第1編 人事行政

第2部 「選ばれる」公務職場を目指した魅力向上・発信戦略
    ~働く場としての公務のブランディング~

第3章 魅力の公務職場内への浸透及び公務外への発信

第2節 公務外への魅力発信に向けた取組

公務のブランディングを一体的、整合的に実施するためには、前記第1 節で記載した公務部内への魅力の浸透を行うと同時に、公務外に対して、戦略的に公務の魅力を伝える取組を行っていく必要がある。

特に、多様な価値観や働き方への志向が広がる中で、公務が「選ばれる」組織となるためには、これまで見てきたとおり、制度や処遇の情報にとどまらず、公務の仕事を通じた社会への貢献や成長に関する価値を、差別化した魅力として発信していくことが求められる。

公務外の者が持つ国家公務員のイメージは、家族や友人など身の回りの人々、あるいは国民全体の認識の中で形成されていくものであり、そのイメージが、「働く場」を選択する際の意思決定に影響することとなる。そのため、発信という観点からは、直接の採用対象に限らず、公務の価値を広く社会に発信することも重要である。これは、国民の公務への理解と信頼の向上に資するとともに、公務に対するポジティブな認識を広げることで、公務の役割に共感し、応援してくれる理解者を増やすことにもつながる。こうした社会的な支持の広がりは、公務員という仕事の社会的評価の向上や、将来的な人材確保の基盤強化にも資するものである。

したがって、公務の魅力向上と長期的な人材確保の観点から、採用対象に向けた魅力発信と、より広く社会全体へ公務の価値を発信する取組の双方を、一体的に進めていくことが今後重要となってくる。

以下では、まず1で広く社会全体へ公務の価値を発信する方策について記載した上で、2で採用対象に対する戦略的な人材確保施策の実施について記載する。

1 社会全体への公務の価値の発信

諸外国においては、「パブリックサービスウィーク」などの形で、職員の士気向上と併せ、公務の価値を社会一般に発信する取組を行っている例が見られる(後記コラム9参照)。

これに類する取組として、人事院においては、昭和63年から毎年、「人事院総裁賞」を実施している。これは、国民全体の奉仕者として、長年にわたる地道な活動や高いモチベーションの下での勇気ある行動などを通じ、行政サービスや国民生活の向上に顕著な功績を挙げ、国民の期待に応えた国家公務員(個人又は職域)を表彰するものである。

このほか、例えば、文部科学省を始め各府省が連携して実施する「こども霞が関見学デー」なども、参加するこどもたちだけでなく、親を始めとした家族や学校関係者も含め、幅広い世代に対して公務の価値を伝えるための取組となっている。

今後は、人材確保の観点から、このような関連するイベントと戦略的に連携していくことが考えられる。

また、広報の手法に関して、例えば農林水産省では、NIPPON FOOD SHIFTに関する新聞広告が第73回日経広告賞の大賞を受賞するなど、政府の広報で高い認知を得られる効果的な発信を行う事例も出てきている。

府省それぞれが、他府省における効果的な発信の取組事例も参考にしながら、情報発信を強化するとともに、政府が運用している政府広報なども含め、あらゆる発信の機会を活用して、公務の価値を国民に伝えていくことが重要である。

【コラム9】諸外国におけるパブリックサービスウィーク、アワードの事例

〇 シンガポール

シンガポールでは、毎年7月に「公共サービス週間(Public Service Week)」を実施している(週間であるが実際には1か月ほどイベントが続く。)。

この期間中は、バリューやその年の優先課題に焦点を当てた取組を行っており、職員に公務員としての使命感を思い出させるとともに、日々の業務の中で見失いがちなやりがいや価値を再確認させることを目指している。

また、バリューの実践、変革、市民との連携などに基づいてPublic Sector Transformation(PST)Awards(政府全体、機関、個人の各カテゴリーでの貢献を表彰するもの)を授与するとともに、公務員がスキルアップできるようなコースやプログラムを提供するなどしている。


〇 英国

〈Civil Service Awards〉

英国では、毎年12月頃に、優れた国家公務員を表彰するCivil Service Awardsを民間団体と共同で開催している。

本イベントは2006年から実施されており、「A Modern Civil Service」(前記コラム8参照)の策定後は、このビジョンに合わせて、 「A Skilled Civil Service」、「An Innovative Civil Service」、「An Ambitious Civil Service」のカテゴリーを設けて表彰している。

