第1章 定年後を考える

1 定年がもたらすもの 

現行の定年制度 ▶ 定年の段階的引上げ開始以後の制度 ▶ 生活環境の変化  ▶ 平均余命  ▶ 健康寿命
 

(1) 現行の定年制度

ア 定年年齢

令和4年度の国家公務員の定年は原則60歳で、具体的な定年退職日は60歳に達した日以後における最初の3月31日となっています。
ただし、次に掲げる職員については、別の定年年齢(特例定年)が定められています。

・ 病院、療養所、診療所等に勤務する医師、歯科医師等      65歳
・ 守衛、巡視、用務員、労務作業員、在外公館に勤務する職員等  63歳
・ 事務次官、外局の長官等                   62歳

なお、検察官の定年年齢は、検察庁法により定められています。

・ 検事総長      65歳
・ その他の検察官   63歳
 
イ 定年後の措置

定年退職者等を定年退職日以降も公務において勤務させる制度として、勤務延長と再任用があります。
 
(ア)勤務延長制度
職員が定年により退職すると、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情により、公務の運営に著しい支障が生じる場合、特例として当該職員を定年退職日の翌日以降も引き続き勤務させることができる制度

(イ)再任用制度
定年退職した者等を再び採用し、最長65歳(公的年金の支給開始年齢)に達する日以後の最初の3月31日以前まで任用することができる制度
 
(2) 定年の段階的引上げ開始以後の制度

ア 定年年齢等
令和5年度以降の国家公務員の定年は、平成30年8月に人事院が国会及び内閣に対して行った意見の申出に基づいて令和3年6月に成立した「国家公務員法等の一部を改正する法律」(令和5年4月1日施行)により、段階的に65歳に引き上げられることとなっています。

定年の段階的引上げ開始後も、勤務延長制度は存置されます(ただし、役職定年の特例との調整規定あり)。また、再任用制度は廃止されますが、定年の段階的な引上げ期間中は暫定的な措置として同じ制度が設けられます(暫定再任用)。

【段階的引上げ期間中の生年別対象職員の定年年度と暫定再任用対象期間】
 

(備考1)旧62歳及び63歳特例定年職員については、原則定年が旧特例定年年齢まで引き上がって以降は、原則定年の引上げに合わせて65歳まで引上げ。ただし、旧62歳及び63歳特例定年職員についても、就いている官職が管理監督職の場合には、管理監督職勤務上限年齢(旧特例定年の年齢)に達したときは、管理監督職勤務上限年齢による降任等を行うこととなります。

(備考2)医師、歯科医師のうち、矯正施設等に勤務して医療業務に従事する医師、歯科医師(人事院規則11―8第2条)については、65歳から70歳まで定年年齢が段階的に引上げ(新特例定年)(それ以外の医師・歯科医師は令和5年4月から定年は65歳。)。

イ 定年の段階的引上げに伴う措置

定年の段階的引上げに伴い、以下の措置が講じられます。

① 役職定年制(管理監督職勤務上限年齢制)の導入
組織活力を維持するため、管理監督職(指定職及び俸給の特別調整額支給官職等)の職員は、60歳の誕生日から同日以後の最初の4月1日までの間に、管理監督職以外の官職に異動(降任等)させるもの
役職定年による異動により公務の運営に著しい支障が生ずる場合に限り、引き続き管理監督職として勤務させることができる特例も措置
 
② 定年前再任用短時間勤務制の導入
令和5年4月1日以降、60歳に達した日以後定年前に退職した職員を、本人の希望により、短時間勤務の官職に採用することができる制度
 
③ 60歳に達した職員の給与
当分の間、職員の俸給月額は、職員が60歳に達した日後の最初の4月1日以後、その者に適用される俸給表の職務の級及び号俸に応じた額に7割を乗じて得た額とする措置(役職定年により、降任、降給を伴う異動をした職員の俸給月額は、管理監督職勤務上限年齢調整額と合わせて異動前の俸給月額の7割水準)
 
④ 60歳以後定年前に退職した者の退職手当
60歳に達した日以後に、定年前の退職を選択した職員が不利にならないよう、当分の間、「定年」を理由とする退職と同様に退職手当を算定
 
ウ 情報提供・意思確認

職員が59歳に達する年度には、任命権者が職員に対して、
・60歳に達する日以後に適用される任用、給与、退職手当の制度に係る情報提供をすること
・60歳の誕生日以後の勤務の意思(又は退職の意思)を確認するよう努めること
が義務付けられる制度が設けられます。

定年の段階的引上げに伴って、61歳となる年度以降は俸給月額が7割水準となることや、管理監督職の職員にあっては役職定年の対象となるなどの60歳以降に適用される制度が大きく変わることになるため、職員は、
・引き続き常勤官職での勤務を希望するか
・一旦退職した上で定年前再任用短時間勤務を希望するか
・退職するか
を選択して、その意思を表明できることになりました。
 
(参考)民間企業における高齢者雇用の状況
民間企業では、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)により、①65歳までの定年の引上げ、②65歳までの継続雇用制度の導入、③定年の廃止のいずれかの措置を実施しなければならないこととされており、多くの企業において、継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度等)が措置されています。

さらに、令和3年4月1日からは、65歳から70歳までの就業機会確保措置(定年引上げ、継続雇用制度の導入、定年廃止、労使で同意した上での雇用以外の措置(継続的に業務委託契約する制度、社会貢献事業に継続的に従事できる制度)の導入のいずれか)を講ずることが企業の努力義務とされています。

