第1編 《人事行政》

【第2部】 魅力ある公務職場の実現を目指して

第3章 調査結果から明らかになった公務職場の課題

第2節 人事管理における現下の課題

2 処遇に対する意識

【職員の人事管理】の領域のうち、給与、福利厚生、退職後の生活など、広い意味での国家公務員の処遇に関わる分野については、必ずしも職員の納得が得られていない。

「給与の満足度」、「福利厚生の満足度」、「退職後の生活の安心感」はいずれも「人事制度による動機づけ」との間に中程度の相関があった一方で、それ以外の質問項目との間には相関がなかったことを踏まえれば、これらは、職員の勤務意欲を下支えする基礎的な要素であるとの解釈も成り立つことから、職員が安んじて職務に精励できるような環境整備をいかに確保するかは非常に重要な課題であると考える。

(1)給与や福利厚生に対する意識

「給与の満足度」は否定的な傾向が見られた。給与については、人事院において、国公法に定める情勢適応の原則に基づき、国家公務員の給与水準を民間の給与水準に合わせるとともに必要な給与制度の見直しを勧告してきている。民間準拠により給与を決定する仕組みについては様々な意見があるが、現在の仕組みは長年にわたって定着してきたものとなっている。職務に精励している職員に適正な給与を支給することは、職員の努力や実績に報いるとともに、人材確保や組織活力の向上にも資するものであり、引き続き職員の適正な処遇を確保していく必要がある。

また、「福利厚生の満足度」は、属性にかかわらず否定的な傾向が見られた。質問においては、宿舎、食堂、託児施設を例示していたことから、国家公務員の宿舎への入居など、主に施設面に不満があるのではないかと考えられる。

福利厚生については、職員の経済的、文化的、精神的生活の向上に役立つ施策や活動と解されている。福利厚生は、民間企業においても、従業員の生活の向上の観点から重視されており、様々な従業員の支援策が講じられているが、国公法により一定の福利厚生を確保することが求められていることからすれば、公務においても民間企業に比べて遜色のない福利厚生を確保する必要があり、職員からの意見を聴取するなど、まずはニーズの把握に努めていくことが必要である。

(2)退職後の生活に関する意識

前述のとおり、「退職後の生活の安心感」は全質問項目のうち最も否定的な傾向が見られ、半数近い職員が退職後の生活に不安を感じていることが分かった。質問項目が包括的な表現となっているため、どのような点に不安を感じているのかについては明らかではなく、自身の健康、親族の介護、経済面など様々な要因が考えられる。

この点について、平成26年に人事院が実施した「退職公務員生活状況調査」によれば、定年退職した職員が今後の生活について不安に思うこととして、自分や家族の健康に関する割合が高くなっているほか、「日常の生活費などの家計」が62.6%、「住宅の取得、ローンなどの返済」が13.4%など経済面での不安も挙げられている。

また、第1章第2節4(2)で述べたように、今回の調査結果によれば、再任用職員は、仕事に必要な権限が十分に付与されず、上司からの積極的な関与もないとの傾向から、再任用職員の職務が長年にわたって培った専門性や経験をいかせないものとなっていると考えられる。このような結果は、前出の「退職公務員生活状況調査」において、再任用という働き方の課題や問題点として、「期待されている役割があいまいで、戸惑うことがある」が34.3%、「定年退職前のようにモチベーションを維持できない」が34.0%となっていることとも符合している。

さらに、退職後の生活には、再任用の在り方も関連すると考えられる。国家公務員の雇用と年金の接続については、当面の措置として、再任用希望者を原則としてフルタイム官職に再任用するものとされているが、平成27年度に再任用された給与法適用職員9,657人のうち、フルタイム勤務の職員が2,655人、短時間勤務の職員が7,002人となっており、現状では短時間勤務となる再任用職員が相当程度存在している。再任用については、フルタイム官職への任用が実現できるよう、過渡的な定員増に対応できる弾力的・時限的な定員上の工夫を講じる必要があると考える。

人事院としても、定年延長を求めた平成23年の意見の申出を踏まえつつ、60歳を超える職員の勤務形態に対する多様なニーズも踏まえた定年延長に向けて、計画的に取り組むことが必要と考える。

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