また、これらのカテゴリーを横断する「ライジング・スター賞」、「内閣官房事務次官優秀リーダー賞」、「首相特別公務賞」を設け、職員を表彰している。


〈Civil Service Live〉

Civil Service Live は、毎年6~7月に英国各地(7~8か所)で1日ずつ実地開催する能力開発、学びのイベントであり、民間団体と共同で開催し、約2万人の国家公務員が参加している。このイベントは、各地の国家公務員が横のつながりを作る機会を提供するとともに、各府省の幹部職員が直接現地に赴くことで、職員との一体感を醸成することも狙いとしている。

本イベントは2008年から実施されており、「A Modern Civil Service」(前記コラム8参照)の策定以降は、そのテーマと連動した内容で実施されている。


〈One Big Thing〉

One Big Thingは、一つのテーマの下、全職員(約50万人)に学びの機会をオンラインで提供する能力向上のイベントである。数か月間の実施期間を設定し、各職場での実践につなげてもらうとともに、ベストプラクティスを共有するプラットフォームも提供している。

このイベントは2023年から開始されており、2023年のテーマはDigital & Data、2024年のテーマはInnovationとなっている。各職場の職員が自分事として捉えて取り組むことができるよう、2024年のInnovationのテーマの下では、まずは各職場で小さな変化を起こすよう促すこととされている。


〇 カナダ

〈National Public Service Week〉

カナダのNational Public Service Week(NPSW)は、法律に基づいて1992年に制定されており、毎年6月第3週に実施されている。その目的は、連邦公務員が提供するサービスの価値を認識すること及び連邦公務員の連邦行政への貢献を認識することとされている。NPSWは、カナダ国民及び組織内に対して、連邦公務員が優れた公共サービスを提供していることを周知し、公共サービス及び連邦公務員に対する信頼を高めるために設けられている。


〈Public Service Awards of Excellence〉

カナダでは、優れた連邦公務員を表彰するPublic Service Awards of Excellence を設けている。具体的には、高い専門性を発揮して公務に貢献した職員、イノベーションを進めた優秀な若手職員、連邦政府が策定した「公務における価値観及び倫理規範(Values and Ethics Code for the Public Sector。前記コラム8参照)」において示された公務の価値を体現した職員などが表彰される。この賞は、優れた業績を挙げた連邦公務員をたたえると同時に、連邦公務員の日々の働きをカナダ国民が認識する機会ともなっている。また、受賞者は、カナダ国民に対して優れた貢献を行った連邦公務員の模範となっている。

2 戦略的な人材確保施策の実施

人事院においては、各種の人材確保活動を展開してきているが、今後は、公務の魅力を整合的・効果的に発信するため、人材確保施策について、対象、発信内容、発信時期、発信方法の観点から整理や見直しを行い、より戦略的に進めていく必要がある。

そのため、人事院としては、以下のとおり取組を進めていく。

(1)対象

従来の人材確保活動においては、具体的な対象は念頭に置きつつも、幅広く参加者を受け入れることを優先して、各イベントの参加対象を必ずしも限定することなく周知する傾向にあった。そのため、参加者側にとって、どのイベントに参加すれば有益な情報を得られるのかが分かりづらく、発信内容と対象のミスマッチが生じていた可能性がある。

また、従来のイベントは、新規学卒者の就職活動が本格化する大学3年生で、既に国家公務員に一定の関心を有する者を主な対象とするものが多く、就職活動開始前の者を主な対象とする取組は少なかった。そのため、就職活動開始時点で、就職先として国家公務員が認知されない場合、あるいは国家公務員に対してネガティブなイメージを持たれていた場合、国家公務員という進路が検討されることなく、就職先の候補から外れていた可能性もある。そこで、今後の人材確保活動の展開においては、対象を大学1、2年生や高校生以下まで拡大した上で、学年、専攻分野、国家公務員への関心・志望度合い、受験を考えている採用試験等の属性に応じて対象を細分化して設定し、各イベントの対象者の明確化を進めていくこととする。

このほか、近年、選考採用や経験者採用試験による採用などの中途採用が拡大していることに鑑み、中途採用のターゲット層を対象とした発信も強化していくこととする。

(2)発信内容

従来の人材確保活動では、多様な参加者を意識して、試験制度、試験スケジュール、国家公務員の仕事の種類・内容、勤務条件等の様々な内容を網羅的に発信する傾向にあった。そのため、参加者の関心が高いテーマへの言及が少なくなったり、関心が低いテーマに多くの時間が割かれたりする場合があったと考えられる。今後は、公務の魅力を効果的に伝えられるよう、対象の特性等を踏まえて発信内容を適切に選定することとする。

