3 民間企業への再就職

民間企業への再就職活動を行うに当たっては、自分が再就職をする目的の整理、公務で培ってきた価値観からの転換、企業が高齢者を採用する理由の理解、他人に依存しない行動力などが求められます。これらを身につけるためには、再就職に向けての意欲と前向きな気持ちを持ち、意識改革を早いうちから進めていくことが重要です。

再就職活動を自力で行うことは容易ではありません。どこかに就職できるだろう、どこかに就職できればいいという安易な気持ちでは、仮に再就職できたとしても不満や悔いが残ることになりかねません。
 
再就職活動は、十分な準備をして臨み、次のような手順に従い、具体的な計画を立てて行うようにします。
 

【再就職活動の主な手順】


 


《再就職する際の心構え》

  •  民間企業の従業員に求められるものについての意識を持つ

営利を目的として効率性が強く求められる民間企業では、論理的な考えよりも行動が重んじられることがあります。公務で培った知識や経験を活用することも重要ですが、企業の論理に沿った行動を求められることを自覚し、柔軟に対応する必要があります。
  •  公務員の時とは立場が異なる
公務員時代に、法令、組織、役職などをバックに仕事をしていたことはありませんか。管理者としての立場から、部下に仕事を命じていたかもしれません。しかし、民間企業ではこのような公務員時代の立場は通用しませんから、自らが一従業員として、企業の方針などに沿って率先して行動することが求められることを自覚しなければいけません。
  •  給料が下がることを覚悟する
高齢者の再就職先は中小企業などが多くなっているのが現状で、場合によっては給料は大幅に下がります。企業規模や給料の額にこだわりすぎることなく、柔軟な気持ちで再就職活動に臨むことが、再就職の可能性を広げることになります。

(1) 再就職の目標設定

自分は何のために再就職するのかについて目的が明確になったら、次に目標を設定して「何がしたいのか」を考え、自分が就きたい仕事、職種を選定します。その中で、優先するものは何か、どこまで妥協できるのかなど、再就職に向けて具体的な方向性を決めていきます。


《目標設定の際のポイント》

ア 長年培ってきた経験が活用できるか

再就職先企業は、仕事のベテラン、即戦力として活躍できる人材を求めています。その期待に応えるためにも自分の職業能力や実務経験のレベルがどの程度であるかを認識し、「経験、知識を活かせる職場」を見つけることが、再就職する企業の理想的な選択につながります。

イ 意識改革ができるか、自らの価値観が受け入れられるか

民間企業の従業員となるためには意識改革が必要です。ただし、長年慣れ親しんだ公務員としての意識の中には、どうしても譲れない価値観があるかもしれません。そうした自らの価値観ができるだけ受け入れられるような目標を設定することも大切です。

ウ 労働条件について考える

雇用形態(正社員、嘱託)に応じた賃金、労働時間(フルタイム、パートタイム)、休暇、仕事内容、勤務地、雇用期間、社会保険、福利厚生、求められる資格・能力などについて確認します。確認しておきたい基本的な労働条件の例は、次のとおりです。

(ア)賃金・賞与
退職後の賃金によっては、老齢厚生年金の一部又は全部が支給停止になる場合があるので注意が必要です。諸手当については、勤務形態等により支給の有無が異なります。
なお、賞与、退職金の有無について、採用時に明確な提示がない場合は、確認することが大切です。       
(イ)労働時間
労働基準法では、原則として休憩時間を除き1週間につき40時間、1日につき8時間までです。
(ウ)有給休暇の付与日数
労働基準法では、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して10日、その後、勤務年数に応じて11~ 20日(フルタイムの場合)が付与されます。
(エ)雇用年齢の上限
一般的に多いのは65歳です。
(オ)契約の更改
一般的には1年ごとが多く、有期労働契約の期間の上限は、原則3年(例外として、満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約の場合は、5年)です。
(カ)解雇予告の期限
労働基準法では30日前ですが、企業側の都合による場合は、一般的には、3か月前とされています。
(キ)企業による定期健康診断の受診
一般的には、受診できることが多いようです。
(ク)その他
勤務するに当たって気になる点があれば事前に確認することが大切です。

エ  通勤の困難度を考慮する

若い頃に比べると気力や体力は確実に衰えてきています。遠距離やラッシュ時の電車通勤に耐えられるかなど、通勤にかかる負担と自らの健康状態等を考慮して再就職を検討することも必要です。

オ 家族は納得しているか

再就職活動には、家族の協力が不可欠です。家族の意見を聞き、よく話し合い、目標を達成するための理解、協力を得ます。
 

(2) 能力・適性の自己分析

自分を見つめ直さなくてもできるような再就職先はないといってよいでしょう。これまでの公務員生活を振り返りながら自己分析を行うなど、自分の能力や適性を把握して現状を認識する必要があります。客観的に自分の職業能力(注)を理解し、「何ができるのか」を明確にして、それがどこまで民間企業で通用するかを知るとともに、自分の価値観に合った仕事を見つけるように努めます。

