第1編 《人事行政》

【第2部】 魅力ある公務職場の実現を目指して

第3章 調査結果から明らかになった公務職場の課題

第2節 人事管理における現下の課題

1 若手職員の意識と職場における人材育成

(1)能力開発や専門性習得

【職員の人事管理】の領域の中で否定的な傾向が見られた質問項目に「キャリア選択の機会」と「異動における適性・育成の考慮」がある。このことから、自分が重要と考える能力や専門性の方向性が人事異動において考慮されていないと感じている職員が多いと考えられる。

この2つの質問項目については、管理職層や高齢層の職員と比べて、係長級職員や30歳台の職員の否定的な傾向が強くなっている。こうした層の職員の場合、今後の職業生活において、どのような方向を目指していくのかが本人も含めて明確になっていないこともあって、人事異動において自分の能力開発や専門性の習得が考慮されていないと不安に感じるようになるのではないかと考えられる。

その要因の一つとしては、こうした層の職員が、まだ十分な職務経験を積んでおらず、人事異動により様々な部署を回り、経験を重ねながら、能力開発や専門性の習得を行っていく段階にあることが挙げられる。公務においては、その能率的な運営を確保する観点から、様々な分野ごとに、その分野で必要な専門性・スキルを持った職員を育成する一方で、内外との調整を含め、行政課題を大局的に判断できる職員を幹部職員や管理職員として育成するため、人事当局主導で長期的・計画的な人材の育成と選抜を念頭に置いた人事配置が行われてきている。したがって、短期的に職員の希望に沿えないことはやむを得ない面があるとしても、職員としては、自分の希望も踏まえながら将来的な配置先や能力開発・専門性習得の方向性について相談する機会を設けてほしいと思っているのではないかと考えられる。

(2)自分の仕事の意義付け

我が国の公務においては、職員の能力開発や専門性の習得は主として仕事を通じて行われている(OJT)。そこで、まず、仕事に関係する【仕事のやりがい】の領域について見てみると、全般的には肯定的な評価がなされているが、係員級職員や係長級職員については、やや否定的な傾向が見られる。

第1章第2節2(3)で述べたとおり、仕事のやりがいは、上司から挑戦しがいのある仕事を任され、納得して仕事に取り組み、自分が成長することで感じられるものであると考えられる。

そこで、関連する質問項目を見てみると、「組織方針の浸透度」、「組織方針の実践」、「業務課題の明確化」、「業績目標の納得感」、「業績目標のチャレンジ性」、「仕事におけるチャレンジ」、「今の仕事のやりがいの実感」については、管理職層の職員と比べて、係員級職員や係長級職員は否定的な傾向が強くなっている。

本府省の係員級職員や係長級職員は、制度運用、国会対応、予算要求・執行などの業務を日々大量にこなしていることが多い。また、公務は組織により運営されており、職制段階が下になるにつれ業務が細分化されていくことから、係員級職員や係長級職員には、組織方針を意識できるような業務ではなく、定型的・断片的な業務が配分されやすいこと、組織方針と自分の業務課題との関係を認識できる機会が少ないことなどから、自分の仕事が組織の中でどのような位置付けにあり、どのように組織に貢献しているのかを意識することは少ない。こうしたことが、調査結果の背景にあるのではないかと考えられる。

単に作業をこなすだけで、仕事の意義を考え、仕事にチャレンジする機会がなければ、そこに仕事のやりがいを見出すのは難しく、その結果、仕事を通じて能力や専門性が高まっているとは感じにくくなっているものと考えられる。

(3)OJTを取り巻く問題

係員級職員や係長級職員を中心として、仕事のやりがいを高め、仕事を通じた能力開発や専門性習得を十分にフォローアップするためには、OJTの充実・強化が不可欠である。

そこで、OJTに関連する質問項目である「状況に応じた業務配分」、「積極的な助言・指導」、「仕事の結果に対する称賛」などが含まれる【上司のマネジメント】の領域について見てみると、全般的に、課長級職員には肯定的な傾向が見られる質問項目が多かったが、係長級職員にはやや否定的な傾向が見られる質問項目が多く、係員級職員には中立的な傾向が見られる質問項目が多かった。このことから、OJTの実施について、係員級職員は、第1章第2節4(2)で述べたことと同様、育成の観点から一定の配慮を受けているものの、係長級職員と上司である課長級職員との間には認識のギャップがあるものと考えられる。