その上で、これまでに述べた公務職場の提供価値を踏まえて、公務のブランディングを意識した情報発信を行っていくこととする。その際には、職員の実体験に即して公務の提供価値をストーリーとして伝えることも効果的であり、人材確保活動に参画する職員一人一人が、自らの発する情報やイメージが学生等の行動や決定に影響を与え得るという認識を持つことが重要である。そのため、人材確保活動に参画する職員と、発信対象の属性や発信内容などについて事前に十分認識を合わせることとする。

また、公務に対するネガティブなイメージを持つ原因となっている要素については、正確な情報を発信するとともに、改善の取組を併せて発信していくことを通じて、ネガティブなイメージの払拭、あるいはポジティブなイメージへの転換を図っていく必要がある。

(3)発信時期

就職活動は、一般的に、就職先候補の認知から始まり、認知した就職先候補に対して興味・関心を持ち、他の就職先候補との比較・検討を経て、申込・選考に進む、という流れで行われる。それぞれの段階で必要とされる情報は異なるが、従来の人材確保活動においては、就職活動の進捗状況には個人差があることに鑑み、時期により発信内容に大きく変化を付けてはこなかった。その結果、必ずしも就職活動の各段階で求められる情報を効果的に発信できていなかった可能性がある。

特に、インターンシップに関しては、民間企業がインターンシップを通じて社風、従業員の魅力、仕事内容やキャリアパス、自己成長の機会等について十分に情報提供し、学生の志望を高めているのに対し、国家公務員では、インターンシップを通じた学生への魅力発信が十分に行えていない可能性がある(下記コラム10参照)。

今後は、対象ごとに就職活動の段階を意識した情報発信を行うとともに、インターンシップの一層の活用を推進していく必要がある(図3)。

就職活動の段階を意識した募集・採用活動のイメージ(総合職春試験の例)

【コラム10】クチコミで見る学生等の評価の推移

株式会社ワンキャリアが保有する就職活動中の学生によるクチコミ(評価)を用いて、中央省庁(クチコミが寄せられた17省庁)のクチコミ(評価)を集計した。その結果、「中央省庁」に対して、説明会・セミナー時(「興味・関心」の時期)は一定程度高い評価を得ていたが、インターンシップ、本選考と段階が進むにつれて評価が下がっていた。「総合・ITコンサル」、「総合商社」については就職活動の段階が進むにつれて、評価が上がっているのと対照的である。

なお、インターンシップ後のクチコミのうち、「自己成長の機会」の項目について、中央省庁、総合・ITコンサル、総合商社を比較すると、中央省庁は最も低い評価であった。

【中央省庁のクチコミ推移】

今後は、インターンシップ時(「比較・検討」の時期)から「申込・受験」の時期の間における国家公務員の魅力発信をより的確に行うことで学生の志望度を高め、採用試験の申込みにつなげていくことが重要であると考えられる。

(4)発信方法

人材確保活動は、人事院が主催するイベントのほか、大学や民間就職支援会社が主催するセミナーや合同業務説明会への参加、SNSの活用など、様々なチャネルを活用して実施してきている。今後も、対象や時期に応じて、引き続き効果的な手法を検討・選択していく。

また、採用情報を掲載するホームページやSNSなど、学生等とのタッチポイント(接点)も、国家公務員のイメージや志望度に大きな影響を与えていると考えられる。そのため、採用情報を掲載する人事院のホームページについて、学生等が求める情報に容易に到達できるようユーザーの視点に立ったリニューアルを行うなど、受け手に与える印象を意識した見直しを行っていくこととする。

さらに、これまでの情報発信は、イベントへの参加やホームページの閲覧、SNSのフォローなど、学生等の側による積極的な行動を必要とするものが中心であった。今後は、元々国家公務員に関心のない者にも情報が届くよう、例えば、現役職員が出身校等を訪問して魅力を発信するなど、公務側からの能動的な取組を強化していくことが重要である。

なお、学生等に対して国家公務員に関する情報を発信する主体として、保護者、学校関係者、就職支援企業、公務員試験予備校関係者など、学生等の周囲の者の影響も無視できない。今後は、学生等に対する直接のアプローチのみならず、学生等の周囲の者に向けて国家公務員の魅力を発信する取組も進めていく。

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