研究員が御接見を賜った際の写真)

このほか、令和6年度には、各府省の管理職員を海外の大学院のリーダー養成コースに短期間派遣する「リーダー派遣コース」も新たに設けるなど、若手のうちだけでなく、キャリアパスの様々な段階において視野を広げ、成長するための機会を提供している。

【コラム5】国家公務員として得られる能力やスキル

前記第1章第3節1の国家公務員イメージ調査のとおり、仕事を通じたスキルアップや成長の機会について国家公務員はネガティブなイメージを持たれている。しかしながら、これまで見てきたように、実際は、国家公務員という仕事は、前例のない課題に政策を総動員して対応する高度な課題解決力や、複雑かつ多様なステークホルダーを相手とする高度な調整力など、様々な能力・スキルを向上させる機会が多く得られるものである。

【職員の成長イメージと能力の明確化】

この観点で、職員の成長イメージと能力の伸長を結び付けて公表している先行事例として、「METI CAREER GUIDE ~経産省でともに成長するために~」(令和6年6月経済産業省)がある。

このガイドは、経済産業省が職員のキャリアについてどのように考えているのか、どのような形でキャリア支援を推進しているのかを明確化・見える化する目的で作成されたものである。同時に、人的資本経営の観点から対外的に発信し、人材確保にもつなげるという狙いもある。

具体的な仕事の内容等についてはポストによって様々であることは当然であるが、このように分かりやすい形で職員の成長イメージと得られる能力を示すことは、部内職員の成長実感を高めるとともに、公務外に対する魅力発信としても有効と考えられる(図2-10)。

METI CAREER GUIDE(経済産業省)

【「調整力」の言語化】

国家公務員の行う調整は、各種スキル・能力を総動員して行われるものであることから、「調整力」の中身については、人や仕事内容によってイメージするものが様々となっている。

この「調整力」について、民から官、官から民への越境転職支援を行っているVOLVE株式会社のWEBサイトでは「さまざまなステークホルダーの利害関係や価値観の違いがある論点について、現状とは異なる最適解を構想し、その最適解の実現に向けて、意思決定に必要な人々の合意形成をすること」と表現されている。また、「調整力」をナレッジ・スキル・マインドセットに分解し、国家公務員の仕事を通じてどのようなスキル・能力が身に付くのかを言語化する試みが行われている。

このように民間企業と共通する言語を用いて分解し、国家公務員で身に付く能力・スキルを説明することも、公務内外に対する魅力発信として効果的と言える(図2-11)。

調整力のナレッジ・スキル・マインドセットへの分解

これらも参考にしながら、今後、国家公務員の仕事を通して身に付く能力・スキルを明確化し、分かりやすく情報発信していくことは、公務の魅力向上・発信のために有効と考えられる。

(2)働く環境や経済的利益に関する価値

前記第1章第3節1の「国家公務員イメージ調査」では、個人の事情に合わせて柔軟な働き方ができているという点について、「20歳台の学生」は国家公務員(本府省)に対してネガティブなイメージを持っていた。しかしながら、実際は柔軟なフレックスタイム制の導入や、テレワークの推進を行っており、実態に応じた正しい情報の発信を通じたイメージ形成が必要と言える。

国家公務員に対して働く環境や経済的利益に関する価値を適切に提供することは、職員が最大のパフォーマンスを発揮し、国民に対して持続的に行政サービスを提供するために不可欠である。したがって、これらの価値について、正しい情報を発信するとともに、現状の課題に対する認識と今後の改善の方向性、目指す未来の姿を積極的に示すことで、ネガティブなイメージを払拭していくことは、人材確保の観点のみならず、職員のパフォーマンス向上及び持続的な行政サービスを提供する観点からも積極的に行うべきである。

国家公務員の「働く環境や経済的利益に関する価値」について、このような観点から改めて整理すると以下のとおりである。

(働く環境や経済的利益に関する価値の整理例)

働く環境に関する価値

○ フレックスタイム制、テレワークによる柔軟な勤務が可能な仕組みを整備していること。

・柔軟なフレックスタイム制の整備(一定の期間内で、勤務時間数の総量は同じまま1日の勤務時間数を変更できる仕組みであり、土日のほか週1日勤務しない日を設けることも可能。また、勤務開始後でも将来に向かって勤務時間の割振り変更可能)