また、自分の能力や適性を客観的に知るには、ハローワーク等のインターネットの情報サイトなどを利用して、職業適性検査、職業興味検査、性格検査等をすることもできます。ハローワークの職業指導官や職業紹介事業者のキャリアカウンセラーなどから助言を受けるのもよいでしょう。自分では気付かなかった職業能力や職業適性が新たに判明し、目標とする仕事の発見、拡大にもつながることもあります。

 (注) 「職業能力」:
行動力、理解力、判断力、創造力、洞察力、調整力、統率力、交渉力、忍耐力、企画立案力、変化対応力、情報収集力、調査分析力、問題発見・解決力、人材育成力などの能力や、責任感、積極性、柔軟性、先見性、協調性、規律性などの適性


《自己分析シートの作成》

仕事の上でこれまで何をしてきたか、何ができるかを確認し、自分を見つめ直すために「自己分析シート」を作成するとよいでしょう。これは、自分自身の職業生活の棚卸しとして、これまでの実績を振り返り、自己を評価するものです。現在から過去にさかのぼると書きやすいようです。

自分を客観的に見つめ、業務遂行の実績の中から、得意な仕事をいくつか選択し、それらの中でも、自分の創意工夫などにより大きな成果を上げ、同時にやりがいを感じた仕事を改めて認識することが、再就職活動を行うに当たっての目標の設定に有用です。

ア 従事した職務を書き出す

各部署での職務の範囲、担当した職務内容を、その背景(どのような上司、部下がいたか、職場環境や時代背景など特に記憶に残っていることなど)を基に、時系列で書いていきます。

イ どのような実績や成果を上げたか

従事した公務での各職務の中で、どのような実績、成果を残すことができ、どのような能力が向上したか、得意な仕事や適性、自分の強み、職業人としての自分を簡潔明瞭に表現できるものは何か、どのような職務でやりがいを感じたかを具体的に書き出します。
     
ウ そのような結果はどのようにして出せたのか

公務能率の向上や職場環境の改善につながったものは何か、成果を上げるために工夫したこと、心掛けてきたことは何か、職務上貢献できたことは何か、それらに役立った知識やその成果を通じて身に付いた能力は何か、再就職先でどのように活用できるかなど、職務の上でアピールできることを明確にしていきます。

 
 (3) 必要なスキルアップ

何ができるか、民間企業でどんな貢献ができるかを認識し、職業能力を高め、できることのレベルアップに努めます。同時に、不得手なことやできないことは何かを考え、それをどう補うかの対策を立てることも必要です。

また、民間企業の業種や職種が未経験のものであっても、自分の経験の中で生かせるものを探してみるといった「キャリアの読替え」をしてみることも有用です。


ア 自己啓発や学習活動の成果を資格などの形で残す

自己啓発や学習活動は、再就職に役立つ「資格取得」という明確な目的意識を持って行います。資格や免許などを得ることができれば、再就職するための有効な手段になりますし、また、資格取得のために学校等に通うことで、再就職に関する情報や仲間を得ることもできます。

イ 資格だけ持っていても再就職には結びつかない

再就職では、資格や免許などに基づいた「実務経験」が重視されることがあります。その意味でも、できるだけ早い時期から公務でも活用できる資格などを取得して、実際に実務に反映させて経験を積むことも必要になってきます。求人企業が考えている即戦力とは「実務経験に裏付けされた職業能力」です。

ウ 資格、実務経験、強みなどの新たな組合せを考えてみる

一つの資格、実務経験だけでなく、いくつかの資格や実務経験を組み合わせることによって、求人企業にとってより魅力のある人材になることができます。どのような能力、経験の組合せが望ましいかなども考慮に入れて、スキルアップを図ります。

エ 強みを伸ばし、弱みを克服する

公務での実務経験などから得た自分の職業能力の強みと弱みを自覚し、強みについては更に伸ばすことによってよりアピールできるものとし、弱みについては弱みとならない程度にまで克服することを心掛けます。

オ 新しいものから逃げない

再就職に当たっては、パソコンなどのOA機器の操作ができるかどうかを問われることがあります。電子メールやインターネットはもちろん、パソコンの操作も、文書作成ソフトを用いた文章作成だけでなく、表計算ソフトの習得は不可欠となっていますし、データベース管理ソフトなども利用することができれば再就職で有利になります。日頃からOA機器の操作に慣れ親しんでおくことに加え、新しいものから逃げない姿勢が大切です。
 
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(参考1)【社会全体の高齢者雇用の状況】(PDF) : 労働力人口、完全失業率、有効求人倍率、賃金相場
 

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