また、OJTにおいては一般的に、部下に試行錯誤をさせて、その結果に対して上司が助言・指導を行うことから、その分、業務量が増加することは否めない。この点、「業務量の許容度」については肯定的な傾向が見られるものの、「業務量に応じた人員配置」については否定的な傾向が見られ、職員自身は何とか業務を処理できているが、これ以上の負担は許容できず、OJTを行う余力に乏しいという状況にあることが推測される。これは、平成27年度の年次報告書において指摘した国家公務員の年齢別人員構成の偏りによる若年層の能力開発不足と相談相手の不在等の問題の存在を示すものとなっている。

したがって、業務量に見合った人員配置がなされない場合には、中長期的に見て、OJTによる職場における人材育成力を損なうおそれがあり、このことは、将来にわたる行政のパフォーマンスを維持する観点からも重要な問題である。

(4)対応策

係員級職員や係長級職員の業務が定型的・断片的になるのはやむを得ない面がある。そのような中でも、分担する仕事の行政における位置付けや意義を明らかにして、係員級職員や係長級職員が積極的に業務に取り組むことにより、OJTの効果を上げて能力や専門性を高めるとともに、能力開発や専門性習得の方向性を示していくことが重要である。

ア 仕事の意義の明確化

仕事の意義は、上位組織の方針を下部組織の業務課題にブレークダウンし、更にそれを職員の業務目標にブレークダウンし、職員がその業務目標の内容に納得するということで明確になると考えられる。そのためには、年に2回ある人事評価の業績目標を設定する機会を十分に活用することが望まれる。

現行の人事評価マニュアルにおいても、「組織として達成すべきミッションを踏まえて、個々の職員の目標が設定される必要」があるとされており、各職場において、組織方針・業務課題を明確化・共有した上で業績目標を設定するとともに、面談の機会を活用して、業績目標の組織における位置付けを明らかにし、業績目標の達成に向けたプロセスや個々の職員に求める具体的な役割を確認することなどが行われているが、こうした取組を一層徹底して、仕事の意義を明確にしていくことが重要である。

また、仕事のやりがいを高めるためには、係員級職員や係長級職員にチャレンジの機会を与えることが重要であることが明らかとなった。もっとも、ここでいうチャレンジとは、未知の困難な課題に立ち向かうというよりも、日々の業務を行う中で少し難しいことに取り組むということが実状に近いことからすれば、日々の業務遂行の指針となる業績目標にチャレンジ性を持たせることが適切である。したがって、本人の能力の伸長につながるような業績目標を設定し、それを困難度の高い目標と位置付けた上で取り組ませることも重要である。

イ OJTの強化

OJTにおいては、業務上の課題を機械的に処理させるのではなく、定型的な業務の中にも課題を見出し、積極的に見直しに取り組ませることが重要であり、上司が職員の能力や適性を考慮して、少し背伸びが必要な業務を付与する必要がある。また、報告、連絡、相談の機会を通じて、部下の試行錯誤に対して丁寧な指導を行うことが肝要である。

そのためには、マネジメント能力の向上を図る必要があるところ、管理者である課長級職員を対象としたマネジメントに関する研修はこれまでも実施されてきている。ただ、一般的に本府省の業務においては、係員級職員や係長級職員と日常的に業務において直接関わるのは、係長級職員や課長補佐級職員であることが多いが、これまで、そういった層の職員にはOJTを含めた部下や後輩の育成について学ぶ機会が十分付与されておらず、業務の都合を優先させた業務配分や指導が行われている可能性は否定できない。したがって、職場における人材育成を機能させるためには、早い段階からOJTなど人材育成についての意識や能力の向上を図る取組を行う必要がある。

また、係長級職員や課長補佐級職員は日々の業務に追われ、きめの細かいOJTを実践する余力が少なくなっていることから、比較的業務に余裕があり、知識や経験が豊富な再任用職員に知識や経験の伝承等の役割を与えることは有益であると考える。

さらに、「仕事の結果に対する称賛」は【仕事のやりがい】の領域に属する全ての質問項目との間に中程度の相関があったことから、評価結果の開示や助言・指導の際などにおいて、上司は部下の成果や長所を具体的に明示して褒めるということにも留意すべきである。

ウ 職業生活を考える機会の提供

能力開発や専門性習得への不安を緩和するためには、上司や人事担当者が、育成段階にある職員に自らの能力開発や専門性習得の方向性、ライフプランについて考える機会を与え、将来の目標について面談・助言を行い、必要に応じて、ロールモデルやメンターを紹介するなどして、職場としても、職業生活における展望や目標を与え、能力開発や専門性習得の意欲の向上を図っていくことが有効であると考えられる。

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