なお、人事院が実施した「令和2年民間企業の勤務条件制度等調査」によれば、大部分の民間企業(99.5%)で定年制を定めており、そのうち60歳を定年年齢としている企業は約8割(81.1%)となっています。
 
 
(3) 生活環境の変化

「60歳で定年退職し、その後は完全リタイアして年金を受給しながら悠々自適の生活」というのは遠い過去のものとなりました。公的年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられて無年金期間が拡大し、また、平均寿命も延びている中で、官民を問わず、60歳を過ぎても、更に公的年金の支給開始年齢に達しても引き続き働くという人が増えています。

60歳を過ぎて高齢期になっても引き続き働くのであれば、生活はそれまでとあまり変わらないと思われるかもしれませんが、定年の段階的引上げの対象者であっても、役職定年による組織内での役割変更や俸給水準の減少という大きな転機を迎えた後ですから、生活には変化が生じます。また、いずれ完全リタイアする生活は必ず訪れますし、その時には、生活環境が更に大きく変わります。

これらの変化への対応は一朝一夕にできるものではありません。今から様々な変化を想定し、退職後を含めた長い後半生が、充実したものとなるように準備することが大切です。
 
ア 収入が減る

定年の段階的引上げに伴う役職定年や60歳過ぎの俸給月額の7割水準措置、公的年金の支給開始年齢の65歳への引上げ等を背景に、公的年金の支給前に働かない場合には無収入となり、公的年金支給開始まで暫定再任用等を含めて公務での勤務を継続したり、民間企業へ再就職したりしたとしても、60歳以前に比べて収入は減少局面に入り、退職後(完全リタイア後)は大幅に減ります。
 
イ 自由に使える時間が増える

完全リタイア後はもちろん、定年前再任用短時間勤務職員や暫定再任用短時間勤務職員となる選択をする場合においても、60歳までのフルタイム勤務と比べて拘束されない時間が大幅に増えます。
 
ウ 家族と接する時間が増える

自宅で過ごす時間が増えることにより、それまで気付かなかった家族の姿や人間関係が否応なく見えてきます。ともすると家族の方も、皆さんの在宅時間が増えることにより、困惑することがあるかもしれません。

エ  主な活動領域が居住地域になる

退職後は、職場から家庭、地域などに生活の軸足が移ります。そのため、地域にいかにスムーズに溶け込めるかということが大切になります。

オ  公務での価値観や肩書きが通用しなくなる

完全リタイア後は、公務に対していかに強い思い入れがあっても、そこから離れて一個人に戻ることになります。在職中の肩書きは通用しなくなりますし、これまでの言動のよりどころであった公務での価値観の転換を迫られるケースもあると思います。

カ  公務での人間関係が徐々になくなっていく

公務の職場を離れると、これまでに築いた職務上の人間関係が徐々になくなっていきます。そのために、体験したことのない孤独感や寂りょう感にさいなまれることもあります。

キ  副次的な避難場所がなくなる

退職前は、職場という場所が、家庭や居住地域での煩わしい事柄からの避難場所になっていたケースがあるかもしれませんが、退職後は、このような副次的な逃避場所がなくなります。
 

(4) 平均余命

令和2年の「完全生命表」によれば、日本人の平均寿命(0歳時点での平均余命)は、男性が81.56年、女性が87.71年でした。現在の一般的な定年年齢である60歳時点での平均余命は、男性が24.12年、女性が29.42年でしたが、平成27年の「完全生命表」において、男性が23.51年、女性が28.77年であったことからすると、徐々に延びる傾向になっています。

また、国家公務員の延長後の定年年齢である65歳時点での平均余命は、男性が19.17歳、女性が24.88歳となっています。
 
【日本人60歳の平均余命の推移】

                                                                                                         資料:厚生労働省「完全生命表

近年は「人生100年時代」を迎えるといわれており、60歳、65歳というのは、人生の中間点を経たばかりの通過点に過ぎません。人生をより意義あるものにするためにも、60歳以降の高齢期、特に定年後の生活をいかに充実したものとして過ごすかが重要となってきます。
 

(5) 健康寿命

健康寿命とは、人の寿命において「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間の平均」のことです。令和元年の健康寿命は、男性が72.68年、女性が75.38年となっています(厚生労働省発表)。この健康寿命を同じ年の平均寿命(男性81.41歳、女性87.45歳)と比較すると、健康寿命は平均寿命より男性が約9年、女性が約12年短くなっています。

どんなに平均寿命が延びても、自立した生活ができなければ、満足のいく生活を送ることができません。退職後も健康を維持し、健康寿命を延ばすことが重要になってきます。

【健康寿命と平均寿命の推移】

※平均寿命:平成13・16・19・25・28・平成元年は、「簡易生命表」、平成22年は「完全生命表」
                            資料:厚生労働省 第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会
 

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(参考情報)健康寿命を延ばすには(PDF)(特定非営利活動法人日本成人病予防協会 専務理事 安村禮子)
(参考サイト)

1)国家公務員の定年制度・施策及び今後の動向

   定年・再任用のページ

2)民間企業の定年

   高年齢者雇用安定法「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止(厚生労働省HP)
   高年齢者雇用確保措置の実施状況(厚生労働省HP)
   民間企業の勤務条件制度等調査結果 出典[人事院」
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