・テレワークの推進(テレワークの適切な実施の推進のためのガイドラインを策定し、更なる浸透と定着を推進)

○ 各府省において働きやすいオフィス環境の整備や業務効率化を進めていること。

・ガバメントソリューションサービス(GSS)の導入(デジタル庁が行政機関に対して業務遂行に必要なデジタル環境を整備・提供するもの。後記コラム6参照)、オフィス改革(ペーパーレス化、フリーアドレス席の導入等)など、各府省においてオフィス環境の整備や業務効率化が進展

○ 充実した両立支援制度や休暇制度を整備していること。

・3歳まで利用可能な育児休業制度

・男性職員の育児休業取得率80.9%(令和5年度)

・年次休暇の取得日数の年平均16.2日(令和5年)など

(参考) 民間における男性の育児休業取得率は30.1%(厚生労働省・令和5 年度雇用均等基本調査)、年間の年次有給休暇の労働者1人平均取得日数は11.0日(厚生労働省・令和6年就労条件総合調査)

○ ハラスメントの根絶に向けた取組を行っていること。

・幹部・管理職員を対象としたハラスメント防止研修、各府省のハラスメント相談員を対象としたセミナーの実施、国家公務員ハラスメント防止週間の設定等

○ 勤務間のインターバル確保の努力義務を導入していること。

(参考) 民間における勤務間インターバル制度導入企業の割合は5.7%(厚生労働省・令和6年就労条件総合調査)

○ 超過勤務の縮減に向けた継続的な取組を進めていること。

・公務部内の人材マネジメントを徹底するなどにより、長時間労働もやむを得ないとする職場風土や職員の意識を抜本的に切り替えられるよう人事院から各府省に対して働きかけ

・国会対応業務のみならず、各府省の一層の業務削減・合理化に向けた取組を促進

○ 長期的な視点で仕事に専念できること。

・法令に基づき任用され、長期的な視点で仕事に専念し、持続的な行政サービスを提供できる地位(立場)を保護

・職員の苦情を受け付ける仕組みや不利益となる処分を受けたときの救済制度を整備

経済的利益に関する価値

○ 社会一般の情勢に応じた適正な給与水準が確保されること。

・近年着実に新卒初任給を改善。令和6年人事院勧告では、年収ベースで最大60万円増加

・官民給与の比較対象となる企業規模の見直しや現行の給与体系の抜本的見直しを検討

○ 勤務実績に応じたボーナス、昇任・昇格、昇給制度があること。

・人事評価に基づくボーナスの査定、昇任・昇格の仕組み

・毎年の昇給も人事評価に基づき昇給幅に差が付く仕組み

これらの価値の中には、超過勤務の縮減のように、改善に向けて継続的な取組が必要となるものもある。これらについても、引き続き正しい情報を発信するとともに、現状の課題や今後の改善の方向性を合わせて提示することで、取組の姿勢や公務組織として目指す未来の姿を積極的に発信していくことが重要である。

特に、人事行政諮問会議最終提言において示された新時代の人事管理を実現するための具体的施策の進捗状況は、併せて示すことにより魅力として認知され得るものであり、積極的な発信が求められる。

【コラム6】人事院におけるオフィス改革の取組

行政機関では、デジタル庁が整備・提供した「GSS(ガバメントソリューションサービス)」によって、高いセキュリティを確保しつつ場所を問わない働き方が可能となっている。

GSSは、政府職員が定常業務を遂行するために使用するPCや周辺機器、それぞれの端末で使用するソフトウェア、ネットワーク環境まで、IT環境全体を提供しており、クラウドサービスやゼロトラスト・アーキテクチャなどの最新技術を取り入れて生産性やセキュリティの向上を図りつつ、各府省の業務環境の統合を進めている。

人事院は、最初のユーザーとして令和4年度にGSSを導入し、オンライン会議の活用、ペーパーレス化のほか、チャット等を通じたコミュニケーションの促進、職員自らのシステム開発等による業務効率化など、DXを着実に進めている。

また、現在、東京都・霞が関にある人事院本院は、令和7年度中に東京都・虎ノ門のオフィスビルに移転する予定である。庁舎移転に当たっては、職員自ら新たなオフィス空間・環境整備を考え、より一層働きやすいオフィスとなるよう準備を進めている。

フロア内イメージ

  1. 5 人事院は、令和7 年5月15日に、「国家公務員行動規範」を人事院会議で決定した。
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