(1)タレントマネジメントシステム導入の背景
旭化成株式会社では、同社の人材戦略において、不連続かつ予測困難な事業環境の変化に適応し先手を打っていくためには、「①従業員一人ひとりが挑戦・成長し続ける『終身成長』、②同社グループの多様性を活かし、コラボレーションを推進する『共創力』」の二つの視点が重要である点を示している。この2点を推進する上では人材に関する情報の可視化が必要と判断し、令和4年7月にタレントマネジメントシステムを導入した。
(2)タレントマネジメントシステムの活用状況
同システム導入以前は評価歴、異動歴、教育研修受講歴といった従業員に関する様々な情報が社内に散逸していたが、同システムを導入し、それらの情報を一元的に管理できるようにした。また、従来、従業員の職務経歴等は上司や人事担当者のみが閲覧可能で、本人は自分の過去の職務経歴を閲覧することができなかったが、従業員の自律的なキャリア形成を支援する同社としての「今後のキャリアを検討する上では、まず自分で自分の過去のキャリアを振り返ることが重要」との考えの下、同システム上では、それらの情報を自ら確認できるようにした。さらに、以前は上司が部下の職務経歴、キャリア希望、業績目標、強み、専門性といった情報からキーワード検索することができず、必要の都度、上司から人事担当部局に照会することとなっていたが、同システム導入後は上司が自身の部下情報からキーワード検索し、必要な人材を探すことができるようにしている。なお、事業部長級以上の層については、同システムにおいて全社規模での人材検索や課長級・部長級ポジションの後継者計画を行うことができるようにしている。
また、同社では年に2回、従業員各人の将来のキャリアに関し上司・部下で話し合う場を設けている。その際に用いる「キャリアデザインシート」も同システムに蓄積され、上司・部下が随時振り返ることができる。
(3)人と組織の状況を可視化するサーベイの取組
同社は令和2年から、人と組織の状況を調査(サーベイ)により可視化する取組を毎年実施している。本サーベイは、同社の中期経営計画で掲げる「人と組織の活力向上」に資する調査とする観点から、従前から3年に一度行ってきた「従業員意識調査」の頻度や内容を抜本的に見直し、新たに開発したものである。
本サーベイによって、①上司・部下関係、職場環境、②個人の活力、③成長につながる行動の三つの状態を可視化している。サーベイ結果は所属長だけではなく課員にもフィードバックされ、職場において、その結果を基に上司・部下が対話することを通じて、人と組織の活力向上につなげることとしている。
なお、上記①~③について、「①が良好であれば②が向上し、③も向上する」という関係性が統計的に正しいことが、過去3回の回答データから検証されている。現在、本サーベイの結果を見た管理職層が自組織の課題を認識し自ら改善するというサイクルを組織に根付かせているところである。